後編 恋が繋ぐ未来模様

A.ずっと変わらないでいて…

 今回タイトルから章が変わります。中途半端な切り替えではありますが、思ったよりも長くなりましたので、タイトルのアルファベットが変わると同時に、小説の折り返し地点という意味でも、章を分けることとなりました。



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 「君はずっと、よ。…いや、そのままで居てほしいな…」


彼の放つ言葉には、そのままの貴方でいてね…とも聞こえるが、逆に皮肉られたようにも聞こえる。その時の私は、後者の意味で捉えた。高峰君がどういう思惑で告げたにしろ、クラスメイトの女子を子供扱いしたのだと、私は解釈する。


 「…もう、紗明良は…。貴方は、真っ直ぐ過ぎるのよ。普段は他人を信頼しすぎな気もするけど、こういう時に限って素直じゃないわね…」

 「やっぱり紗明良さんは、僕を信じてくれないのか…。他の誰かに疑われたとしても、君にだけは…信じてもらいたいのに。寂しいよ…」

 「………うっ!……それとこれとは、別です…」


朱里さんは心底呆れたかの如く、苦笑気味に話す。それに対し、高峰君は瞼を伏せながら、悲し気に悄気しょげた。私に信じてほしいと、態々強調して。私より長い睫毛を小刻みに震わせ、伏せ目がちに哀愁漂う雰囲気を、醸し出す。顔に暗い影を落とした彼の姿は、素晴らしい絵画として完成していた。


…うわあ~。高峰君が落ち込む姿は、まるで1枚の絵画みたく眩しくて、溜息が出そうな光景だわ。学年トップの成績である上、全校生徒の中で一二を争うイケメンで、私とは月とスッポンね。私の人生、悲しきかな……


イケメンが儚げな顔をすると、神や女神のように…若しくは、神と同様の存在のように見える。有名な絵画の如く、神懸かって見えてしまった。先祖代々に渡って、生粋の日本人である私は、手を合わせて拝みたい気分になる。私は凡人顔だから、余計にそう思うのかもしれないが。


 「紗明良の今の気持ちは、私も分かる気がするわ。貴方とは違って、拝みたくはならないけど。そんな貴方だからこそ、これからも見守りたいと思ってしまうの。だから私も、高峰君の意見には賛同するわ。どれだけ周りが変わろうと、良くも悪くも貴方だけはずっと、変わってほしくない…」

 「………??……」


朱里さんは染み染みと、吐露した。イケメンは何しても絵になる、と思っているのは同じなんだろう。拝むつもりはないと、彼女からきっぱり否定されたのも、彼女もまた彼と同じ側の人間だと、言えようか。急に高峰君に賛同すると告げたのは、一体何に同意するつもりかな…。何だか朱里さんにまで、皮肉られた気もしてきたのは、私の気のせいだろうか?


 「やはり朱里さんも、そう思います?…良くも悪くも変わらないのは、本当は難しいことだから…。つい強く、願ってしまいそうですよ。」

 「…ええ、そうね。全く変わらないのは、実に難しいことだわ。ほんの少しでも変わっていくのが、本来ならば正しく…自然の摂理ですもの。」


高峰君にと言われ、お前は何も知らなくていいと、私は拒絶された気がした。ここへきて朱里さんまで、貴方は知らない方がいいよと告げたようで、私自身の全てが否定された、気分になる。2人に悪意がないと知りつつも、悪い方へ思考が向いていく。


幽霊の容姿がイケてるかどうか、今まで気にすることもなかったが、幽霊姿の彼女に漸く慣れてきたことで、彼女の容姿をじっくり眺める余裕も、出てきたようである。彼女の容姿を明確に捉えさえすれば、彼女がどれだけ可愛らしい姿かも、私の瞳に映るようになった。高峰君とあまりにお似合いで、多少ぼやけているも、決して平凡ではないと分かる。何故か私だけ、取り残されたような……


今時の女性も羨むような小顔、くるくる変わるやや大きめな瞳、顔全体が理想的な美しさを持ち、日本人形のイメージそのものの顔立ちだ。普段は落ち着いた大人の女性だけど、笑顔になれば少女のような雰囲気に変わり、悪戯っ子のようなお茶目な印象が強くなる。


 「変わるのは悪いことでもないが、無理して変わるものでもない。本来通り自然の摂理に従うのも、決して悪いことではないけれど…。但し、変わっていくことがその人の持ち味まで、は、元も子もないですが…」

 「その通りよ。……もう、紗明良はまた何も、聞いてないんだから…」


彼の言いたいことが、今一私には分からない。変わる方が良いのか、変わらない方が良いのか、何が言いたいんだろうと思いつつ、私は自らの思考の海に沈んでいった。私の心の声を読んだのか、上の空になっている私を見て、朱里さんが遠い目をする。大きく溜息を長く細く、深々といて。






    ****************************






 昔から神代家は女系一族で、男児より女児が跡を継ぐ方が、多かった。私の姉は超が付く美人だけど、美形より可愛い系が多い家系でもあった。可愛いらしい朱里さんも、さぞ異性にモテたかと思えば、羨ましい限りだ。内面も含め美人な姉と、お茶目で明るい彼女と比べたら、自分が如何に凡人かと思い知らされた。


平凡すぎて落ち込んでいた私は、片方の耳からもう一方の耳へと、2人の会話をただ聞き流スルーした。朱里さんが聞いていないと嘆くのも、最早これが日常茶飯事になりつつある、今日この頃である。既に慣れた日々が、に恐ろしや……


