l.もしかして…恋に落ちたの?

 幽霊とイケメンが会話をするという、中々にシュールな光景が、私の目の前で繰り広げられていた。いや、私も同類だと言えるけど、何となく別の意味でシュールさも感じる。ご先祖様・朱里さんが美少女な所為で、余計に…。簡潔に述べれば、彼らが会話する姿を異様に感じつつ、凄く絵になっていると見惚れていた。彼らは目の保養になるけど、逆に私では見劣りするだろう。


…私とは、大違いだね。平凡に生まれたのは、ちょっぴり悲しいな。もう少しマシに生まれたかったよ。


その時、1人哀愁を漂わせる私の方を、高峰君が振り返ってきた。バチッと音が出そうに、目が合った私達。思わず身構える私を、真面目な顔で見つめてくるけど、今度は何が言いたいの?


 「君は何時いつも僕のけれど、今まで審神者の能力があるとは気付かなかった。朱里さんが一緒に登校していなければ、今後も知らずに済んでいただろうね。」


…ううっ。朱里さんが一緒に居たから、気付けたとは…。別の空き教室で、待機してもらえば良かった…。高峰君以外の生徒(カルラは別だよっ)の中に、彼女の姿が見える人物が他にも居るのかな?


…あのね、紗明良。私が教室に居ない方が、貴方は気が楽だろうけれど、私が退屈するのよ。今度からは先に、私の話も聞いて頂戴。


高峰君に見られたお陰(?)で、良い方法が見つかった。単純に私がそう考えていたら、肝心の朱里さんはお気に召さないらしく…。学校の誰も居ない空き教室に、1人で待たされるぐらいなら、自宅で待つ方がまだマシなのかな?…だけど、そうしたくとも。抑々離れられない所為で、留守番してもらえなくて、正直言って困るのよ。


私と朱里さんは現状、ある程度までしか離れられない。学校でもどこまで距離を離せるかは、試しにやってみないと分からない。取り敢えず、私の教室とは一番近い空き教までは、大丈夫だと確信してるけど、どうなるか。


音楽室や美術室がある別校舎は、私達の教室がある校舎からも離れていて、建物が別となる校舎への移動は、朱里さんと共に行動することになりそうだ。学校の食堂は、教室から更に離れた別校舎にあり、彼女と離れられない距離にある。入学前の学校見学で食堂を利用したけど、その後は私も学食を利用していない。流石に彼女を食堂に連れて行けないし、今後も学食は利用しない方が良いかな……


 「君達は仲良しだね?…,羨ましいな。僕も仲間に入れてほしいぐらいだよ。」

 「…えっ、仲間に入れてほしい…って?…高峰君こそ何時も、大勢の生徒に囲まれてますよね?……羨ましいのは…もしかして、高峰君も審神者になりたかったのですか?…朱里さんのようなご先祖様と、仲良くなりたいのですか?」


不思議に思った私は、首をちょこんと傾げた。私の立場から見れば、高峰君の方が羨ましい状況だと思うよ。但し、私は大勢の生徒と話したいのではなく、羨ましいとも思わないのだが。同性にも異性にも好かれている彼は、審神者になりたかったとか、ご先祖様と仲良くしたかったのか、…と私は思ってしまう。


……変だよねえ…。『高峰君』と言えば、イケメンで人懐っこくて、誰にでも分け隔てなく優しくて、沢山の友人を持っている。それに、彼よりも友達が少ない私のことを、羨むような状況でもない。


こうして私は、本人に直接疑問を投げかけてみた。彼からの返答を待つ僅かな時間さえ、妙に長く感じてしまう。その僅な時間にも、疑問が次々と湧いてくる。私の疑問を聞いた瞬間、彼は苦笑いするような複雑な表情を、見せた。彼のその表情を見た私は、目を何度か瞬かせて。


……あれれっ?……高峰君のあの顔は、どういう意味なの?…私、何も変なことを言ってない筈だけど。私の所為じゃ…ないよね?


……紗明良は本当に鈍すぎるわ。私が気付いても貴方が、意味がないのよ。どうして貴方は、そういうおかしな発想になるのかしら?…貴方の保護者として、頭が痛くなるわ……


思わず心中で呟く私に、私の心の声を聞いた朱里さんは、私の心が理解出来ないと言いたげに告げ、溜息をいた。彼に質問した私を責めるようにも聞こえ、まるで自分は彼の味方だと言われたような気がして、私だけが置いてけぼりを喰らったように、感じてしまう。


この時の私は、肝心なことに気付かず。朱里さんは何時、私の保護者になったというのか。本来、真っ先に問うべきだったのに。私は他のことに気を取られ……





    ****************************






 「君はすぐ、顔に出るタイプだね?…朱里さんが色々言いたいのも、理解出来るかな。僕は羨ましいと言ったけど、君の思うところとは掛け離れている。どれだけ大勢の友人に囲まれても、僕を理解してくれる人間は、ほんの一部の人達だけだ。それに比べたら君達は互いを、本心から思いやりまた理解しようと努力し、そういう姿が羨ましいと思えた。これは単なる、僕のヤキモチでもあるんだよ。」

 「…………」


高峰君の答えは、私の想像より斜め上だ。あれ、ヤキモチだったのね…。彼みたいなイケメンも、ヤキモチを焼くんだ…。彼の悲しみを見破ったからこそ、朱里さんは私に忠告してくれたのか。今までの私の感情は間違っていたと反省しつつ、何故か余計にモヤモヤと…。


……う~ん、誰にヤキモチ焼いたの?…私に…ではなさそうだし、朱里さんに対してなのか…。彼女はモデル並みの美人さんだし、仲良くなりたい気持ちも理解できる。高峰君はこういうタイプが、好みなのかな?


