h.守護霊様との距離は少しずつ

 その後、私と守護霊様は心を通じ合わせ、常に一緒に居る。


そう言えたら一番いいのだろうけれど、実際のところはちょっとだけ違う。ご先祖さまも私同様、過去に辿分かっていても、今直ぐ全てを受け入れろと言われたとしても、出来る訳がないのだ。つまり、幽霊と共に行動することになった結果に、私は未だにとても戸惑っているのである。


私の家のご先祖様で、私の守護霊様でもあるとは頭では理解出来ても、はいそうですね…という具合に、全てを受け入れることとは、意味が異なることだろう。幽霊が怖い私にはどう考えても、彼女が幽霊と同類にしか見えないのだから。


 「…おやっ?…漸く、見えるようになったんだね?」


おばば様には報告する前に、直ぐバレた。おばば様はそういう霊の類が見える人だから、まだ良い。我が家では私以外は、如何やら…誰も見えてないらしい。お母さんは言わずもがなだし、神代家の血を引くお父さんとお姉ちゃんも、全く見えないことに今まで安堵していた私。


 「どうして2人は見えないのかな……」

 「あの2人は残念ながら、神代家の血を引く者の中では、力が弱すぎる。紗明良の力が、別格なの。逆に、強すぎるということ。」


私はつい、独りちてしまった。それにこたえるように、私のすぐ傍から声が聞こえてきて、まだ慣れない私は…つい、ビクッと肩を揺らす。当然ながら、私の守護霊様が応えた訳だけど、当分は慣れそうにない……


現在、私は登校途中で電車に乗っている。周りに人は誰も居らず、それでつい独り言を呟いた。まさか…私の守護霊様が、お応えになるとは。例え、彼女の声が誰にも聞こえないと知っていても、彼女が話す度に心臓が止まりそうになる。ほんと、悪い冗談だと言いたい。


…守護霊様の仰る通り彼女の姿は、見える人にははっきり分かるのね。昨日おばば様に報告しようとして、神代本家に顔を出した私は、偶然本家に来ていたカルラと会ったのよ。それで、カルラにも説明したんだよね…。カルラに何も説明しない状況で、学校で再会していたら、守護霊様に話し掛けてくるかもね…。実際にカルラは守護霊様に、直接話し掛けていたし…。油断ならないわ……


 「…あっ、サラだっ!…サラも、此処に来ていたんだね?…あれっ、サラの後ろにいる…その人、誰?」


本家で互いの目が合った途端、そう話し掛けてくるカルラ。偶然の再会に、如何いかにも嬉しいという表情だが、明らかに私の後ろを見て、彼女の顔が曇る。私の後ろとは、守護霊様のことだろう。どう…説明すべき?


 「…初めまして、カルラ。私は紗明良の守護霊で、貴方達のご先祖様に当たる存在よ。貴方とも漸く、なったわね?」

 「……えっ?…サラの…守護霊?…サラと私の…ご先祖様?」


私がどう説明すべきか、頭を捻っている短時間の間に、守護霊様が私の代わりにしっかり、ご説明してくださる。単刀直入なご説明を、ありがとうございます……


カルラはあまり驚く様子がなく、守護霊様が睨んだ通り、やはり随分前から見えていたのかも…。但し、私が守護霊様を把握しない限りは、私以外の霊が見える人達も、ハッキリと姿を捉えられず、霊の類だと気配を感じる程度だと…。おばば様もカルラも親族達も、今迄はそういう状況だったようだ。こうして私が守護霊様の主人となることで、皆も認識が出来るようになるらしい。


私の直ぐ傍に、何かが居る。そう気付いていながらも、カルラもおばば様もその存在ぐらいしか、認識できないとは…。勿論今回は、声も聞こえるようになったらしく、カルラも応答していたけど。


 「おめでとう、紗明良。漸く、能力が開花したのね?」


この場に居た親族達が、祝いの言葉をくれる。但し、私の心の中は複雑だ。これで私は、当主の座からのがれられない…。


 「紗明良、今後は十分に気を付けなくてはいけないよ。守護霊が見える人は多くはないが、くれぐれもその力を悪用されないよう……」

 「はい…。おばば様。」


おばば様の部屋には私とおばば様だけで、何故か守護霊様の姿がなかった。私が気付いた時には、私の傍に居なくて。守護霊として、状態ではなかったの?…と、首を傾げていた私。


 「お前さんの守護霊限定の話だが、同じ建物内であれば離れても、大丈夫なのだろう。神代家は当然のこと、電車内や学校内など同じ空間であれば、少しの間ならば離れていても平気そうだね。」


…ええっ!!…おばば様、それって…本当に?…私から離れても大丈夫?…それならば極力、私から離れてもらえないかなあ…。


如何やら私の気持ちはお見通しらしく、おばば様は顔を顰めつつ、やれやれと言うように溜息をく。だけど、おばば様に呆れられても、仕方がない。私は未だ霊が怖いのだから…。






