いやああ。ミニスカナースのコスをリクエストされたうわああん

 チエ先輩が、学校を休んだ。

 足の骨を折って、入院しているらしい。


 病室では、チエ先輩が痛々しい姿でベッドに横たわっていた。

 

「チエ先輩死なないでぇ!」


 わたしは、ベッドのシーツにしがみつく。


「大丈夫だから。骨折くらいで人が死ぬか。それに、ヒビが入っただけだから今は検査入院」


 それを聞いて安心した。

 だけど、骨折しているのだから絶対安静には変わりない。


 むしろ病院着から覗くチエ先輩のオミアシが眩しすぎて、わたしが昇天しそうだ。


 

「リンゴ買ってきましたよ。リクエストを」


 全部むくか、リンゴにカットするか尋ねる。


「どっちもできますよ」

「ありがとう。ウサギにしてくれる?」

「はい」


 ショリショリと、わたしはリンゴを切っていく。


「うまいね。料理が得意なんだね」

「弟の看病をしていて、喜ばれたんです」


 今でこそ弟はサッカー部のエースとして活躍しているが、昔は病弱だった。

 病室でリンゴをむいて食べさせるのが、わたしの役目だったのである。

 それが高じて、わたしは料理上手になった。


「お口を開けてください。あーん」

「ありがと、あーん」


 わあああ、あーんしちゃったぁ。


「おいしい。ありがとうねシホ。病院食っておいしくないんだよ。母がゴハンを作ってきてくれるんだけどさ、規定のモノ以外はできるだけ食べないようにってナースから注意されて」


 そうだ、と、チエ先輩がカバンを指差す。


「ナースで思い出した。せっかくだから、ナースコスしてくれる?」

「どうしてこんなに都合よく、白衣が?」

「あたし、コスプレ好きなんだ。これも今朝、親に持ってきてもらった」


 演劇部の同級生から、手持ちの衣装を貸してくれと頼まれたらしい。


「部の子たちが来るまで時間があるから、着てみな」

「いいんですか?」

「着てほしい。サイズとか着心地などの間奏もほしいだろうから」


 では、着させてもらおう。


「ど、どうでしょう?」

「似合う似合う! これで、リンゴをもらおうかな」

 

 言われる通り、チエ先輩にリンゴを食べさせる。

 ホントにナースになった気分だ。

 

 

「どうして、骨折なんて」

「ながらスマホ」


 帰り道、駅の階段を降りながらホラー小説を読んでいたという。


「推し作家の新作でさ、どうしても家までガマンできなかったんだ」 

 

 キャラが足首を掴まれたシーンを読んで、ホントに掴まれた感覚に襲われたらしい。

 それで、盛大にずっこけたという。


「いやあ、失態だったよ。もっと注意すべきだった」

「ホントですよ」


 一歩間違えば、頭を打ったかもしれない。

 小説で死にかけるなんて。


「もう、後輩に心配かけさせたらダメだぞっ」


 ナースになった気分で、わたしは先輩を叱る。


「ごめんなさーい」

「わかったら、ちゃんと元気にならなきゃね。はい、あーん……!?」


 わたしがチエ先輩にリンゴを食べさせているトコロに、タイミングよく演劇部のみなさんが。


 いやああ。

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