いやああ。先輩のしろくまパジャマかわいすぎうわああん

 わたしは初めて、チエ先輩の実家にお呼ばれした。

 お部屋で一緒に、小説を書きたいらしい。


 門からして、ザ・ヤクザという面構えである。

 表向きは、地元でも有名な「会社」なのだそうで。

 ヤンキーが逃げていったわけだ。


「おじゃましまぁす」


 意外と、女のコの部屋だった。


「家があんなんでしょ? ちょっとでも浄化したくてさ」


 チエ先輩は、苦笑いを浮かべる。


「変だろ?」

「いいえ。ステキです」


 偏見よくない。


 色あせているが、ぬいぐるみもある。

 ちゃんと洗っている形跡もあって、大事にしているんだなと思えた。


「先輩って、本は買う派なんですね?」


 大量の本に、全方位囲まれいてる。

 

「本に囲まれて死ぬのが、夢だから。あと、電子書籍だとそれこそなにもない部屋になっちゃうから、寂しくて」


 チエ先輩は、本以外に趣味がない。

 なので、本を取ったら何も残らないという。 


「本に囲まれていると、モチベが上がるっていうか」

「わかります」


 わたしは親に頼んで、電子書籍のサブスクを月額千円で買ってもらっている。

 本を買いすぎたことがあるからだ。

 そんな電子派のわたしでも、先輩の気持ちはわかった。

 

「さて、着替えるかな」


 タンスを開けて、先輩がおもむろに服を脱ぐ。


「ちょっと先輩、もっと恥じらって」

「ん? 同性同士だから、いいじゃん」


 水色の下着姿を、惜しげもなく見せてくる。

 スポーツタイプのインナーだからか、恥ずかしがっている様子もない。


「うわ、しろくまですね」


 先輩が用意したのは、しろくまの着ぐるみだ。


「もう一着あるけど、どう?」

「着ます」


 わたしも、しろくまに変身した。


「あー、やっぱかわいいなぁ。あたしより女のコっぽくていい」

「いえいえ。そんな」

「あたしだとガッチリしすぎて、どうしてもたくましくなっちゃってさ」

「くまだからいいじゃないですか」


 先輩の着ぐるみ姿は、大きくて頼りがいがある。



 執筆前に、お茶を出してもらう。


「ありがとうございます」

「書こうか」


 二人でノートPCを開く。

 

「この前の男装もかっこよかったけど、しろくまもいいね」


 キーをパチパチと叩きながら、先輩がつぶやく。


 ちなみに、手首から先は手袋になっていて、着脱可能になっている。

 なので、キーボード操作は楽だ。

 

「もう、思い出させないでくださいぃ」

「様になってたじゃん」

「あれは、弟のマネでぇ!」

「弟さんがいるんだ?」

「今中学です」


 弟はサッカーやっていて、エースらしい。

 

「ふうん。今度はスポ根やってみっかな?」

「いいですね!」

「彼女目当てに、男性なのに男装カフェに通い詰めるんだよ。でも、お互い意識しちゃってて、ふたりともドジるんだ」

「やめてくださいぃ」

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