k.誤魔化しても無駄だったよ…
高峰君にはハッキリ見えているようだ、朱里さんの姿が…。神社やお寺と密接な神代家の親族の中にも、何人か見えない者が居るけど、逆に全く無関係な一般人の中にも、僅かに見える人が居る。「十分に気を付けるんだよ」と、おばば様に忠告されていたのに。
…登校早々から、バレちゃった…。よりによって高峰君にバレるなんて、今日は何ともついてない日、なのかな…。ふう~~~。
これ以上誤魔化しは利きそうもなく、其れなりに覚悟を決めた私は、長めの溜息を
「昔からずっと思っていたことだけど、紗明良の感覚はズレてるわ。運がついているとかついてないとか、全く関係ないわ。
朱里さんが私の耳元で、こそこそ告げる。…う~ん、それほどズレてる?…朱里さんの勘が良過ぎるとかでは、ないの?…ついていない日は、関係ないの?…高峰君の執念とは、どういう状況なのかな?…遅かれ早かれバレるのは、状況的に今日だからだよね?…想定外だったものね、私も朱里さんも。
私の心の呟きに対し、朱里さんは明らかに呆れたような顔をする。何故そういう顔をするのか、私は頭の中で追い付かず、幾つかのハテナマークが飛ぶ。勉強は得意な私でも、こういう心理戦で相手の心を探るのは、超が付くほど苦手だ。
「高峰君には、彼女が見えるのですね…。彼女は『朱里』さんと言って、神代家のご先祖様なのです。普通の幽霊とは異なり、私のような巫女の能力を持つ人だけに、彼女の姿は見えるようですが、高峰君は何故…見えるのですか?」
私は一気に言い切ったので、やっと息が出来るというように、ぷは~と思い切り空気を吸い込んだ。恥ずかしがり屋な私が男子と会話するには、其れなりに勇気のいることだ。幽霊も怖い相当のビビリの私に、男子相手に心理戦をするのは、難しいことである。「まあ、いっかあ~」と後回しにし、深く考えるのを止める。正直に言えば、私には全く向かない戦略なんですよね……
「……くくっ、君は本当に面白いね?…正直過ぎて全部顔に出るし、君のご先祖さまからも呆れられているし…。牧村さんだけでなく、君の従兄妹であるもう1人の神代さんが、過保護なほど心配するわけだな……」
「……………???………」
高峰君には朱里さんが、確実に見えている。その証拠として、朱里さんが私に向けた今の会話を、聞き取れたようだ。彼女が呆れているのは、私も知っている。正直過ぎて顔に全部出るというのも、おばば様には勿論のこと、両親や姉にまでよく言われることだった。だから、やっぱり顔に出てるのか…と、納得したけど。
牧村さんとは、好華ちゃんのことだ。そして、君の従兄妹の神代さんは、カルラのことだろう。高峰君は結局私の疑問に
…ああ。確かに好華ちゃんは何時も、私を心配してくれるものね?…彼女はああ見えて、面倒見の良いお人好しさんだ。しかし、高峰君は勘違いしてるよ。カルラが私を心配するのではなく、私がカルラを心配してるのよ。親じゃあるまいし、過保護なんて大袈裟なんだよ。高峰君も、冗談はほどほどにしてよね…。
今の私の心の声に朱里さんから、透かさずご意見を頂戴することとなる。先程までの小声で伝わる感じと異なり、何時もの普通の音量で聞こえる感じだ。もう自分の存在はバレたのだからと、朱里さんはサッサと方向転換し、開き直ったみたいだ。それにしても高峰君が、朱里さんの詳細な様子まで見えるとは…。これではいくら私が誤魔化しても、簡単にバレる筈だよね…。
「……はあ~。今回ばかりは
……風希とは、おばば様のことよね?……う~ん、心理戦かあ。私の苦手な分野だしなあ。私も勉強だけが大切だとは、思っていないよ。日本でそれほどの心理戦が必要だと、思っていなかっただけなんだよね……
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「君の先程の質問に答える前に、幾つか確認したい。僕が巫女の能力を持っていない筈だから、見えない筈だと思っているのかな?…僕が巫女の血筋じゃないと、言いたいんだよね?…残念ながら僕は君の状況と似ていて、これでも一応巫女の血筋なんだ。今はまだ詳しい事情は話せないが、僕の家には巫女の血を引く子孫が、何人か居るんだよ。そして僕も、その内の1人なんだ。」
高峰君はチラッと朱里さんに視線を送り、苦笑気味に微笑む。…ん?…何となく好意的な視線を、彼女に送ったような…。彼女が先程、高峰君の言い分が正しいと褒めたのと、関係があったりして……
「……えっ?……神社の血筋?……高峰君が?…………」
