文芸部の後輩女子から『読み合いしましょう!』と誘われたので自作ラノベ持っていったら、格ゲーに付き合わされた

『センパイ、正月ヒマっすよね? 読み合いしましょう!』 


 後輩のミヨに、電話で家へ誘われた。


 駅前で待ち合わせ、コンビニに寄ってお菓子やジュースを買う。


 女子の部屋に入るなんて、初めてだ。


 ミヨは口を開けばゲームの話ばかりで、男の子みたいな性格の子である。

 彼女が作る小説も、ゲームが舞台だった。

 しかも、格ゲー世界という変わった設定だったな。

 

 そんな男子っぽいミヨが、男子のオレを平然と家へ招待するなんて。

 ひょっとして女のコなところがあるのでは。


 いかんいかん。あくまでも読み合いだ。


 オレは自作のラノベを持参して、ミヨの部屋へお邪魔する。


「ここが、あたしの部屋っす」


 女子っぽさほぼ皆無だな。

「一人部屋おじさん」要素満載の部屋ではないか。

 仮に女子の部屋だとしても、「実はあたし、ヴァーチャル配信者なんすよ」と言われたら、信じてしまいそうだ。


 こたつテーブルの上に、執筆用ノートPCが。

 その横には、当然のようにゲーム機が置いてあった。

 

本棚らしきラックにも、あるのはゲーム機ばかりだ。


 ああ、こいつ本は全部スマホで読んでるんだったな。


 とはいえ、ここはまごうことなき女子の部屋なのだ。

 いやがおうにも、ドキドキする。

 

 ミヨが用意してくれたジュースも、ノドを通らない。


「じゃあ、読み合いしましょう」

「おう、そうだな、読んでくってええええええーっ!?」


 なんと、ミヨはノートPCをどけて、格ゲーのスイッチを押したではないか。


「待て待て! 読み合いだろ? 小説は!?」

「はあ? 何いってんすかセンパイ? 読み合いっつったら格ゲーでしょうが!!」

「なんてテメエがキレてんの!?」


 読み合いってそっちかよ!


「なんだと思ってたんすか?」

「小説だろ!? オレら、文芸部!」

「センパイのラノベは全部面白いので、そっちを読み合う必要はないっす。それに、あたしの小説をセンパイが目の前で読むとか、恥ずかしくて死ぬっす」

「いや、投稿サイトに格ゲー世界舞台のBLブチ込んで、不特定多数に読まれていますよねあなた!?」

「だからその参考文献として、センパイと格ゲーしたいんっすって!」


 格ゲーでオレとしか話が合わないから、一緒に遊びたかったとか。

 たしかに、格ゲーはすっかり「マニアの遊び」になっちまって、プレイヤー人口が減ったんだよな。

 アニメ調のグラや有名RPGの格ゲー版などを出して、どうにかライト層にアプローチしている。

 だが、それでも格闘ゲームが浸透している気がしない。


「わかった。寂しいなら付き合ってやるよ」

「センパイなら、そういってくれると思っていたっす。わーい」


 さっそく、読み合いが始まった。

 オレのキャラは、しゃがんだまま微動だにしない。


「待ちとか、セッコ!」

「うるせえ、読み合いしてくれって頼んだのはそっちだろうが!」


 対するミヨの相撲取りキャラは、張り手を連打してガード中のオレの体力を削っていく。


「……待ってるだけじゃ、欲しいものは掴めないっすよ、せーんぱい」


 なぜかミヨが、コントローラーを下ろす。


 突然、張り手が止まった。

 チャンスだ。サマーソルトを……ゲッ!?


「やべえスカった!?」


 ゲージを溜めて、ジャストガードしやがった。

 反撃の張り手を無防備の状態で食らって、ジエンドである。

 


「ほらあ、だから言ったじゃないっすかー。待ってるだけじゃダメだってぇ」


「くっそ。急にしおらしくなるから。BL打ち込んでばっかり描くから、異性愛に興味がないものかと。しかもオレがモデルのやつばっかり」

  

 急に、ミヨがオレに顔を近づけてきた。

 息が耳にかかる。



「センパイだって、ヒロインのモデルあたしみたいなのばっかりじゃないっすか」

 

 

 すっごい近い顔で、ミヨがささいやてきた。


 どうにか、オレの心だけは読まれないようにしないと。

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