先生の現状

ある日突然、先生のお腹が膨らみだす。

ああ、また太ったかな ご飯の量減らさなきゃななんて先生は考える。

でも、どんなに運動しても、どんなに摂取カロリーを減らしても、お腹は凹まず、ますます膨らむばかり。

そればかりか、自分の体は縮み始める。

そして、人の顔のようなものが浮かぶ。不思議と怖くない。自分の顔と瓜二つだから。

そこで先生はようやくわかる。ああ、これは分裂しているのだと。

学校に連絡。少子高齢化が進む今では分裂なんて大して珍しい現象じゃない。これは人類の進化だ。

じゃあ、何で認知度が低いのか。


当事者が言わないからだ。


無性生殖? 分裂? 人類には馴染みがなさすぎる。

身の回りの生物はしていることだが、僕たちが習うのは中3の理科。

「生物の体が分かれ、数を増やす、無性生殖の一種」

所詮他人事だ。

それに、お腹に顔面。見慣れない人が見たら怖いに決まっている。

だから、当事者は言わない。言わないから僕たちは知ることにならない。知らないから、いないと思い込む。いないと思われているから当事者は言えない。

そう、言えないんだ。


ただ、学校ではそういうわけにはいかない。

「は? 分裂してるから産休ください? 意味わかんねえよ 出勤しろよ」

なんて対応をとっていたら段々と縮み続ける先生とそのお腹にできた大きい瘤のようなものに子供達は困惑してしまうだろう。

だから、教育委員会では「生徒及び職員に無性生殖が起こった際のガイドライン」なるものが作られている。

それにより、先生の産休(?)及び(自らとそのクローンの)育休申請はすんなりと受け入れられた。

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