r.エゴを押し付けられた結果

 「朱里さんには先に詳細を、説明しておきたい。実は僕と神代さんは、元々同じ日の日直当番だったが、クラスメイトのとある女子が、自分の好意を持つ男子と日直当番になろうと、数人の女子生徒を巻き込んで、入れ替えを唆したようだ。お陰で僕と神代さんは別の日に、別の相手と当番にされていた。だから僕は元に戻し、あるべき姿にしたんだよ。」


私の時代から見れば、これは…おかしい。当日の当番は、誰が見ても一目で分かる仕組みで、当日だけではなく別の日も、組み合わせがほぼ決まっていた。あの頃は大体が、生徒番号順で決められた。


生徒番号順以外にも、そのクラスで最初の席の順だったり、或いはあいうえお順としたり、勝手に教師が決めるとことが多く、組み合わせも毎回決まっている。偶に男子の方が多くて余ると、女子の順番だけが繰り上がることもある。もし入れ替わるとすれば、当番が当日欠席で誰かが代理をした、という時ぐらいかな。


 「仕方がないんだ、今の時代はね…。オンライン授業も受けられるし、滅多に学校に登校しない生徒もいる。昔みたいに最低限の出席日数もないから、オンライン授業を受ければ出席扱いとなる。」

 「…なるほどね。その方法だと当番をしない人も出て、不公平じゃない?」

 「いいや。当番となる日は必ず、登校する規則だ。今までは例えズルをしたとしても、気付けなかったのだろう。自分が登校する日に変更したり、好意のある異性と当番になるよう、他の生徒とようだ。但し、此処まで大勢での変更ではないようだが…」

 「……はあ~。何時いつの時代にも、ズルをする生徒がいるのね…」


私は呆れてしまう。紗明良は入れ替わりを受け入れてもいないし、聞かれてもいないはず…。自分達さえ良ければいいなんて、利己主義者の考えだ。どうしてこうも人間は、勝手になれる…?


…どうしても変更したいのならば、教師に相談すべきだわ。何も知らない他の生徒達を巻き込むのは、その人のエゴでしかないのよ……


 「…ありがとう、朱里さん。彼女の代わりに、本気で怒ってくれて。彼女は簡単に許すだろうしね。今回の一件は僕も被害者だし、教師の許可を得た上で、多少の脚色は許可が下りた。」


彼にお礼を言われても…という心境だが、黙っておく。確かにあの子は怒らないだろうし、代わりに私が怒らないとね。当初は私も、彼が企んだと思っていたので、彼もまた被害者だったことに、驚いた。


 「彼女と初めての当番で、僕は舞い上がって。僕の友人も一緒に確認したから、間違いないよ。」


…ふ~ん、それほどあの子との当番が、楽しみだったようね…。今が青春真っただ中なんだろうけれど、要は若いってことね…。羨ましい……


私はつい揶揄いたくなって、顔を若気させつつ彼をジッと見つめ続けば、彼の顔はほんのりと朱に色づき、耳まで真っ赤に染めてしまう。…ふふっ。あらあら、ごちそうさま~~


こういう正直な子は、私も大好きよ。紗明良といいカルラといい、好華ちゃんといい希空ちゃんといい、高峰君といい…こういう素直な子が、この時代にも沢山いてくれて、私も嬉しいよ。例え、自分の生きた時代と異なる未来であっても、必死で生きている人達の全てを、否定したくはなかったから。


「私らの時代は…」と、未来を否定するお年寄りもいるけれど、私も長く生きていた時には、そういう思いで見ていたかもね。私も今は、思い切り青春を楽しむ子供達を見ていたら、微笑ましいとまた懐かしいとも思う。


 「…コホン。ここからが本題です。僕に好意を寄せる女子が、如何やら発端だったようですね。どうしても僕と当番をしたいと、他の女子達数人を巻き込んだらしく、男女問わず何人も勝手に入れ替わっています。自ら進んで入れ替わりをした者もいますが、僕達のように勝手に変更された者が、多いですね。今回の一件でクラスの半数近くの生徒達が、入れ替えられた状況でしょうか。既に担任教師には報告してありますし、誰が関わったか大体分かっていますよ。」


ばつが悪いのか、彼は咳払いをしてから、詳細を話してくれた。クラスの半数ってことは、大規模な工作だと言えそうだ。これじゃあ、他の生徒達も、気付いたのでは…?


 「…ごめんね。少し前まで私も貴方を、疑っていたわ。」

 「…いえ、今までもあったことだし、僕はクラス委員の立場なのに、もっと早く気付かねばならなかったと、僕にも反省すべき点があるので。」






    ****************************






 私が揶揄ったぐらいで、顔や耳を赤くするなんて、可愛いところもあるじゃないというのが、私の本音だ。声で伝える前に私の顔色を見て、先回りして応じるところなんて、中々に骨のある人物だと、認めざるを得ないだろう。


自らの非を認め、態々報告しに来るなんて、誰もが出来るわけじゃない。クラスの学級委員も、単なる学生時代の役職でしかなく、この先の長い一生の中では、一瞬の経験でしかない。教師でも責任の取れぬことを、一生徒である彼ができずとも、誰も何も責めることはないだろう。


