普段ゆるかわコーデの少女が、ネクタイしてきた

「よ、おまたせ」


 待ち合わせの場所で私が待っていると、コヒメがネクタイをしてきた。

 上は白のワイシャツにネクタイ、下はデニムのパンツだ。


「わあああ。約束通り、ネクタイしてくれたのね!」

「な、なによぉ。あんたが男装してこいって言ったんでしょぉ」


 格好はボーイッシュなのに、コヒメは女の子のようなポーズを取る。


 コヒメは普段、ゆるかわのコーデばかりを着る。

 男子ウケがいいからだ。

 白いカーディガンに、ピンクのロングスカートというのが、彼女なりのコーデなのである。


 しかし、私はあえてボーイッシュな姿を要求した。

 髪も、サイドテールにまとめてもらっている。

 

「絶対、似合うって思ってたから、最高だわ。あんたゆるふわより、男装のほうがいいって!」

「やだぁ。ただでさえ兄貴そっくりって言われるのにぃ」


 コヒメのお兄さんは、控えめに言ってイケメンだ。

 まさに「コヒメを男にしたような」ルックスである。

 なので、「コヒメを男装させたら、お兄さんとのデートが体験できるんじゃね!?」という発想に思い至ったのである。


「行こうか。コヒメ」

「もーお。ミホが男装しなよぉ」

「私がやると、ホントに男っぽくなるから嫌なの!」


 おしゃれに関心がない私では、ガサツなコーデにしかならない。


「私が、お洋服決めてあげよっか? あんた髪も短いんだから、マニッシュくらいになら、できるかも」

「マニッシュって何?」

「今のわたしにみたいなファションを、そういうの!」


 ちなみにボーイッシュとは、男性的な「振る舞い」のことらしい。


「お兄さんって、マニッシュ好きなの?」

「格好で人を差別する人じゃないかな?」


 できた人間なのだろう。妹と擬似デートする邪な私なんて、相手にされないかも?


「どっちかっていうと、わたしの方が好きかな? マニッシュは」

「ホントに?」

「実はコソコソ着てるよ。これだって自前だもん」

「マジだね。お兄さん背が高いもんね」


 サイズ的に、どうもぴったりしすぎると思っていたのだ。

 

「だって、ミホとのデートだもん」

「うう。ごめん。お兄さんの予習みたいなことして」

「許してあーげない」


 コヒメが、私に黒のワイシャツとブルーのネクタイをチョイスして、更衣室へ連れて行く。 

 着替え終わってそのままお会計を済ませても、コヒメはニヤニヤしていた。


「な、何をする気?」

「一度やってみたかったんだぁ」


 コヒメが私を壁に追い詰めた。

 壁に押し付けて、ネクタイをクイっと引っ張る。

 相手を挑発するかのように、こちらを見下ろした。

 はわわぁ。これは刺激的だわ。


「なんか楽しいね」

「ねえ」

「ん?」

「私もやりたい」


 その後、わたしもコヒメのネクタイをクイってした。

 これのために、もう一回男装デートを取り付ける。

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