私の頭の中で大量の『?』が飛んだけど、漸く私も理解できるかな。ヤキモチだと知ったことで、自然に答えが導き出されてきそうだ。だって私は、彼が誰に好意を向けているか分かったから。


彼の本心を知った(?)ことで、無意識に私の顔は若気にやけていたらしい。彼は朱里さんに恋をした。そう都合よく思い込んだ私は、身近な者達の恋愛を垣間見た気に、なっていたのかもしれない。お似合いの2人の姿に満足しつつ、1人興奮気味になっていたようで。その若気た顔のまま、朱里さんの方を振り返った私に、思い切り顔を引き攣らせた彼女は、呆気に取られたように私を見つめている。


…うんっ?…どうしたの、朱里さん?……朱里さんは高峰君の気持ちを、どう受け止めてるの?……もしかして、朱里さんも……??


彼女のその様子を不思議に思いながら、私は心の中で問い掛けた。内心では彼らの恋愛模様に、1人盛り上がっていた私だけど。如何どうやら彼女は、私の考えに不満を持ったみたいだ。


…はああ~~、紗明良ったら…。貴方の考えは抑々、間違ってるわ……


暫し無言で私をジッと見つめ、言葉少なめに返してきた。この短かい時間でげっそりやつれたかの如く、疲れ切った顔をして。私の考えが間違っているとは、どういう意味なのか。何が間違っているのか、教えてよ!


 「……ドンマイ、朱里さん。貴方の気持ちは、僕もよ~く理解出来る。」


今話題の中心である高峰君が、私達2人の話に割り込んでくる。私はつい眉をきつく顰め、彼の方を振り返った。彼の顔は先程同様、苦笑交じりの表情で。何となく後ろめたいような気配を感じるのは、私が


……んっ?!……高峰君は朱里さんの気持ちが、理解出来るのね?…それほど朱里さんに、ぞっこんなのかしら…。朱里さんは…どうこたえるのかな?


人の感情を読み取るのは、超がつくほど苦手な私。勉強はほどほどに出来ていたとしても、恋愛経験値としてはゼロだった。異性から好きだと言われたこともなければ、それ以前に私が異性に恋することも皆無で、私には恋愛経験が全くなかった。勿論、彼らの本心が分かる筈もなく、それでも今の私が蚊帳の外に居るとは、十分に理解していた。


…彼らの間には共通の話題があっても、私は全くついて行けないよ。こういう2人の状況を、馬が合うと言うんだろうね。…ううっ、疎外感がきついよ……


私は朱里さんと仲良くなるまで、暫く時間が掛かったというのに、高峰君はあっという間に、朱里さんの心を掴んでしまったみたい。出会った当日、僅か数分の間に彼女の心を掌握した彼に、称賛に値すると褒めたいけれど、今はちょっと嫌なんだよね。だって彼女は、私のご先祖様であり守護者でもあるのに、他の関係ない誰かに奪われそうになるなんて……


朱里さんと心から打ち解けたのは、まだ最近のこと。幽霊の類が怖くて、朱里さんのことも同類に見ていた私が、全面的に悪いと言えるだろう。それでも、高峰君にお株を奪われた気がするのは、余裕のない私だから…なのかな?


…恋とは何とも、不思議で恐ろしいものなのね。審神者になってから凹む暇もなかったのに、谷底に落とされた気分だわ。自分が恋愛部外者になると、こうも切ない想いをするとは…。


枠外扱いの自分を憐みつつ、彼らの恋愛には興味津々である私は、1人顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。私の心中を見抜いたらしき高峰君は、突然クツクツと楽し気に笑い出したかと思えば、私の机に両肘をつき顔を支える形で、私を観察するかの如く見つめてきたのである。私が顔を上げた途端、そういう態度を取る彼に、ギョッとさせられて。私、観察されてるの…?


 「相変わらず君は表情が物凄く豊かで、見てて飽きないよ。そういう風に勘違いするとは、予想外だよ。君がそのつもりなら、なろうかな?」

 「……………」


見てて飽きないとは、あまりにも失礼だ。こういう状況でなければ、私は彼を嫌悪していたかもしれない。私には何も身に覚えがないし、そのつもりとはどういう意味なのか…。彼が本気を出すという言葉に、何故か恐怖を覚えたのは、私の気のせいなの?


…うわぁ、彼の中に悪魔が見える…。彼の中での『本気』が、逸脱しているように感じて。ねえ、私に恨みがあるとか…じゃないよね?






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 今回もクラスメイトとの朝のやり取り、続きです。恋愛に疎い紗明良は、恋に目覚めることができるのか……?


相変わらず、紗明良の勘違いがヒドい…。当分の間は、朱里さんも苦労が続きそうですね。如何やら高峰君は、とある決心をしたようで…。


男子生徒との朝の遣り取りは、これで終わりになります。朝の続きからか、授業後にするか、それとも数日後にするか、次回は何処から始めようかな……

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