メカクレメガネっ娘がラーメンをすすっている。食べづらそう。

 クラスメイトの夕凪ユウナギ アヤメさんが、ラーメン屋でみそラーメンをすすっていた。

 フーフーしながら、麺をすすっている。


 夕凪さんは、「メカクレダウナー系メガネっ娘」として、クラスで密かに人気があった。

 といってもボクだけにだが!


 クラスではまるで目立たず、いつも一人で読書をしている。

 集団行動をよしとする女子の間でも、誰ともつるむことがない。

 そこそこの距離を保ちつつ、目立とうともしない孤高の存在だ。

 

だからだろう。一人でラーメンを食べるのも、まるでためらいがなかった。

 出されたらすぐに食べ始めた。

 SNSにアップしたりもしないのか、スマホで写真も取らない。


 しかし、食べづらそう。


 これは……髪をアップにするよね!


 そう。ボクは夕凪さんが髪をアップにする一瞬を見たいのだ。


 別に、見たいから見ようとしている。

 見て、どうこうしようなんてことはなかった。

 夕凪さんに好意を持っているとか、おちょくりたいとかではない。

 単なる好奇心である。

メカクレの女子が、髪をアップにしたらどんな顔なんだろうと。


 ちなみに、尾行していたわけじゃないぞ。

 夕凪さんの方が、ボクの後から入ってきたんだ。

 ボクは用事があって電気街に寄って、お腹が空いたからラーメン屋に入っただけである。


 夕凪さんの荷物入れには、カバンの他に、小さな包みが置いてあった。

 買い物帰りなのかな。


 おっと、カチューシャ出した! これは!


「おーう。腹減ったな」


 ヤバイ。クラスの陽キャ軍団だ。

 券売機でラーメンセットのチケットを買っている。

 今はまだ、彼らに夕凪さんの存在がバレていない!


「ダメだ。夕凪さん。今は顔を隠して」

「え、え? 原田くん?」


 急にボクみたいな陰キャに声をかけられて、夕凪さんがあたふたしていた。


 さりげなく、ボクは券売機を差す。


 陽キャ軍団に夕凪さんの素顔なんかバレたら、絶対に惚れられてしまう!

 ダメだ。夕凪さんの素顔はボクだけのものなんだから。


 しかし、夕凪さんはなんのためらいもなく前髪をアップにした。


 うわあ、めっちゃ目がキレイ!


 夕凪さんは、キラキラした目を丼にうつす。

 直後、豪快に麺をズゾゾって食べ始めた。


「ほら、原田くんも。わたしのヘアゴム貸してあげるから」


 頼んでもいないのに、夕凪さんはチャーシューをくわえながらボクの頭にゴムタオルを通す。すぐに、ボクのおでこをアップにする。

 

 実は、ボクもメカクレなのだ。

 

「えっ、どうして? 顔がバレたらからかわれたりしない?」

「相手は、わたしたちのメカクレ状態しか知らないよ」


 そっか! 

 髪をあえて上げていたら、かえってボクたちだって気づかないかもね。


 なら安心だ。

 ボクは前髪を持ち上げて、ラーメンを食べ始めた。


 案の定、陽キャ軍団はボクたちに何の注意も払っていない。

 彼らは、彼らで楽しめ。


 ボクは、夕凪さんのきれいな目を堪能するから。


「ねえ原田くん?」


 食べ終わって、夕凪さんがボクに話しかけてくれた。

 

「うん、どうしたの?」

「さっきはありがとね」

「いいよ全然。こちらこそありがと」


 そこから、会話が途切れてしまう。


「ゆ、夕凪さん、どうしちゃったの?」


「い、いや、目……キレイだなって」


 なんでだろう。

 夕凪さんに見つめらると、前髪をおろしたくなくなったんだけど……。

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