    ****************************






 「サラはご先祖様のこと、何て呼んでいるの?」

 「…えっ?…ああ、紗明良には私の名を、まだ伝えてなかったわ…。」

 「…えっ?…それ、一番大事なことじゃない?」

 「そうよね…。紗明良は私をとても怖がるから、名乗る機会を失ってすっかり失念してたのよ……」

 「…あはっ!…そうなんだあ~。ご先祖さま、可哀そう~。サラは、超怖がり屋だもんね。あはははっ……」


私が居ない所で、守護霊様とカルラが交わした会話だそうだ。カルラは悪気なく話したつもりだろうけど、ご先祖様は皮肉を言われたと感じて、気を悪くされていなければいいのだけど…。しかし、守護霊様は別の意味で捉えられたみたいだ。


 「カルラは紗明良のことが、本当に大好きね。貴方に構ってもらいたくて、仕方がない様子だったわよ、ふふっ…。見た目よりも随分、お子ちゃまみたいね。」


守護霊様は守護霊様で、言いたい放題だった。別にお怒りの様子もなく、馬鹿にする訳でもなく、揶揄うという雰囲気でもない。それよりも、カルラが私のことを大好きで、構ってほしくて仕方がないなんて、考えたこともなかった。確かに…そう見えるといえば、そう見えるのかも。


…私もカルラのことをなんだかんだと言いつつ、面倒見ているんだよ。偶に彼女の話す言葉遣いや話の内容に、イラっと来ることもあるけどね。其れさえなければ、実の妹みたいに可愛がっていたよね…。


出会った当初は、私の方が大きくてお姉ちゃんに見られていた。何時からかカルラの方が背が高くなって、胸も…彼女の方が立派になっていた。逆に、私の方が妹に見られることが多くなって、私はショックで距離を置くようになる。そう言えば…その頃からかな、カルラがああいう状態になったのは。他人を見下すなど、問題ある言動を取るようになって……


…もしかして、私が原因だったの?…私が…変に意地を張って、距離を置こうとしたから?…私や他の人が、信じられなくなったの?


 「…紗明良は、変に真面目よね。そういうことでは、ないわ。今のカルラには、貴方が一番必要なの。、敢えてマウントを取っているのよ。特に貴方に気のある同性や異性達には、貴方のことは自分が一番熟知していると、知らしめているの。だから、紗明良が責任を感じることでは、ないのよ。」


そうだった。守護霊様には、私の心の声は全部聞こえている。おばば様に言われた通り、私はもっと気を引き締めなければならないだろう。別に今は、それほど嫌じゃない。それでも…と、ひっそり溜息を吐く。今の私は、守護霊様に限らず誰でも心を読めるほど、丸ごと顔に出るタイプだから。


 「…それより、大事なことを忘れてたの。まだ私、貴方に私の名を教えていなかったわ。…私は『朱里しゅり』、『神代朱里』よ。これから、宜しくね。」

 「…こ、此方こそ、ごせ……朱里さま。」

 「貴方と私は、運命共同体と同じなのよ。一々、『様』付けしないで…朱里でいいわよ、呼び捨てで。」

 「…あっ、はい…。では、朱里さん……」

 「……はあ~。まあ、それで…いいわ。」


私のご先祖様なのだから、当然苗字が神代姓だろう。フルネームで名乗られ、違和感を感じた私。どう呼んで良いのか分からず、取り敢えず『様』付けにしたけど、彼女のお気に召さなかったようで、今度は『さん』付けにしてみたら、呆れられてしまったようだ。するのに、まだ慣れそうになく。


…仕方がないよ。カルラと違って私は、この神代家の次期当主として、礼儀作法も幼いことから習っていたんだもん。目上の人にはきちんとした礼儀を…と、おばば様からは厳しく教わっていたからね。ご先祖様と分かっている人(?)に対して、安易に呼び捨てなんて出来ないよ……


あれから…少しは朱里さんとも、仲良くなれた気がする。朱里さんは現在の風景が珍しいらしく、私と離れられるギリギリまで飛んで行っては、せわしく燥いでいた。空が飛べて良いなあ…という感想をいだきつつ、私はいつも通り登校する。


私が特に気にしなくとも、彼女とはある程度までしか離れられなくて、距離が離れ過ぎれば自然と、彼女の魂が私の方へと引き寄せられるようだ。今は彼女のしたいようにさせてあげようと、私は一切気にしない方向だ。それに私は登校中なので、学校に遅れないように行きたいだけである。


朱里さんには、現在の世界を眺め楽しむ様子が見られた。彼女の話に依れば、彼女が生存していた時代に似ているようで、ということらしい。彼女は如何やら、21世紀頃に生まれたらしくて、私が興味を持ち調べていた時代でもあったりする。


…私が…朱里さんの存在に慣れた暁には、彼女の生まれた時代の話を、是非とも詳しく訊きたいかも。


こうして、私と守護霊・朱里との関係は、始まったのである。私が彼女を幽霊として見なくなるのも、主人と守護霊との関係を超えることも、そして…彼女を呼び捨てに出来るようになったのも、もう少し先の出来事となるだろう。






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 第8話の更新となります。久々に学校の話を書きたかったけど、其処まで話が進まなかった……


主人公と彼女の守護霊の話です。出会った翌日を振り返りつつ、数日を経た登校日の話となっています。


今のところ、カルラは異性よりも、従姉の紗明良が大好きの模様でして…。守護霊様にも牽制するぐらいに、大切な従姉なのですね。決して恋しているのではなく、姉のように慕っているだけですので、お間違いなく。


7月の更新に間に合わなかった…。次回も不定期の予定です。

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