コーヒー牛乳、風呂上がりに飲もうと思っていたのに

「はあ、あと一〇分」


 一度風呂から上がって、私は時計を確認した。

 寒いから、湯加減は少し熱めにしてある。

 

 ただ、湯から上がれば、お待ちかねのアレがあるのだ。

 楽しみで仕方ない。

 

一旦冷水を浴びて、つかり治すのがポイントだ。

 いわゆる、ととのうってやつ?

 これで、風呂上がりのコーヒー牛乳をより楽しめるというもの。


「よし、上がろう」


 時間が来たので、私は湯から上がった。



「はーすっきりしたってエエエエエエエ!?」


 同居人のサオリが、「明電 おいしいコーヒー牛乳」を飲んでいる!

 また私のコーヒー牛乳を、勝手に飲んでいるではないか!


「ちょっとサオリ! 私の楽しみを奪わないでよ! 最後の一本だったのに!」

「えーっ? カフェオレ作ればいいじゃん」


 サオリが不満を漏らすのもわかる。

 たしかに、アイスコーヒーと牛乳があるので、カフェオレを作ろうと思えばできるのだ。

 ウチは両者とも、コーヒー党である。


 しかし、私の舌は「明電 おいしいコーヒー牛乳」だったのだ。

 

 あのコーヒー牛乳がほしかったのに。


「お風呂上がりはいつも飲んでたでしょ!? 勝手に人のコーヒー取らないでよ!」

「冷蔵庫の中は共有財産だって、いつも言ってるじゃん。ミユの方こそ、今朝あたしのシュークリーム食べたし」


 おやつだと思っていたら、朝食だったんだとか。

 

「それは、悪かったわよ!」

「しょうがないなぁ……コンビニ行く?」


 もう、スーパーは開いていない。

 行くならコンビニしかないだろう。

 多少は割高だが、いい商品をもとめるならコンビニだ。


「わかった。今朝のお詫びも兼ねて、お互いにおごり合おう」

「そうこなくっちゃ」


 私たちは上着を羽織り、冬の夜道を進む。


「さっむ!」

「お風呂上がりで外出て大丈夫?」

「いいよ。あんたこそ、ごめんね。お仕事から帰ってきたばかりなのに、パシリに使って」

「一緒にお買い物なら、パシリじゃないから」



 歩いて五分のところにコンビニがある。

 この誘惑と背徳感は、いつになっても慣れない。



 でも、今日は特別である。


 わたしは、シュークリームを二つ買う。


「ん? 二つ?」

「だって、また食べたくなったんだもん」

「わかる。棚にあったら、買っちゃうよねぇ。


 こういうことがあるから、できるだけスーパーを利用するようにしている。

 それでも通り道にコンビニがあるから、フラリと寄ってしまうのだ。


「あれサオリ、コーヒー牛乳二本買うの?」


 私が聞くと、ミユがニッと笑う。

 

「ミユも身体が冷えたでしょ? 風呂も一緒に入るんだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る