ヘアピンカーブに揺れる胸
「くそ、なんだってまたこんな山を抜けるルートを」
アクセルを握りながら、俺は舌打ちをした。
後ろのシートでは、幼馴染のミカを乗せている。
チラッと、メットを被っているミカの方を向く。
必死の形相で、ミカは俺の背中にしがみついていた。
高速が工事中なので、やむを得ずこのルートを選んだ。
最悪だったな。
行きは攻めっけたっぷりで切り抜けられたが、帰りのルートとしては最悪だろう。
人を拾うってのに、こんな危ない道を選択するとは。
オフロードバイクだったからよかったものの、オンロードだったら落ち葉を踏んだだけで死ねる。
「この先、ヘアピンだらけだぞ。揺れるからな。具合が悪くなったら言えよ」
俺の言葉が聞こえたかどうかはわからないが、ミカは頭でコツコツと俺の背中を叩く。
キツイカーブを抜ける。
にゅるっという独特の感触が、俺の背中にくっつく。
なんだ今のは!? 俺、後ろにスライムでも乗せているのか?
ミカって、こんなに胸があったっけ?
いやいや、おかしい。
ミカは小中高とぺったんこで、もうコレ以上成長は見込めないと思っていたが。
ちょっと見ない間に、幼馴染がオトナになって帰ってくるなんて。
メットを被る前のミカ、やたら化粧を気にしていたなぁ。
いかんいかん。今は運転に集中だ。
こんなところで事故ったら、誰が助けてくれるのか。
でも、こんな感触に包まれて死ねるなら、いつ死んでもいいなとさえ思えてしまう。
ダメだダメだ。何を考えてるんだ俺は。
相手はまだ、大学生だぞ。
きっとカレシかなんかができて、そいつに……ああくそ!
「うおおおおお!」
全てを忘れたくなって、俺はキツめにカーブを曲がる。
どたぷん、と、またミカの胸が俺の背中で弾む。
はあああ。やべええええ。
天国にいる感じになる。
こいつにカレシがいたって構わねえ!
ミカの胸に抱かれて眠りたい!
こんなに、ミカを大事に思ったことはなかったかも。
「おおおおミカあああ!」
必死で、ヘアピンを抜ける。
意地でも、生きて帰ってやるんだ。
ミカを無事に、我が家へ迎え入れる。
かたやミカの方も、俺を抱きしめる手に力を入れていた。
「よっしゃああああ!」
地獄のヘアピンを抜ける。
その後、俺たち落ち着いて村に帰った。
ミッションコンプリートだ。
「化粧、崩れてない?」
メットを脱ぎ、ミカが聞いてくる。
「大丈夫だっての。どんなミカでもキレイだってわかってっから」
「ホント? それ、別の女にも言ってない?」
「言ってない。お前の方こそ、どうなんだよ?」
「また後ろに乗せてもらえて、ドキドキした」
ミカが、顔を赤らめた。
「そっか……」
随分と、垢抜けたなぁ。
昔はもっと、芋っぽかったのに。
「ねえ。これからも後ろに乗せてってよ」
「いいのか?」
「だって、アンタの背中が一番安心する。どんなキツい道だって、アンタのことを思ったら乗り越えられたもん」
こいつのいる街へ走るためなら、地獄のヘアピンも悪くねえかな?
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