コインランドリーに、露出狂がいた ~帰る服を失う~
「あーん、濡れちゃったぁ」
一人の女性が、ずぶ濡れでコインランドリーに入ってきた。
天気予報もチェックしない女なのか。今日は、夕方から降るって言っていたのに。
オレは気にせず、自分の服が乾くのを待つ。
コンビニで買った、ホットコーヒーを飲みながら。
「よいしょ、よいしょ」
下着だろうか。網に入った小さい包みを、エコバッグから次々と出す。
他にもスウェットの上下やスカートなど、洗濯機に放り込む。
おいおい、ちょっとまて。
あいつ、着ている服まで脱ぎだしたぞ!
どうなってやがる?
コートで隠しているつもりだろうけど、ほとんど隠せていないし。
まさに「帰る服を失う」状態だ。
すべてを脱ぎ捨てて、女性は洗濯を始めた。
あーあ。着ているものまで全部洗っちゃったよ。
「ひゃああ!」
ようやく、女性はオレに気づく。
「い、いたんですか!?」
「ずっといたよ。失礼な。それよりいいのか?」
「なにが?」
「帰る服がないぞ」
「……あああ、しまったぁ!」
女性が頭を抱えて、天を仰ぐ。
アホだ。
うちの妹でも、こんなヘマはしないぞ。
「どうしよう!? 服が乾く前に、コンビニに行って傘買おうと思ったのに!?」
計画性があるんだかないんだか。
とにかく、ずぶ濡れで判断力が鈍ったんだな?
「買ってきてやろうか?」
「ちょ、見ないで!」
「おっと」
オレは女性から背を向けた。
「あ、あの。ごめんなさい!」
「いいって。それより困っているなら、傘を買いに行ってやる」
「ホントにいいの?」
「オレの服はまだ、時間がかかるし」
お安い御用である。ホットのおかわりも欲しい。
「ごめんなさい。では、お願いしよっかな」
コンビニに行って、傘とコーヒーを買う。
「ほらよ」
オレは、コーヒーをおごった。
「ありがとう。お金を」
「いいって」
オレは女性から、傘の代金だけをもらう。
「それより、いつもあんな感じか? 慣れている感じがしたが」
「う……。この時間って、人がいないって知ってるから」
常習犯か。
オレが使っていなかったら、コイツは全裸でこのエリアをくつろいでいたわけだ。
「誰もいない中で脱ぐスリルがたまらなくて」
ヤバイな。
「あんたは?」
「先日、この辺りに引っ越してきたんだ。まだ洗濯機が来ないんだよ。まったく」
スマホで配送状況を確認しながら、オレはため息をつく。
でもよかった。
自分で洗濯機を買わなかったら、またこの露出狂に出くわす羽目になるところだ。
コイツは女だから、どうしても見たこっちが悪者にされてしまう。
「お、乾いた」
オレは自分の洗濯物をバッグに取り込む。
「じゃな。今度はちゃんと、天気もチェックしろよ」
「ありがとう。ごめんなさい」
翌日、物流業者の車が、アパートの前に停まる。
洗濯機がようやく届いたのだ。
業者さんと一緒に、いそいそと洗濯機を運ぶ。
他にも、細々とした荷物がいっぱい届いた。
これから、オレの新生活が始まるのだ。
「手伝いしましょうか?」
「すいま……」
先日見たはずの手が、ダンボールを掴む。
越した先のお隣さんは、例の露出狂だった。
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