第10話 真夜中の底
職場で顔を合わせても碌に言葉を交わさないのはこれまで通りだった。元々わたしと佐藤さんが仕事で会話をする場面は殆どない。
佐藤さんはこれまでと全く変わらぬ様子で仕事に励み周囲から慕われている。寧ろ今までよりも一層仕事に打ち込んでいるようにすら見えた。
そんな佐藤さんを見ると、怒りにも似た感情がわき上がってきた。幼い少女のように泣き叫んで、言葉の限りを尽くして彼を責め立ててしまいたい衝動にさえ駆られた。
あの夜彼を拒否したのは自分だというのに、何を怒るというのだろうか。自分でもよくわからなかった。
もう、土曜日の夜にスマートフォンは着信を告げない。
今まで何をして土曜日の夜を過ごしていたのか思い出せなくて、テーブルの上のスマートフォンを何時間もぼんやりと眺めては虚無感に襲われた。眠ってしまおうと思って部屋の電気を消すと、却ってあの夜のことが思い起こされて、その度に両手で顔を覆った。
あの日以来、わたしは体調が悪くて仕事を休む日が増えた。熱はないが朝どうしても起き上がれない。
職場に休む旨の電話を掛けると、上司は最初こそ心配してくれたものの、二度三度と同じことが続くと声色に面倒くささが滲むようになっていった。所属している派遣会社からも、これ以上休むと業績評価にも影響してしまうという警告のメールも来た。
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