n.顔バレしたくなかったのに…
「紗良って、そういう顔だったんだね。普段からお姉さんの話題ばかりしているから、こんなに可愛いなんて思わなかったよ~。」
「ほんと、凄く可愛いわ!…高峰君が気に掛けるのも、分かるわあ~!」
「でしょ、でしょ〜?…サラは、可愛いんだヨっ!」
マスクを常時着用している筈なのに、私の顔が可愛いと言われるなんて、不思議に思うことだろう。可愛いと言われたのは、お世辞だと私も分かっているし、それに関しては横に置いておこう。つい最近、学校でも透明マスクの導入で、顔の全てが見えるようになった、というのが理由である。平凡な容姿を誰にも知られず、安心していた凡人顔の私は、全世界の人間に顔を晒されるが如く、落ち込んでいる。
「……っ!?……あ、あのね。私の顔はごく平凡だと思うし、美人のお姉ちゃんとは比べものにならないのよ…。そ、それに…高峰君が、わ…私を気にするわけ、絶対にないんだからねっ!」
親しい友人達が何故だか、私の顔を可愛いとべた褒め(?)してきて、戸惑ってしまう。好華ちゃん達とSNSなどでも繋がっているから、私は素顔を暈して明確に見えないよう、色々と誤魔化していた。何時も映りが悪いのだと、容姿を誤魔化す細工をした努力が……
…学校で着用するマスクが透明化された所為で、長年に渡って容姿を隠していた意味も、全くなくなったのよ。はっきり言って私の顔は、そこら中にありふれた顔と言っても、過言ではないのよね…。
学校で導入された透明マスクは、不織布や布に近いものであり、ジャブシャブ洗っても破れない強い素材だ。但し、決まった制限以上洗い続けると、洗う度に効果が薄れていくようだ。それは、透明マスクに限ったことでは、ないだろう。
「紗明良ちゃんは、自己評価が低過ぎだと思う。もっと自分に、自信を持ってもいいのに…。もしかして、何かトラウマ的なものがあったりするの?…紗明良ちゃんのお姉さん、超美人さんみたいだし……」
「ああ、確かに。紗明は、自信なさすぎだよ。それなのに、お姉さんのこととなれば、自分のことみたいに自信たっぷりだよ。」
「それはね、サラがケンキョだからヨ!」
私が…トラウマを抱えている?…姉のことには自信たっぷりで、自分のことでは自信がなくて?…私に何かトラウマがあると、希空ちゃんが言ったのを切っ掛けに、好華ちゃんまでが似たようなことを言って。カルラはカルラで、私が…謙虚だと言いたいようだけど、カルラはちゃんとその意味を分かってるの?
片言の日本語とか意味の分からない日本語を、まだまだ普通に使うカルラ。最近の従妹の口調は、昔ほど変な話し方ではない。それなりに日本語の勉強を、一生懸命頑張っているというのは、流石に私も気付いていたんだよね…。
カルラが何故、今まで以上に頑張っているのかは、どうやら朱里さんが関わっているみたい。彼女は私が生まれた直後から、私達神代一族を見守ってきたようだし、当然ながらカルラのことも、知りすぎるほど知っているらしい。彼女の立場から言えば、あのカルラをやる気にさせるなんて、容易なことだったはず。
その肝心な朱里さんは今、隣の空き教室だけではなく、離れられる限界まで出掛けているようだ。最近は、教室に1秒もいない。私の心の声は聞こえるはずなのに、ちっとも…うんともすんとも言わなくて。あれだけ小言を言っていた人が。
…朱里さん、今は何処にいるの?…私の声が届かないなんて、絶対に有り得ないと言っていたじゃない?…どうして最近は、返事もしてくれなくなったのよ?
先日、朱里さん自身がこう話してくれた。私の元から遠くに離れれば、私と会話する相手の声は徐々に聞こえなくなり、限界となるほど私の心の声しか、聞こえなくなるようだ。そういうことならば、今も私の心の声だけは、聞こえているということだ。それなのに、彼女からの返事がない。彼女が学校に来た、初日以降は……
私の今の本心を一言で言うと、途轍もなく寂しい。身近に例えるならば、年の離れた実の姉が、私達の元から旅立っていく、そういう気分だと言えるだろう。
学校からの帰宅時、朱里さんは今までと何ら変わらない様子だ。私の方がどう言葉を掛けていいのやら、戸惑うというのに…。普段と変わらない態度で、私の心の声にも返事をしてくれる。私と離れている間の出来事は、一切自分から触れてこなかった。試しに…私から訊ねてみても、何となく誤魔化された気がする、今日この頃である。私には遮断された彼女の声は、聞き取れないのだから……
…だって、紗明良の心の中の声は、授業中にさえ聞こえてくるのよ。それら全てに応えていたら、貴方の勉強の邪魔になるわよね…。元々貴方は、それほど器用ではないのだから、貴方のことでは私がしっかりしなくちゃ!
