「第二ボタンください!」「アタシ女子ィ!」

「先輩、第二ボタンください」

「あのアタシ女子なんだけど!?」


 後輩のミユから、第二ボタンをくれと言われた。

 だが、アタシは残念なことに女子である。身につけているのも、セーラー服だ。

 バスケでも活躍し、イケ女子と言われ続けていたのは感じていたが。 

 

「お前、わかってて聞いてんのか?」

「はい。ください。お金ならいくらでも出します」

「スカーフじゃダメ?」

「スカーフもください」


 じゃあ、スカーフを。

 だが、それでも引き下がってくれなかった。


「コートの第二ボタンじゃダメ?」

「それ込みで第二ボタンください」

「現金!」


 マジか。どんだけ人のモンがほしいんだ?

 物欲の塊か?


「あとでメルカリで売ったりしない?」

「ありえませんよ! 神棚に飾ります」

「神なのアタシ!?」

 

 どこまでカリスマだったんだよ、アタシって。

 


 しかしどうするかな。

 スカーフもコートのボタンもあげちゃったが、肝心の学ランがない。


 他の知り合いは、もうあげちゃった後だった。

 バスケ部だしイケメン多いんだよなー。

 

 誰か、心当たりは……いたわ。


「おい五十嵐」


 アタシは、独特の空気を放つボッチのデブに声をかける。

 

「うん?」


 ウチのクラスには、わが校随一の非モテで、孤高の存在がいたっけ。


「お前もともと、第二ボタン外していたよな? くれないか?」


 こいつはいわゆる「恋人募集中」で、最初から第二ボタンを外していた。

 そういうがっついた性格のせいで、高校三年間まるでモテなかったが。

 PCでミニゲームとか作れるヤツだから、大学でがんばれ。

 

「いいけど。え、なに? 付き合ってくれんの?」

「そんなわけないじゃん。第二ボタン欲しがっている後輩がいてさ」

「なんだ。でもいいや。持っててもしょうがないし」


 五十嵐が、第二ボタンをくれた。

 ちゃんと包んであるところが、五十嵐らしい。


「触っても大丈夫だよ。汚れてないどころか、触ってもないから」

「あんがと。じゃな」

「待って。百合百合風景見ていっても、いいかな?」

「うわーまじか」

「だってさ、女子同士のイチャイチャって、間近で見る機会なんてないじゃんか。大学行ったら、なおさらそんなチャンスないよ」


 そういうところが、気味悪がられるんだぞ、五十嵐よ。

 でもまあ、タダでもらうわけにはいかんか。


「わかったよ見ていけ」

「ういーす」


 アタシは、後輩のミユにボタンを渡す。


「はい。第二ボタン」

「わあい! ありがとうございます!」

「もういいか?」

「満足です!」


 ミユは、五十嵐のものでも構わず、ボタンをもらって喜んだ。

 アタシが触ったって、事実が必要なんだろうな。


「お礼します!」

「いいって」

「お金ならいくらでもあります! なんなら性転換できる手術費用も」

「マジいらん!」

「そうだぞマジいらん!」


 なんで五十嵐までキレてんだよ!?

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