いやああ。赤リップ塗ったら彼氏がいると思われたうわああん

「チ、チエ先輩!」



 私は思い切って、チエ先輩にルージュを塗った自分を見せる。


 

 小説の小道具に使えるかなって、紅いリップを買ってみた。

 デパートで売ってる本格的なやつだと、使いきれるかわからない。

 だから、コンビニでゲットした。すっごい小さいやつを。


 チエ先輩が、困っている。

 首を傾げて、「うーん」とうなった。


「シホ、あんたさあ」

「な、なんでしょう?」




「カレシできた?」



「ふわ!?」



 顔が、ルージュより赤くなる。


「違います! 断じてカレシなんてできていません!」

「だってさー、ドヤ顔で見せつけてんじゃん。すっごい似合ってるよ」

「ふわああああああ! 違いますってぇ!」



 必死で弁解した。

 男っ気なんて、これっぽっちもありません。


 弟にだって色目なんて使ったことないのに。

 あ、でもコンビニ限定カップ麺買ってきてもらったとき、甘えた声を使ったことは認めます。


「ほんっとに違います。誓ってオトコなんてできてません!」

「そうなんだ。でも、どうしてリップなんて買ったの?」

「小説で使えるかなって思って使ってみたんですけど、変ですか?」


 私は正直、顔に自身がない。

 自分では、中の下くらいだと思っている。

 化粧したって、きっと変わらない。

 むしろ、バカ面をさらしたようなものだろう。

 

「変じゃないよ。さっきも言ったじゃん。めっちゃ似合ってるって」

「ありがとうございますっ」


 なんか誤解されたけど、褒められたからプラマイゼロってことでOK!


「シホ、そのリップ見せて」

「あ、はい。どうぞ」

「あんがと」


 チエ先輩が、なにやら後ろを向いた。

 鏡に向かって何かをしている。


「シホ」


 先輩が振り返った。


「ひゃわわあああ!」

 

 なんと、チエ先輩がわたしのリップでお化粧をしていらっしゃるうううう!


 お化粧の魔法ってすごい。

 こんなに、人って変わるんだ。


「どうかな? 初めて化粧ってしてみたんだけど?」

「すっごいキレイです!」

 

 似合っているなんて、レベルではない。

 芸術品とお話しているみたいだ。


「そっか。あ、ありがと、ね」


 照れてる! めっちゃ照れてるやん! チエ先輩かわいい! 

 なんか、こっちまでニヤけてくる。


「じゃあ、落としてくるね」

「ああちょっと、一緒にお写真でも」

「そうだね。せっかくだもんね」


 二人で自撮りした。


 その後、二人で洗面所へ。


「シホさあ」

「なんですか?」


 すっぴんになった私に、チエ先輩が声をかけてきた。


「やっぱシホってさ、なにもしてない方がカワイイね」



 過去イチで、私は顔面が赤くなる。

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