サラダに入ったみかん、昔は大嫌いだったのに

 サユキが作るサラダには、必ずみかんの缶詰が入っている。


「ねー、今日もみかんサラダ?」

「そうだけど、ナギサって、サラダにみかん入れたらイヤだったっけ?」


 あまりスキではないと、わたしはアピールした。

 

「おいしくない?」

「酸っぱくなる」

「んー?」


 サユキが、みかんと一緒にレタスを食べる。


「そうでもないけど?」

「じゃなくて、ドレッシングにかかったみかんが、酸っぱくなるんだって」



 白いドレッシングとみかんが、壊滅的に合わないのだ。



「あー、それはわかる。マヨとかと合わせようものならね。ヤバい」



 ヤバいのを通り越して、絶交レベルだ。


「白いドレッシングがダメとか?」


 そうかもしれないと、私はドレッシングだけでサラダを食べてみる。


「うん、ダメなのはみかんだ」

「そっか、ダメかー。ゴメンね」


 シェアハウスを初めて数ヶ月経つが、未だにサユキはわたしの好みを覚えない。


 酢豚には、当然のようにパイナップルを入れる。

 大戦争が起きるくらいには、ケンカをした。


 

 ポテサラには、いつもリンゴが入っているし。

 ゴハンと合わないというと、自分の分だけに入れるようになった。


 唯一ケンカしなかったのは、生ハムメロンくらいだろうか。

 あれは二人共も「食べられない」で完結した。


 そんなサユキは、今日さよならする。

 お互いフリーターだったが、めでたく二人とも就職が決まったのだ。

 私はこの家に残り、サユキは出ていく。


「じゃあさ、またね。ナギサと過ごしたこと、一生忘れない」

「大げさ。なにも、今生の別れになるわけじゃないんだから」


 隣の県に引っ越すだけじゃん。

 

「でも、いざ片付いちゃうとさ、さみしいね」



 一緒に抱き合って黒ずんでしまった特大ぬいぐるみも、サユキをダメにし続けたソファも、トラックの中である。

 歯ブラシも片方だけになって、安定が悪い。


 そう考えると、胸につかえるものがあった。


「元気で、ね」


「先に泣こうとするな! 反則だから!」


「さみしくなったら、みかん入りサラダを思い出してね。あれをわたしだと思って」


「意味がわからん!」


 彼女なりの、照れ隠しだったのだろう。


 下の階から、クラクションが聞こえる。


「お父さん迎えに来た。行くね」


 今度こそ、サユキは行ってしまう。


「結局さ、お互いの好み、わかんなかったね」

「うん。でもさ、わからないままでいいじゃん」


 また会ったら、新鮮な気持ちで話せるかもしれないから。


 

 一人残された私は、夕飯を作る。


 野菜は、レタスしかない。


 ふと、みかんの缶詰を見つけた。

 サユキが置いていってくれたのだろう。


 久々に食べたみかんサラダは、格別の味がした。

 あれだけ嫌いだったのに。


 私は、ひとりじゃない。


 なんだか、うまくやれそうな気がした。

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