閑話A.脆くて儚い友情と恋

 今回は番外編の為、主人公達は登場していません。代わりに、新キャラが今回から登場します。


※今回は特に、不愉快な表現が含まれます。そういう事情を酌んだ上で、ご覧くださいませ。


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 紗明良達が日直当番をこなした日、オンラインで授業を受ける生徒達は、日直当番の入れ替わり事件を知らず、各々が普段通りに過ごしていた。またすり替えた当事者たちも、まさか全てが明るみとなった上、と予想だにしないことだろう。


30世紀である日本では、何処の学校もほぼ同じ体制に統一された。20数世紀の初め頃まで、学校の授業は学校に通うことで、授業を受けるものである。しかし、世界中でコロナが大流行し、コロナ禍の中でオンライン授業も、当たり前となっていく。20数世紀の終わり頃には、自宅でオンライン授業を受ける生徒が増えて、今のような体制へと変化した。


オンライン授業を選ぶ生徒が増えれば、学校に通う生徒は減っていく。紗明良のように、学校で友人と会いたいとか、学校で授業を受けたいとか、そういう明確な理由で敢えて登校するようだ。


オンライン用の授業は、教師が予め録画した映像を流すことで、何時いつでも見れるようにしている。他にも、学校の授業に合わせて受ける、オンライン授業も選択できるようになっていた。但し、生徒達の大半は学校に行かないのに、学校に合わせたオンライン授業を受けるのは、望んでいなかったけれど。


紗明良も偶に、学校を休むことがあった。そういう時は必ず、学校の授業に合わせたオンライン授業を、受けている。その場で教師に質問もでき、他の生徒達と意見を交わすことも、可能だったからだ。


予め録画したオンライン授業は、その場で質問もできないし、質問するにもメール等でやり取りする必要があり、質問に対する教師からの返答も、何時いつ返ってくるかが分からない。メールでやり取りするには限界もあり、意思疎通が上手くいかない時もあったりする。紗明良にはそういうことが、面倒に思えた。


大半の生徒達は、授業に合わせる方が苦痛に感じるらしい。質問もメールの方が楽だったし、教師からの返答が遅いとも思わない。他の生徒達と授業中に意見を交わす、そうした必要性も感じていなかった。


要するに紗明良が、真面目すぎなだけだ。質問に直ぐに返答をもらって、勉強はなるべく早く終わらせたいと思っていた。質問が宿題に関することならば、宿題を早く終わらせたい。復習はその日のうちにやりたいし、時間が余れば更に予習もやりたい。紗明良は、そういう真っ直ぐな人間だ。お陰で教師からも信頼を置かれているとは、ことであろうか。


 「あ~あ、学校の授業なんて退屈だわ。オンライン授業でも十分出席扱いされるのに、態々通学する奴らの気持ちは、私には理解できないもの。まあ、偶に友人に会いたくなるのは、分かるけど。高峰君だけは、私も会いたいし…」


誰が見たとしても、ど派手な服装をした少女が、気だるげに言う。オンライン授業を受けた、その直後の一言だ。真面目な紗明良とは真逆のタイプで、20数世紀の初め頃に『ギャル』と言われていた、それに近いタイプに見えるだろう。


 「本当だね。オンライン授業の方が、気楽だよ。友達に会いたいなら、こうして家でオンライン授業を、一緒に受ければ良いだけだわ。授業中に友人と喋ってもバレないし、寝落ちしても教師に怒られないし、また後で聞き直せば良いだけだし、勉強すれば親も機嫌良いし、お菓子食べても注意されないし…」


この部屋に居るのは2人の少女で、派手めな少女の横に居た、もう1人の少女が同意した。2人共に髪を茶髪に染めており、もう1人は『コギャル』っぽい外見で、派手さはないものの、顔を色黒く化粧する『ガングロ』でもあった。


 「あんたって、学校の授業中でも寝てるよね?…授業中にメールするし、お菓子もこっそり持って行くし、今とそう変わんないじゃないのよ。教師に注意されないだけで、絶対にバレてるわよ。永世ながよもさあ、いくら勉強嫌いでも赤点取らない程度に勉強しないと、2年に進級できなくなるよ。永世は、鹿。」

 「……季久菜きくなは頭も成績も中ぐらいで、家も其れなりにお金持ちで、学校にも顏が利くなんて。季久菜のお父さんの親友が経営する、今の高校でも優遇してもらえるんだから、本当に羨ましいよ。」






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 一見して2人の仲は良く、腹を割って言い合える仲に見えるが、実際は全く事情が違っている。派手な少女は明らかに、ガングロ少女を自分より下と見下し、自らの友人としながらも小馬鹿にしている。またガングロ少女も、派手女子を煽て持ち上げることで、自らの立場を優位にしようと、画策しているようだった。


派手な少女こと『尾上みがみ 季久菜』は、この高校の理事長が自分の父親と親友なのだと、普段から自慢げに話しているが、不正入学はしていない。但し、理事長の親友の娘という理由から、自分はと思う、節があるが。


何かにつけては父が理事長と親友だと、周りを牽制し逆らえなくした。父親と理事長が知り合いであるのは、間違いない真実ではあるものの、実はそれほど親しい関係ではなく、理事長が誰か1人を優遇することは、これまでに一度もない。教育熱心で真面目な指導者である彼は、彼女の自慢話に眉を顰めていた。自らの学校の生徒でなければ、今直ぐにでも彼女の父親を訴えたことだろう。


