妖怪 招かれざる猫

「出たな、妖怪『招かれざる猫』!」


 木刀に念力を込めて、オレは目の前の怪異を睨む。


「フヒヒ!」


 でっぷりと太ったアメショの招き猫が、不快な鳴き声を放つ。


 その視線の先には、制服のスカートに向けられていた。

 小判がスマホになってやがる! 猫がシャッターをおろす。


「うわああー! アメショなのに全然可愛くない!」


 退魔部のアヤカが、膝丈のスカートを押さえながら後ずさる。

 

「ああ、写っとらん!」


 アメショが悔しがった。


「取り憑かれると、欲望むき出しになって異性が寄りつかないだけはあるな!」


「キモい検定3,000点! お前の行く先は保健所じゃねえ刑務所だ!」


 アメショの招き猫は、暴言をはかれているのにもかかわらず涼しい顔だ。

 言われ慣れているんだろうなぁ。


「何度でもいいやがれ、フヒヒ。将来の安泰より、一時の快楽! それを追い求めさせて、人を堕落させるのがおれの喜び! さあ、おれさまの愛らしい姿に酔いしれて抱きしめるがいい!」


「そうやってすり寄ってきた相手に、非モテ因子をこすりつけていたんだな?」


「そうだ! お前もフツメンのくせにカノジョなんて連れやがって許せねえ!」


「カノ……!? アヤカのことか? こいつは幼馴染だ!」


「なんだと? お前、世のラノベ読者全員を敵に回したぞ! このテンプレジゴロが!」


「おぞましい妄想はやめろ!」


 オレが言うと、アヤカがしゅんとした顔になる。


 騙されるな! なにをトキメキ感じてやがるんだオレ!


 こいつは、いわゆる暴力ヒロイン! 平成の負の遺産!

 令和で生きていてはいけない怪異だ!

 きっと、アヤカも猫をかぶっているに違いない!

 

 オレは、怪異に怒りの木刀を振り下ろす。


「反射!」

 

 招き猫が、小判で退魔の攻撃を跳ね返した。


「うわーっ!」


 オレは、弾き飛ばされてしまう。

 猫のように、アヤカのスカートの真下へと転んでしまった。


「キャー! キモい検定18,000点! 死ね!」


 アヤカのタイキックが、寝転ぶオレのケツに炸裂した。


「待て待て! 平成の遺失物! 攻撃するのは向こうだ!」


「おおっ、油断した!」


「いいか。もう一回攻撃する……そのとき、ゴニョ」

「あふわ」

 

 オレが耳打ちすると、アヤカが脱力した。


「話を聞いていたか!?」

「あ、はあう。おけおけ」


 オレたちは、フォーメーションを組む。


「ああもう、ラッキースケベの上に無自覚シチュとか、ことごとくワシの神経逆なでするやつだ!」


「うるせええ!」


 再度、オレは斬りかかった。


「バカの一つ覚えか! 反射!」


 小判で、アメショが攻撃を跳ね返す。

 

 オレの手から、木刀が飛んでいく。その先には、アヤカが。

 

 これでいい!


「アヤカ!」


 オレの合図で、アヤカが木刀にケリを食らわせた。


「はん……!」


 跳ね返そうとしたら、木刀が小判を叩き落とす。

 前足から小判が落ちて、割れた。


「猫に小判ってなぁ!」


「あばーっ!」


 オレのアッパースイングにより、招き猫が砕け散る。


「ああ、今度生まれ変わったら、アメショに生まれて愛されたい」


「お前に次はない」

 

 オレは、木刀から退魔の力を解除した。


「ナイスだ、アヤカ」

「見たか? 暴力ヒロインは、まだ需要があるんだから」


「拗ねるなよ」


 機嫌を取るため、オレはアヤカの頭をなでてやる。


「そういうとこ!」


 また、タイキックが飛んできた。


 お前だって、そういうとこだぞ!

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