 「…紗明良がどう囚われようと、私は者よ。今の姿は若き日に在りし姿でしかなく、死を迎えし時は決して若くなかった。貴方は私の意見を尊重し、私に絶大な信頼を寄せてくれるけれど、勿論それらは嬉しいことであれども、今は貴方の為に存在する守護霊で、貴方は私を使役する立場にいる。今の時代を生きていく貴方には、同じ今を生きる人達との時間を、大切にしてほしいのよ…」

 「………朱里さん……」


朱里さんが苦笑気味に告げた言葉を、私はどこか他人事のように、十分理解していなかった。随分と後になって振り返って、漸く理解したように思う。例えこの時彼女の本音を理解しても、私は容易に割り切れるほど、器用な人間ではなく。


別に年の差など気にもならないが、目に見える形式であるならば、どうしても見た目同様に判断してしまう。彼女を姉のような近しくは思えど、祖母以上に離れた存在という、認識もない。だから、彼女を無機質なもののように、ただ目的の為に使役するだけなど、彼女の言う通りにするには、無理な話だと言えようか。


 「紗明良さんは朱里さんを姉のように、朱里さんは紗明良さんを、娘のように認識しているようだ。紗明良さんは朱里さんと、互いに信頼し得る関係になりたい、というところではないのかな?…第三者の僕からすれば、互いの想いが同じ重さでなくとも、互いに想い合う心の重さは、釣り合いが取れていると思うよ。」


朱里さんから見たら、まだまだ幼い子供でしかなく、私の気分は凹んだ。朱里さんを知れば知るほどに、私はもっと近づきたいと思っていたから。私の沈んだ気分を読み取る如く、高峰君が私達の本音を代弁してくれる。互いを想い合う重さが釣り合うなんて、言葉のチョイスも嬉しくて、彼への警戒心も薄まったかも。


…高峰君って案外と、他人ひとのことを良く見ているんだね…。相手の心を上手く掴んだ上で、相手の欲する答えを導き出すなんて、ある意味では凄い人だ。高峰君が男女共にモテるのは、そうした理由があったんだ。私は何時いつも揶揄われてばかりで、てっきり軽薄な人だと思って、警戒してたのに。の少年達とは真逆で、男性全般に関する認識が覆りそうだわ。……ん?……の少年達とは、誰のこと…?


高峰君を誤解したことに、私は申し訳ない気持ちで一杯だ。つい他の誰かと比べそうになり、ふと頭の中に真っ先に浮かんだのは、の少年達のこと。私が忘れ去りたい記憶の中にある、二度と思い出したくない出来事を。


…そうだ!…の少年達は、私が異性に距離を置くようになる、直接の原因を招いた少年達かれらね…。私がまだ幼かった頃、何かにつけ実姉やカルラと、比べられ貶められていた、彼の少年達かれらによって……


彼らは特に私を敵視して、何度も貶めようとした者達である。当時、跡継ぎになる為の教育を受けていた私は、正義感から間違いは間違いと正し、物怖じせず明確に指摘するような、であった。姉やカルラ達女子には好かれても、反対に男子達からは敬遠された。女子を虐めた男子に説教した私が、気に食わないのは当然であろうか。


 「神代姉の方は美人だし、神代の従姉妹いとこのカルラも、美人なのにな…。神代妹だけはどっちにも、似てねえよな?…実は神代妹だけ、血が繋がってないとか?」

 「ああ、それは有り得るよな!…神代姉は美人で誰にでも優しいのに、妹は中身も不細工だな。他人なら似なくて当然だ、アハハ!」


温和で大人しく見られた私も、男女問わずモテる人格者の姉には、幼い頃から憧れと尊敬の念を抱いていた。人気者である姉が、何故か平凡な妹を溺愛する様子に、私と年の近い少年達かれらには、面白くなかったようで。


 「年上の者には、礼儀正しく向き合いなさい。」


まだ幼い頃におばば様から、審神者さにわの能力を認められた私は、同年代よりも大人と過ごすことが多く、おばば様に教わった通りに、礼儀正しく向き合おうとしたけれど、それが余計に反感を買うとは思わずに。


うざったい説教ばかり話す私に、彼らは劣等感を持ったのか。それとも、美少女達の代表とも言える、姉から溺愛されカルラに懐かれ、同年代の少女達からも好印象の私を、単に恨めしく思ったのか。何れにしろ、何処にでもいそうな年下の平凡少女に、何度も注意されたぐらいで腹を立てた、単にそれだけのであるのは、間違いないだろう。


それでも私は彼らに、真っ向から立ち向かう。姉と私の容姿が違うのは、姉が母親によく似たからで、私が平凡顔の父そっくりであるからだ。間違いは正すものと、それが私の義務だと思っていた。あの出来事が起きるまでは……


 「…私は父似、姉は母似で、似てないのは当然です。神代家次期後継者候補の私を侮辱すれば、姉を侮辱したも同然です。謝罪してください。」






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 後半部分の途中から、過去の話へと突入しました。やっとここにきて、紗明良の過去が明らかに…?


幼い頃の紗明良に何があったのか、少しずつ判明していきます。いずれ、男性恐怖症になった原因も、明らかになることでしょう。これを切っ掛けに、紗明良の恋愛も少しは進むのかな……


神代家まで長い道のりでしたが、そろそろ到着するはずなのに、高校からどれほど離れているのかと、筆者も突っ込みたい…。


※筆者の想像を遥かに超え、長作の域に入りかけておりますが、漸く先が見えてきたと思います。前回で一度章を区切り、今回から新たな章と致しました。本作終了後の番外編は別として、2章で完結する予定です。ここからは完結に向け、紗明良の恋愛方面に力を入れるべく、頑張りたいと思います。

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