姫呼ばわりされている少年は、王子様系女子にチョコを渡したい

 海外のバレンタインデーは、誰に何をあげてもいい。

 世界広しと言えど、チョコを渡すのは日本だけである。

 合っているのは、大切な人に贈り物をすることだけ。


 そんな日本でも、女子にチョコをあげようって思っている男子は、ボクくらいではないだろうか。


 でもいいや。女子にチョコをあげる最初の男子でもなんでも、喜んでなってやる。

 ボクは、女子にチョコをあげるんじゃない。

 大好きなミナミにあげるんだ。


 えっと、チョコは商品になっているモノを溶かして作り直すと、マズくなるんだったっけ。

 元々おいしく整えてあるチョコの味を、むざむざ壊すことになるらしい。

 同じ理由で、カレーライスも既製品に隠し味なんか入れないほうが美味しいんだとか。

 それを知らなくて、ボクもコーヒーの粉とかルーに混ぜちゃってたな。


 では、ルールに従って手作り用のチョコで作りましょっと。


 湯煎でチョコを溶かすだけで、なんだか楽しいな。


 なんだよ妹よ。

 ダメだ。味見っていって、この間もオムライスを半分くらい食べただろ?

 お前の分も作っておいてやるから、ガマンしなさい。


 クッキーも同時に焼く。

 できあがったクッキーに、溶かしたチョコを少し付ける。


 これを、一晩冷やす。

 


 よし、これで完成っと。


 ラッピングも完璧。


 妹よ。ほら、お前にもクッキーだぞ。


 クラスの子たちにもあげたい? わがまま言うんじゃない。

 いくらボクの料理が人気だって言っても、これはあげないからな。

 お弁当は奮発してやるから、それで辛抱しろっ。

 


 あとは、放課後に渡すだけだ。




 だが、ミナミからは予想外の答えが待っていた。


「ああ、トオル、作ってきちゃったんだ」

「え、どうして? 甘いものキライじゃないでしょ?」


 ボクは、彼女の好みは把握しているつもりだったんだが?


 ノンシュガーのクッキーで少し苦味をきかせた、甘み引き立つチョコレートにしたつもりなんだけどな。


「そうじゃないんだ。うれしいよ。でもね」

「なにが不満にさせた? ごめん。あやまるよ」


 ボクが詫びると、ミナミが手をバタバタさせて首を振る。

 

「あやまるのは、ワタシの方さ。ちゃんと話しておかなかったから」


 ミナミは照れくさそうに、ボクにささやく。


「一緒に作りたかったんだよ」

「そうなの?」


 なんでも、ミナミの母は世話焼きで、娘でさえなにも手伝わせないという。

 

「いっつも、お弁当まで作らせてばっかりだったから、ワタシも腕をふるいたくてさ」


 なんだ、そんなことかー。


「いいよ。一緒につくろうよ。というか手伝ってよ。妹がこのチョコクッキー食べたいってうるさくて」

「あはは。あの子らしいや。じゃあ、お邪魔するね」

「うん。どうぞ」

 

 ボクが言うと、ミナミはすごくうれしそうに笑った。

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