u.雑談話に花を咲かせたら
今でこそ私も、お嬢さまの扱いを受けているけれど、私がまだ跡継ぎ候補になる前は、落ちぶれた歴史ある神社の家系の、単なる分家の子孫だと見なされていた。つまり、ごくありふれた一般家庭の娘、でしかなかった。
神代家の跡継ぎとなる力のことも、まだ何も知らずにいた頃、私は地元の公立小学校に通っていた。当時は神代家本家の子供達でさえ、お金持ちの子供が通う私学には、通えるような財力はなかった。ところが、私が小学生の高学年の頃になると、神代家は徐々に注目をされ始める。
私が中学生になる頃には、神代家はすっかりお金持ちになったけれど、私の家が金持ちになったわけじゃないし、我が家では何の変化もない。お陰で、私はお嬢様扱いをされることもなく、高校も公立に行くつもりでいた。
「紗明良、高校は私学に行きなさい。公立は許可できないからね。」
こうしておばば様に、大反対された私。神代家が注目され始めると、おばば様は勿論のこと、神代家本家の大人達何人かも、メディアに顔を出すようになる。私も次期跡継ぎとして暴かれる可能性があり、バレたら大変になりそうだ。
確かに、防犯上や個人情報など、その他諸々の事情がバレたら…怖い。私学は公立の学校より対策が取られているし、おばば様に従うことにした。車の送迎もすると言われたけど、私は辞退した。送迎なんてされたら、帰りに寄り道できないもの。偶にはお小遣いで何か買ったり、友達と寄り道したり…色々したい!
…高校で知り合った、仲良しの好華ちゃんと希空ちゃん。そして、私を追い掛けてきたカルラも。私にとっては賑やかで、楽しい日々を過ごす仲間だよ。今ではすっかり此処が、私の快適な場所なのよ。この学校に入学して、良かったわ。
「神代は、すぐ顔に出るタイプだな。俺をそういう目で見たのは、李遠と神代ぐらいだよ。」
「……そういう目とは…?」
「胡散臭い奴を見る、そういう目付きだ。さっきから俺を、おかしなことを言う奴だと、思っていただろう?」
「……あっ、そういうわけでは……」
「そういう神代も、挙動不審な言動していたぞ。今日話をするまでは、もっと大人しい奴だと思っていたが…。実際に話すと、真っ直ぐで隙だらけだよな…」
「……?………」
高峰君はまだ教室に戻っていないので、教室には私と五十三君の2人だけ…ではなくて、実は…朱里さんも居る。但し、五十三君は朱里さんの姿が、見えていないはず。姿は見えずとも3人居るという状況に、私は安堵していた。
五十三君と話すのは、今日が初めだ。その会話の内容は、クラスメイトが不正したという、トンデモナイ内容だけど。
真面目な話の途中で時折、五十三君が話の腰を折るお陰で、私は今一集中できないでいた。先におかしな話をしたのは彼なのに、私が話の腰を折ったとでも、難癖をつけられている…?
…いやいや。おかしなことばかり呟いて、胡散臭い奴と思わせたのは、五十三君の方だよね…。それに…私が挙動不審な言動とは、どういう意味なのよ…。大人しい奴だと思うのは、五十三君の勝手な偏見だよね?…『真っ直ぐ』はまだ良いんだけれど、『隙だらけ』って…どういうこと?!
高峰君とはまた、別のタイプのようだ。真面目すぎて堅物かと思えば、どこか憎めないところのある人だ。朱里さんも微妙な顔をしてるし、私の直感が当たっているかもね。何となく…自分と似た気もするけど、私の気のせいだと思う。
「…ふうん。紗明良にしては、先ず先ずね。自らの思考の渦に溺れたり、態度や顔に直ぐ現れたり、思ったことを直ぐにでも、実行しようとするところも、色々と似てるわね。彼は顔には出さないけれど、独り言を話すしね。……ふふっ。」
……いやいや。似てない方が良かったよ。男子生徒である五十三君と、そんな風に似てると言われても、ちっとも嬉しくない。それなのに…全否定したい私自身が、否定できないとは……
五十三君が見えない&聞こえない、そういう状況であるのをいいことに、朱里さんは彼と私を見比べつつも、ニヤっと不敵に笑った。一方で私は、目の前の彼に気付かれないよう、小さく
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「…何でお前が、此処に居る?…然も、俺の居ない時を狙うかの如く…」
「…お前が居ない隙を、俺が狙うわけがないだろ?…帰る前に話があって戻ってきたというのに、偶々お前が居なかっただけだ。」
「それにしては随分と、彼女と仲良くなったみたいだが…?」
「…それならば俺も、お前に言いたいことがある。何で肝心な事を、何も話してないんだ?…彼女も当事者の1人なんだし、ちゃんと説明すべきだろ?…俺の言うことが何か、間違っているか?」
「…間違ってはいなくとも、今の状況とは何の関係もない!…お前こそ、誤魔化すなっ!」
…私の目の前で繰り広げられる、男子2人の茶番劇は…何?…う~ん、一体どうしてこうなる?…幼馴染同士が、じゃれ合っているだけ?…それとも、実は恋敵だったりして…?