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私が姉に対し、トラウマを抱えている。友人達はそう思ったみたい。トラウマなんて全く抱えてないが、実際にルックスやスタイルという外見的な要素で、何度か姉と比べられたことはある。但し、学校の成績などの頭脳面では、姉が私と比べられることもあったので、どっこいどっこいのことだと思うよ。
「私はよく外見で判断されるけど、紗良は内面を見てもらえているし、私は逆に羨ましいと思う。紗良は、私の自慢の妹なのよ。」
「そ、そんなことないよっ!…お姉ちゃんは、心も綺麗な人だもん。私の自慢の姉さんだよ!」
「ありがとう、紗良。大好きよ!」
「……私もっ!…お姉ちゃん、大好き!」
これがよくやり取りされる、私達姉妹の会話だ。お姉ちゃんは何時も、私を自慢の妹だと言ってくれるから、私も同様に自慢の姉だと張り合ったりする。姉は優しい声で私を、『紗良』と呼んでくれるのだ。普段からのほほんとした姉は、滅多に怒らないというのに、自分の悪口を言われるよりも、何故か妹に対しての悪口には、本気で怒るような妹思いの姉である。
男子からだけでなく、人柄の良い姉は同性にもモテる。だからこそ本気で怒る姿の姉は、非常に怖い存在なことだろう。私に対する悪口が減ったのは、勿論姉のお陰であろうか。弱き者を助け強き者を挫く、そのお手本のような姉は、誰からも好意を持たれた。弱虫の私と違って勇敢な姉は、私の憧れの存在でもあるのだ。
そういう姉を羨ましいとは思えど、憎しみや僻みなどの感情は、一切抱えることがなかった私。当然のことながら姉に関することでは、トラウマを抱えたことは一度もない。勿論私は、トラウマ自体を抱えてないんだけど、ね……
それよりも寧ろ、お姉ちゃんに同情している私。美人だからと外見でモテることも多く、男子達にしつこく纏わり付かれたこともある、と本人から聞いている。これが私だったら…と思えば、男子と距離を置いている私にとっては、物凄く恐怖なことでもある。だから私は、姉を憎いとは思わない。美人の姉は姉で、そういう現実と闘っているのだから。
「私は、好華ちゃんと希空ちゃんが思うほど、打たれ弱くはないんだよ。カルラが言うように、私は『謙虚』な人間でもなく…。お姉ちゃんの苦労も知っているから、お姉ちゃんに憧れたとしても、お姉ちゃんみたいになりたいとは思わないよ。誰にでも優しくて芯の強いところは、私にはお手本みたいな人なの。」
「…そうなのかあ。
……あははっ。好華ちゃんのお兄さんに会ったことがないけど、彼女が普段から語る話では、ちょっと意地悪っぽい感じの人、なのかな…。好華ちゃん家は中小企業と言えども、其れなりに名の知れた会社でもあるし、彼女のお兄さんは長男で嫡男なのだし、次期社長としてそう見えるだけかも、しれないけど……
「…ふふっ。そういう風に言うわりに、お兄さんの悪口を他人が言うと、物凄く機嫌が悪くなるのは、誰?」
「………別に、機嫌なんて悪くない。兄の悪口を言うのは、妹の私の特権なんだから、それを取られて…嫌だっただけ。…本当に、それだけなんだからっ!」
小中学校から一緒の2人は、お互いの事情をよく知っているらしい。希空ちゃんが言うには、好華ちゃんはお兄さんの悪口に関して、自分以外を許せない傾向があるのかな…。自分だけの特権なんて、天邪鬼な好華ちゃんらしいよね…?
「好華の彼氏も、何となくお兄さんに似ているし。」
「……っ!?………ち、違うからっ!…絶対に、似てないからねっ!!」
昔からの付き合いらしく、好華ちゃんの彼氏のことも、希空ちゃんはよく知っているようだ。当然の如く、好華ちゃんは全否定していたけど。希空ちゃんがそう話すぐらいだから、似ているところがあるんだろうね?
……ふ~ん。好華ちゃんの彼って、お兄さんに似ているのか…。一度も
私と同じくカルラも、この2人とは高校で出会ったばかりなので、当然何も知らないだろう。ちょこんと首を傾げ、目を丸くする様子が私にも分かった。私がカルラを観察する間も、好華ちゃんと希空ちゃんの2人はまだ揉めている。
「優しくて格好良い彼と、妹に意地悪なお兄が似ているとか、有り得ないんだからね!……希空のバカっ!!」
「好華から見れば、似ていないのだろうけど…」
「当たり前でしょ!…絶対に、似てないわ!」
「……ハイハイ、分かりました……」
結局、意地を張る好華ちゃんに、希空ちゃんが溜息を
私は、2人を微笑ましく見守る。今後、私が厄災を受けると知らずに………
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前回の話から、数日後~1か月以内の話です。久しく、コロナ禍を話題にした流れにするのを、忘れていたような……
マスクしている筈なのに、顔の表情に触れた部分もあったのですが、それを回収する為の話を漸く書くことができました。まあ、直ぐ顔に出る主人公は、マスクしていても分かるということで。今回は容姿に関して、触れることにしました。
透明マスクの一件は、未来ということもあって、このぐらいの未来には開発されているだろうと、願いつつ……
※タイトル番号の間違えあり、訂正しています。
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