白鳥 つづみはホルモン系

 今日は、焼肉バイキングに来ている。


「ホントにオレが相手でいいのか?」

「はい。おカズセンパイくらいがちょうどいいんですよ!」


 メニューをキョロキョロ見ながら、白鳥は品定めをしている。

 

「そうか。今日はおごりだから、じゃんじゃん食えよ」

「いいです」


 こういうとき、白鳥は絶対におごらせない。


 ちなみに、俺はよく食うことから、職場では「和彦」からモジッて「おカズ」と呼ばれている。

 後輩すら、俺をそう呼ぶようになってきた。


「誰かのおごりだと遠慮しちゃうんで、私も払いますよ。おカズセンパイ」


 どうやら白鳥は、俺と対等の関係でいたいらしい。


「焼肉バイキングなのに、から揚げとかに目が行ってしまうのはなぜなんでしょう?」

「それはうまいからだ」

「ですよね! 胃袋へお迎えしましょう!」

 

 最初に、薄切りのカルビをいただいた。


「おおお、最高!」


 これは、ライスで追いかけないと。


 ライスで迎え入れた後のお茶もまた、うまいこと。

 口の中が適度に洗い流されて、口がまた肉を欲してくる。 


 網に焼かれたハラミを、一口いただく。


「うん、うまい!」


 ジューシーな肉だ。

 柔らかいハラミも、たしかに味わいがある。

 しかし、こういった型落ちのハラミも格別だ。

 

「お前、ホルモンばっか行くんだな」

「ふわい」


 白鳥の焼く肉類は、シマチョウとハツばかりだ。


「他の人と行くと、お上品なものばかりなんですが、ホントはこういうのが好きなんです」


 グレープフルーツのジュースをグビグビとあおりながら、白鳥はまた肉を焼き始めた。


「センパイこそ、マンガ盛りのライス、ウケますね!」

「おう。やっぱり焼き肉って行ったら白いメシだぜ」

「わかります。ぱくぱく」


 白鳥も、米が進んでいる。


「ヤバイですか? 網を汚しちゃうから」

「気にするなって。替えたらいいだけだし」

「ふわい」


 口をモゴモゴさせながら、また白鳥は肉を焼く。


「焼き肉を焼いてる男女は、親密になるっていいますね!」

「そうだな。だから俺でいいのかって聞いたんだが?」

「アリですね! おカズ先輩は、女のコの食べ方にいちいち口出ししないんで。モテるでしょ?」

「それが、さっぱりなんだ」


 人畜無害と思われているのだろう。あまり浮いた話が来ない。


「そんなかわいそうなオカズセンパイのために、私がひと肌脱ごうではありませんか」

「気休めはよせよ」

「いいえ! センパイだからいいんです! センパイお金遣いも荒くないし、いいなって思っていたんです!」


 でも、と白鳥は続けた。


「私、食いしん坊でしょ? 断られるのが怖くて」

「だれが断るかっての!」

「ホントですか? じゃあ、よろしくです!」

「こちらこそ!」


 オレたちの焼き肉バイキングが、初デートになるとは。


「見た目通り肉食系女子ですが、よろしくです」

「いや、お前さんはホルモン系だな」


 オレみたいな非モテを好むんだから。

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