チャイナドレスって、異世界が舞台だとなんて呼ぶの?

「ねえ、チャイナドレスって、異世界が舞台だとなんて表現する?」


 ノートPCのキーを叩きながら、チエ先輩がわたしに問いかけてきた。


「え、えーっと『貫頭衣』です」


 わたしも自分のPCで、自作をチェックする。

 たしかに、貫頭衣と書いていた。

 

「それだと、弥生時代の服装に近くない?」

「ですかねえ?」


 書いた当時は、適切な言葉が見つからなかったのである。

 語彙力が欲しい。

 

「そもそもさ、チャイナ服って呼び方も変って説もあるよ。チャイナ服って、本当は満州の生まれなんだって。だから、『満州ドレス』っていうのが正しいらしいの」

「なるほど」


 

 細かすぎる。


 だが、異世界には中国どころか満州もない。

 

 そんな服装を、異世界でどう呼称するか?


「漢服……はなんか雰囲気でないですね」

「男性の衣装だよね」

「アオザイも、なんか変ですよね」

「うん。全然エロくない」


 同じ構造でも、やはりズボンありと生足では格段に印象が変わる。

 民族衣装としては正しく、清潔感もあっていいのだが。

 

「もっとエロい雰囲気がほしい」

「こだわりますね?」

「チャイナドレスって言ったら、それなりにセンシティブじゃないと意味ないって思ってるから」

 

 スリットから太ももがドーン! というのが、チエ先輩の好みらしい。

 だよねえ。


「チエ先輩は、どう表現しています?」

「あたしは、旗袍チーパオって書いてる。 

「言葉の響きからして、なんか美少女が着てそう」

「でしょ? あたしも気に入ってる」


 チエ先輩は、あたしに耳打ちしてきた。


「ねえシホ、あたし今、演劇部からチャイナドレス借りてるんだけどさ?」


 チエ先輩が、部屋にある紙袋の中からチャイナドレスを出す。

 

「二人でさ、取材で着てみようよ」

「わお」



 ノリノリのチエ先輩を、後輩のわたしが止められるはずもなく。


「うおお、意外とピッチピチだね」


 ロングのドレスから、チエ先輩の細い太ももが覗く。

 

「すっごい恥ずかしいです。心もとない!」


 わたしは、ミニスカチャイナ服である。


「こんなん、どうやって動くんだろうね? スリットがあるから、動きが制限されることはないけど」

「スリットが仕事していないですよ。わたしの」


 あまりにも際どすぎて、しゃがむことすら困難だ。


「あんたシニョンつけなよ。ツインテだし」

「先輩も、ニーソはいてください」


 あたしは、シニョンをつけてツインテをおだんごにした。

 先輩も、白いニーソをはいてくれる。

 完璧だ。完璧すぎて死ぬ。


「で、取材っつってもなにしようかねぇ」

「小説書きましょうよ。公募まで時間ないですし」

「それなんだけどさ、あたしが書いてたの、ラブコメだったわ」

「チャイナドレス関係ないじゃないですかやだー!」

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