彼女は他にもすぐバレる嘘を、く癖がある。昔から彼女を良く知る者は、彼女から距離を取っている。それなりの実業家である父親のお陰で、正面から彼女を敵に回す者が、居なかっただけで。


ガングロ 少女こと『岩黒いわぐろ 永世』は、今の高校にギリ合格した。 勉強嫌いではあるけれども、季久菜の話では赤点を取っていると言いたげだが、実は赤点ではないギリギリセーフの範囲内である。季久菜の方が成績は上ではあれど、永世がもっと本気で勉強すれば、彼女の方が頭が良いと言えるだろうか。


我が儘で単純な性格の季久菜に比べ、永世は季久菜に従っているだけで、随分と性格はマシである。季久菜と友人としてつるむのは、その方が楽に生きられると判断したに過ぎない。


季久菜は何に関しても、自分が一番でなければ気が済まない、傲慢さを持ち合わせていた。自分に諂う者には寛容に接してくれるので、永世にとっても扱いやすかった。お菓子もタダでくれるし、食べ物以外も気前よく買ってくれる。但し、自分の自慢話や他人を小馬鹿にするのは、永世も嫌悪していたが。


紗明良達が通う高校は、表向きはお金持ちの子が通う学校、というイメージが強いようだが、実際はそれほどではない。生徒の3分の1ほどは、永世も含めごく一般家庭の生徒達だ。


 「勿論だわ。私の父にできないことなど、何もないわよ。」


永世の父親は中小企業の中でも、小規模の会社を経営する社長だ。安定しているとは言えど、季久菜ほど裕福ではないし、彼女と仲良くすれば目を付けられないと、そう思ったから。


季久菜は常に永世を見下し、永世は腹が立てど波風を立てず、利害関係を壊さないようにしていた。何時壊れてもおかしくない、友人に見せかけた関係と言えるだろう。あまりに小馬鹿にしてくるので、今回もチクリと嫌味を返すが、案の定当人は気付かない。褒められたと思ったのか、鼻高々な素振りだ。


 「其れより、日直当番の日が楽しみだわ。高峰君の横に立つのは、あんな地味っ子の神代ではなく、私なんだから!…勿論、他の女子も許さないけど。高峰君は誰にでも声を掛けて優しいから、自分が特別だと思い上がっているのよ!」


日直当番も彼の横に立つのは自分だと、まるで自らが運命の相手だと、季久菜は言いたいようだ。あんな地味な子と紗明良を見下し、彼に接触するのは許せないと、憤慨している。


 「…上手くやったのなら、それでもういいじゃん。」

 「神代の相手はモテない奴にしてやったけど、神代あいつが悔しがって落ち込むのを見て、笑ってやりたいんだよ。」

 「……、ある?」


日直当番のすり替えをしたのは、季久菜だ。好きな子と一緒にやりたいと、他にも女子数人が関わったものの、永世は止めようと反対した。すると季久菜は、永世を仲間外れにして、実行したのである。


紗明良本人が、季久菜が思うような性格ではないと、永世も知っている。自分の立場が悪くなると思いつつ、教師にバレたら不味いと季久菜に逆らった。実行したことは後で知らされたが、流石に教師に告げ口はできず、傍観するしかなかったが。季久菜はまだ気に入らないと、紗明良へ憎悪を向けている。


 「…ん?…永世、何か言った?…私のしたことに、文句ある?…だから、言ったじゃない。永世あんたと『五十三いさみ』を、ペアにしてあげるって。」

 「…いや、何も文句は言ってないから…。五十三君と一緒に、当番したいわけでもないし…」


如何やら永世がボソッと呟いた言葉は、季久菜には聞こえなかったようだ。季久菜からすり替えてあげると言われたが、きっぱり断った。永世は他人を煽てたりしていても、学校の規則を破るほど悪い子ではない。


『五十三』というのは高峰の友人で、彼の次に人気のある男子だ。永世も好意を持つ相手だが、ズルをしてまで好意を得たいと思わない。それに、誰かとすり替えるということは、他の生徒に迷惑を掛けることになる。


 「…ふん。永世あんたはこんな時だけ、いい子ぶるんだから。」


頑なに自分に逆らう永世に、季久菜の機嫌が悪くなる。決していい子ぶったわけではなく、望まないだけだ。彼女の機嫌が変わるのは何時ものことだし、これぐらいスルーできなくては、彼女の傍には居られない。


 「…永世、分かってる?…私がしたことを知っている時点で、あんたも同罪なんだからね。五十三にバレたら、永世も嫌われるよ?」

 「…うん、分かってる。」


永世も共犯だと、脅しを掛けてくる季久菜。友人の永世が疑われるのは、間違いないだろう。2人の関係は砂の城のように、脆くて儚いものだった。







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 番外編として、紗明良と高峰君が日直当番をする、その要因となる裏側を書いてみました。『ズルをした主犯たちの回』とでも、言えますが…。


オンライン授業の説明として、今回の話に入れた次第です。『尾上』がフルネームで登場し、その友人として女子生徒を、新キャラで追加しています。ズルした女子生徒は他にもいますが、名前すら登場しないモブキャラの予定。


後は…『五十三』君の名が出ましたが、次回に登場する予定…?

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