ホットケーキがうまく焼けない人
「うわ、また失敗だ!」
ダメだ。うまくきつね色に焼き上がらない。
朝から作ったホットケーキも、もう五枚目である。
白すぎるものと、褐色すぎるものとが、お皿に並ぶ。
小さめに作っておいてよかった。
それはすべて、同居人のミナミのお腹の中へ。
「別においしいからいいよぉ」
ミナミはそう言ってくれるが、ボクとしてはいい焼色のホットケーキを作りたい。
カノジョが大食いだからいいものの、さすがにおいしいものを食べさせてあげたいもん。
「まだまだ。ダスティン・ホフマンだって、映画のラストで息子のためにうまくフレンチトーストを作っていたじゃないか。ボクも、それにあやかるのさ」
「離婚の映画じゃん。縁起悪いよぉ」
たしかに、縁起でもなかったな。
ボクたちは、来月結婚するんだから。
「フッ素加工のフライパンに油を引いちゃうと、焼色がマダラになるんだって」
「でも、ボクのはホットプレートだからね。関係ないんだよなぁ」
もう一度、チャレンジしてみる。
「中火に近い弱火、と」
「そうそう。焦らない焦らない」
二人して、生地の焼き上がりを待つ。
生地にぷつぷつと穴が空いてきた。
「そろそろかな?」
「気が早すぎ。あと四個くらいあいたらいいみたいだよ」
ミナミは、カフェオレのおかわりを淹れに行く。
「だったら……今だ!」
気泡が五つほど破裂したところで、生地をひっくりかえす。
「うまくいった!」
焼く枚数が二桁行く前に、ようやく成功した。
「わああい」
カフェオレを淹れて戻ってきたミナミが、パチパチを手を叩く。
バターを落として、シロップをたっぷりとかける。
「やっと、朝ごはんだ」
「失敗作は、わたしが全部、食べちゃったからね」
「ボクが食べるって言ったのに」
「いいじゃん。すぐにおなかすくんだもん、わたしって」
ミナミは、少し失敗した分をボクの代わりに食べた。
成功したホットケーキは、格別な味がする。
ミナミにも、少しわけてあげた。
「おいひい。こころなしか、サクサクな感じが出てる気がしない?」
「わかる。この香ばしさこそ、ホットケーキって感じがするよね」
この笑顔が見たいから、ボクはホットケーキをうまく焼きたかったんだ。
「じゃあ、わたしも焼いていいかな?」
「どうぞどうぞ」
とはいえ、もう生地は一枚も焼けそうにないが。
「それそれー」
ミナミは、プレート一面に生地の液を振りまく。
「これを強火でバババーっと」
ボクにはもう、ミナミがやりたいことがわかった。
「ホットケーキのシメっていったらさ、やっぱこれでしょ」
わかる。ボクも昔は、よくやってもらったものだ。
生地をプレートにちょっと垂らして、クッキーのようにカリッカリに焼くのである。
十分に焼けた生地のクッキーを、ヘラでこそぐ。
二人で、固めに焼けた生地を噛み砕いた。
「ああー、これこれ」
「わかるよ。うまいよね!」
「でも、作らせちゃってごめんね」
「いいよ。これからも家事を分担していこう」
「うん。ホットケーキは毎日でもいいよー。飽きないから」
毎日作る役だろうと、ボクはきっと飽きない。
ミナミと一緒なら。
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