彼の説明に依ると、私と同様に巫女の血を引いた家系らしい。これ以上は内緒と言いたげなところから、審神者の能力を持つ親族も、高峰家に居るのかもしれない。そういう理由ならば、詳しく話せないのは当然だと思う。別に敵対することはないだろうけど、何故か…相容れない関係でも、あるのよね……
「紗明良、貴方の睨んだ通りのようね。先程まで私も、なるべく霊力を封じ込んでいたの。今ならば彼の波動が、はっきりと伝わるわ。
「代々審神者となる神代家とは違い、僕の家は抑々巫女とは全く関係ない、家系なんだよ。但し、それらの事情とは関係なく、霊が見える能力を僅かに引き継いだらしく、僕は昔から頻繁に幽霊も見えるし、君みたいに審神者になるのかどうか、見ただけで判別出来てしまう。たけど…君みたいな審神者には、初めて出逢ったというべきかな…。勿論、こうして常時姿を現した審神者の守護霊も、朱里さんが初めのことだよ。本当は僕自身、動揺しているんだ。これでもね……」
高峰君は朱里さんをチラチラ見つつ、私の疑問に応えてくれる。やはり彼の家は正統な巫女の家系ではなく、無関係の家柄のようだ。如何やら彼は、自分の家の詳細な事情を知られたくないらしい。きっと其れなりに有名な家柄、一度聞いたら簡単には忘れられない、そういう可能性が強いと、私は密かに思いつつ。
「正統な血筋でなくとも、これほど強い波動を感じさせるとは。私も初めて経験すると、言えるわね…。
朱里さんは私の代弁者として、高峰君に問う。彼女の言うところの波長や波動とやらは、私には感じられず…。彼も同様に、感じていないように思う。こう見えても朱里さんは私の守護霊でもあり、人間が見えないモノが見えていたとしても、おかしくはないけれど……
「……ええ。貴方の姿ははっきり見えてますし、声も聞こえます。神代さんが以前からそういう能力を持つのは、何となく気付いていたんですが…。まさか、こういう審神者の能力者だとは、思っても見なくて驚いたよ。」
高峰君は何故か朱里さんには、丁寧な言葉で返答してくる。前半は彼女の問いに応えるようにして、後半は私に向けて話したみたいだ。そんなことはどうでも良いことだと、当初の私は特に気にしていなかった。ご先祖様とクラスのムードメーカーのような彼とが、こうして話す様子に美男美女でお似合いだなあと、のんびりと捉えていた私だったけど。
道理で誤魔化しが利かない筈だと、そう納得し掛けていた私は、たった今の彼の発言の中に、見過ごせない言葉を見つけたのである。その瞬間、私の思考は一瞬止まってしまう。
……んんんっ!?……どういうこと!?……高峰君は以前から、私の能力に気付いていたの?…私の審神者の能力が開花したのは、まだ最近のことなのに…。
が~~ん。そういう漫画のようなショック音が、私の頭の中で響く。以前から気付いていたということは、ある程度前から気付かれていたということだ。もしかすると高校に入学した直後から、知られていたのかもしれないと思えば、現状の私の頭の中ではあらゆる思考が、ぐるぐる回っている。呆然と思考の渦に吞まれかけて、朱里さんの存在をふっと思い出した私は。
…そうよっ!…私には朱里さんという味方が、居るじゃない。朱里さんは審神者の詳しい事情を、知っている筈よ。今の高峰君の話を、どう思ったのかなあ…。
正式な審神者になる前でも、分かる人には分かるのか。正当な神社関係者の家柄ではなくとも、審神者の事情をある程度は知り得るのか。私の波長とか波動が漏れ、それを感知されたのか。其れとも…高峰君の存在自体が、異例過ぎるのか……
これ等の事柄を、朱里さんに問おうとした。ところが、何時の間にか私の後ろから移動し、何故か高峰君の正面に立ち(?)、彼をジッと観察するように見つめている。自分の目の前に移動して来た彼女を、彼もまた同様にジッと見つめ返して…。今までの状況を知らなければ、2人の姿は見つめ合うように、見えなくもない。
「……ふ~ん。なるほど、そういうことね~。
「…あはははっ、貴方も苦労されておられますね。そういう点で、非常に気が合いそうですね、貴方とは…」
私の存在を無視するような2人に、何故か…顔を顰めたい気分の私であった。
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クラスメイトとの遣り取りが続きます。
朝の学校の遣り取り、後少しというところかと。朱里さんの声まで聞こえるという彼に、誤魔化せず…。これで、2人に共通の秘密が出来たようですね。
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