 「彼女にいいところを見せたい、という理由もありますけどね。それ以前に当番の順番を入れ替えたことが、やはり許し難くて。」

 「………」


イケメンで優秀な成績で腹黒い彼は、思いの外に責任感が強いらしい。自らも被害者なのに、他の被害者のことも考えていて、ちょっと見直した。それなのに彼の余計な一言で、おじゃんだ。正直に話したのは、自分は正直だとアピールしたのか、それとも照れ隠しで自ら墓穴を掘ったか。此れも、なのか……


馬鹿正直すぎて欠点がある者よりも、計算して駆け引きする者の方が、少なくとも安心できそうだ。あまりにも紗明良が正直者過ぎて、いくら勉強が得意な彼女も、他人との駆け引きは全くできないタイプだから、尚更だ。私は彼女の母親でも祖母でもないが、これでも一応はご先祖さまであるし、今後も彼女を見守るつもりでいるのだから、伴侶となる異性には思うところもあって。


できれば、彼のような人物の方が、安心して任せられるだろう。きっと目の前の彼ならば、死ぬ気であの子を守ってくれるはず…。そう思えば思うほど今、私は複雑な気持ちでいる。私自身もどういう気持ちなのか、分からないけれど…。


…今の私の気持ちって、親が子を想う気持ちに似てる?…まだあの子と出会った日から、1年どころか半年も経っていない。其れなのに…。あの頃のみ~さんも今の私のように、複雑な想いを抱えていたのかな…?


ふと視線を感じた方に振り向けば、彼が私を観察するかのように、先程からジッと見つめていたようだ。…ああ、今の声が聞こえたのか…。複雑な思いを知られて、何となく情けない気になる私。何十年も生きた後、魂だけになっても存在していたというのに、今更何を幼子のように惑うのか…。


 「今の僕はまだ、貴方の半分も生きていないが、貴方のその気持ちも分からなくはないよ。人生長く生きていたとしても、別に気負う必要があるとは、僕は思っていないし、正直に言えば親が子を想う気持ちは、それは…僕にはまだ分からない。誰かを守りたい気持ちは、誰もが同じなんじゃないかなあ。それが、例え短い付き合いだろうとも、途轍もなく長い付き合いだろうとも、そういうものは全く関係ないのでは。僕はそう思いますよ。」

 「…ふふっ。若人の貴方に教えられるとは、私もね…。私がこんな腑抜けた調子では、み〜さんに呆れられるわね、きっと……」

 「『み〜さん』とは、貴方の守護霊ですか?」

 「ええ、そうよ。よく分かったわね。神代家では代々、審神者になった者は自らも死した後、その記憶を持った状態で、守護霊となるのよ。次の審神者を守り導く使命の為、審神者が誕生して覚醒するまでは、この世で幽霊の如く待つ。その間は神代家の敷地から一歩も、外に出られない。それが、神代家の定めよ。」


私は正直な思いを、少年に対して吐露した後、複雑な神代家の定めを話す。一度は他界しその後もこの世に留まり続け、次代の審神者を見守ってきた私。それは私だけの使命ではなく、守護霊となる者の定めでもある。紗明良もいずれ同じ道を、歩むことになる。


 「永眠後も、生きる者をただ見守るのは、どれだけ辛いことしょうね…。神代さんも何れそうなる運命だとしたら、何とか避けられないのだろうか…?」

 「…無理よ。審神者を導くのが、我々守護霊の使命なの。紗明良に気付いてもらえない間は、寂しかった。それでも、後悔はしていない。それにみ~さんも私も、今までの自分の人生に悔いはなしよ。審神者は思ったよりも、強いのよ。」

 「…そうか。神代さんの幼少期をずっと見ていた貴方が、羨ましいな…」

 「……気になるのはそこ?…紗明良のことは、心配しなくても大丈夫。神代家の定めを難なく、受け入れるはずよ。神代家の人間って、案外と図太いのよね。」


彼はあの子に神代家の定めを、受け入れさせたくない様子ね。あの子に寂しい思いをさせたくない、そういう気持ちが強いのだろう。けれど、あの子を含めた神代家の者達は、案外と意思が強いのよ。


私にアドバイスを求めても、意外と自らの意思を通すのが、あの子なのよ。だから大丈夫よ、きっと…。本当は彼も神代家の定めを、ひっくり返したいわけじゃないと、思う。私があまりにも弱気になったものだから、彼も私を慰めるつもりもあってか、半分は本気で半分は…冗談だったのではないかな?


私も態々本音を出すほど、。私は気付かぬフリして、惚けておこう。彼は元々鋭いようだし、私が言わずとも気付いただろうが。どうせなるようにしか、ならないのだから。


 「…朱里さんの言う通りだ。僕が口出す問題じゃない。だけど、これだけは教えてくれないか。幼い頃の彼女の話を、詳しく!!」







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 日直当番の裏側の話です。日直当番の傍ら、紗明良の知らないところでは……


今回は、紗明良が日直当番を熟す裏側では、高峰君が朱里さんに当番の経緯を説明していた、という内容になっています。


紗明良を困惑させる高峰君も、長年生きてきた(?)朱里さんには、叶わない様子かな…。一応は…朱里さんに気に入られたようですが。


さて次回は、番外編になる予定。新しい登場人物が、出てくるかな?

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