何故こうなったかは、私の方が聞きたい…。教室の扉を勢いよく開け放ち、高峰君は教室にズカズカ入ってくると、行き成り五十三君の首根っこを掴み、食って掛かったからである。私が口を挟めば、余計に2人が拗れそうな気がして、ただ茫然とその光景を眺めている。
学校で2人が冗談を言い合い、巫山戯る様子を見たことはあったけど、何方かと言えば今は高峰君が仲間外れにされ、怒っているように見える。普段の2人の姿と、少し違う気もした。
高峰君が戻ってくるまでは、平和だったのに。どうしてこれほど、彼は機嫌が悪いのかと嘆息しつつ、私は僅か今から数分前の出来事を、思い出していた。朱里さんが教室に戻って来た時、五十三君には朱里さんの姿は勿論、声も聞こえていないようだった。それでも心配で、思い切って質問すると…
「五十三君は、幽霊の存在を信じますか?…それとも、非現実的だと信じない方ですか?」
「…幽霊?…何方かと言えば、俺は信じないタイプだ。しかし、一度目撃した経緯もあるし、場合によっては信じるかもな…」
「…えっ!?…目撃した?……それって、一体どういう状況で…?」
私が念の為に問うたら、五十三君から意外な答えが返ってきた。朱里さんが見えているのかと、緊張して声が裏返ってしまった。一度見えたら何度も見えるわけじゃなくとも、焦ってつい食い気味に問うた私に。
「実は…幽霊自体を見たわけじゃなく、自らの身体を媒体にする儀式を、見たと言うべきだな。当時俺は興味がなかったし、神代も…期待はしないでくれ。」
如何やら彼は、我が神代家と同類の儀式を、見学したようだ。大した話ではないと前置きをして、五十三君は本題に入っていく。期待するなと釘を刺されたものの、私は元々そういう期待はしていないから。
「高校入学を控えた、まだ俺が中学生だった頃、控えめな従妹が突然暴れるようになったんだ。原因を調べていくうちに、何か良からぬモノに取り憑かれた可能性もあると、叔父が専門職にお祓いを依頼し、俺も立ち合うことにした。依頼を受けた年配女性は、自らに憑依させお祓してくれたようだった。」
…ふうん、年配女性かあ。他の同業者も、神代家と同様なのね…。神代家に依頼がきたら、おばば様が引き受けるもの。如何やら、悪霊に取り憑かれたのね。
「女性が自らに憑依させた途端、従妹は憑き物が落ちたかのように、急に意識を失ったよ。その後暫くして意識を取り戻したが、元の性格に戻っていた。憑依された女性の姿も、決して芝居には見えなかったな…」
…なるほど。審神者の能力で、悪霊から引き離したのね。その女性も、中々の能力者みたい。そうよ、おばば様と同じくらいには。
「幽霊の姿を明確に見たわけじゃないが、信じるに値する状況だったよな。そう言えば…あの
…ん?…その
「『神代
「…そうか。あの人は、君の大叔母なのか…。それに、あれが審神者の能力と言われる、力なのか…。後で聞いた話によると、別の専門家に依頼した者が、お祓いの儀式に何時間もかかったと話していたが、やはり腕が良いという評判通り、君の大叔母は凄い実力者なんだな。」
「はい、それもありますが…。お祓いに時間がかかるのは、審神者の能力が低い者か若しくは、能力のコントロールが上手くできない者、だと思われます。但し、態と時間を長引かせて儲けるなど、審神者のフリをした者という可能性も、ありますね。審神者は元々希少ですし、その立場を悪用する者もいるようです。」
「…そうか。力量不足や実力不足は仕方がないとしても、詐欺目的の単なる金儲けは、見過ごせそうにない。どうすれば、見分けられるだろうか?」
私が知る限り神代家も含め、審神者は数えるほどしかおらず、他の者は能力不足も否めない。「神代家の親族筋だ」などと審神者のフリをし、詐欺行為を行う不届き者もいるらしいが。
…知り合いが詐欺に遭ったとしたら、やはり見過ごせないわよね。五十三君と高峰君の2人は類は友を呼ぶ、基本的に良い人達だと言えるかもね。
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前回の続きですが、後半の一部は前後した時間枠となります。
前回は、五十三君と紗明良のやり取りの続き、後半も基本的には同じです。一部分のみ、高峰君が職員室から戻ってきた後に、時間が飛んでいます。
五十三君が教室に居たことで、高峰君の怒りが…。2人の口喧嘩(?)は、次回に続きます。
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