g.ご先祖様側の事情は複雑ね…
「…ふふっ。それほど怖がらなくても、いいじゃない?…私はそこら辺の幽霊と同じ存在ではなく、貴方自身が呼び寄せた守護霊なの。他の成仏した霊達とは違って、貴方に危害を加えることは、絶対に有り得ないわ。」
「私の……守護霊…?」
見た目は少女であれど、全体的に大人びた雰囲気で話し掛けてきた幽霊に、多少の警戒心は薄まったかもしれない。幽霊も含め目に見えない不可思議なもの全てが、物心ついた頃より怖かった私は、神代家後継者でありながらも、怖がり屋さんであった。それは多分、神代家の親族達みんなから、幽霊が直ぐ傍で泣いているとか、今幽霊が居る場所を通り過ぎたとか、逐一聞かされたからだろうか…。
…何しろ私は、一般の人同様に全く見えておらず、そう聞かされる度に物凄く怖い思いをしていたんだよね…。私を揶揄ったり怖がらせようとして、態とそういう言動をした訳ではないと、私も理解しているけど……
神代家の人間は常日頃から、幽霊の存在に慣れている。…否、幽霊の扱いに慣れている、とでも言うべきかな。日常茶飯事のことなので、細かいことには全く気にしないのだろうね、多分…。私が幽霊を見たり感じたり出来ない事実を、親族達もよおく知っていることだけど、彼らには幽霊が見えるのが当たり前すぎて、ついつい私の事情を忘れていると思われる。
私が幼い頃から、神代家の後継者に選ばれた事情もあり、まさか本気で幽霊を怖がっているとは、親族達も知らない真相であろう。…いや、そうだと知っていても、忘れているだけかも。後継者が怖がるなんて、思いもしないだろうし…。
「そうよ。私は貴方のご先祖さまであり、貴方の守護霊でもあるわ。神代家の後継者となる人物は代々、守護霊が付くか付かないかで、決定することが多いのよ。例えあのまま、貴方がずっと見えずにいたとしても、貴方が無意識に私の魂を呼んだ時点で、私は貴方の守護霊となる為に呼ばれたと、貴方がそうなる存在だと直ぐに理解できたのよ。」
目の前の少女の霊は、神代家のご先祖さまであるらしいのに、何故か私みたいな子供を守護してくださるようだ。然もずっと昔から、私の守護霊として意識されていたそうで、私がご先祖さまを見えるようになるまで、只管待っていてくださったようなのだが。私が無意識に呼んだらしく。
…流石にそれは、申し訳ないことをしましたね…と、私は頭を下げたい気分になったけど。ちょっと気になる単語を聞いた気がしたので、質問させてもらっても良いですかね…?
「…あ、あの…毎年、神代家に戻られていたようですが、『肝心の貴方だけは…気付いてくれなかった』ということは、親族の皆さんは…気付かれたのですか?」
「ああ、そのことね。勿論のことだけど…私が見えるのは、神代家の能力を引き継いだ者達だけね。貴方の母親のように外から来たお嫁さんは、見えてないわね。神代家の血を引く者の一部の者達にも、見えない者が居るようだし…。但し、貴方の従姉妹のお嬢ちゃんは、私がしっかり見えているのに、何故か毎回のように見えないフリをしていたけど。」
「……えっ……もしかして、カルラが?…本当に?…見えていたの……?」
一族の全員が見えていないことに、私はちょっとホッとした。お母さんが見えないのは、仕方がない。見えるのは、神代家の血筋だけだから。ただ…カルラが見えているなんて、思ってもみなかった。カルラを見下していた訳ではないけど、ほんのちょっぴりショックを受けていた私……
…カルラは、幽霊なんて怖がらないだろうな。どちらかと言えば、幽霊退治をしちゃうようなタイプだよね…。でも、何で…気付かないフリを、今までずっとしていたんだろ?……もしかして、怖がりの私のために…とかだったりする?
カルラとは従姉妹だけど、特別それ以上に仲がよい訳でもなく、また仲が悪い訳でもない。カルラは元々、巫女になりたいとも思っていないようだし、神代家を継ぐつもりもないみたい。それは本人から聞いたことがあったから、私も断言できる。其れなのに…見えるのならば、後継者候補にもなれたんじゃないの?…などと考えていた、私に対して。
「ハッキリと見えている筈よ。私が確認の為に彼女の傍に寄った時、睨むような目付きで見つめてきたのよ。幽霊姿の私と、目が合ったんだもの。あれは、間違いないわよね…。ただ、ねえ…。彼女の神代家の能力としては、そう大した力ではないわ。紗明良、貴方と比べるのもおかしいけど、そう強い能力ではないのよ。」
****************************
「
私の独り
…それに、どうして分かったのかな?…まるで私の心の中を読んだみたいに、私が質問する前に教えてくださったよね…。私って、そんなに顔に出していたのかな…と、つい自分の顔を撫でるように触ってみたよ。無意識に確認しちゃった…。
カルラの能力が私より弱いというのは、何となく理解できる。何故だかそれを強調するように、語られていらっしゃるようだ。ご先祖さまはまるで私の心を読んだかの如く、神代家後継者にはなれないと教えてくださった。嫌な予感がする私…。
「それについては勿論、貴方の心を読んだのよ。貴方が私を見えるようになった時点で、貴方と私は意思疎通となることで繋がった。こうして…全ての言葉を話さなくとも、何となく頭の中で考えるだけでも、私には伝わるわ。私は元々幽体状態の所為で、元から誰にも私の言葉は聞こえないし、聞こえるとすれば…私の姿を見られる人だけよ。但し、完全に意思疎通できるのは、貴方だけ…ね。」
「……………」
……ということは、私の考えていることはほぼ丸ごと、ご先祖さまに筒抜けということなんですか?!………そんな状態が永遠に続くなんて、いやあ〜〜!!
たった今、私は心の中で大絶叫を上げた。無論今の大絶叫も、しっかり聞かれてしまったことだろう。それでも、急に制御が出来ないというのは、人間らしいと思えた。今聞いたから今すぐに直せる人なんて、この世の中にどれだけ存在しているのだろうか。此方の方が、少数派に違いないと思いつつ。
「…ごめんね?…できるのならば私も遮断したいけど、これは誰しも通る道のようなので、我慢…理解してもらうしかないわ。」
「……………」
…あっ、ご先祖さまったら…。私に我慢してほしいと、お願いされるおつもりでしたのね…。すぐ言い直されてから、理解してほしいとお願いされたけど、もしかしてご先祖も…同じ状況だったのですね?
ご先祖さまはそう告げられた後、苦虫を食べたかの如く顔を顰められ、最終的には無理矢理に笑顔を作られた。心底、困り果てたとでも言うように。神代家後継者となった所以で、誰しも通る道とも言えるのでしょうね。この場合の誰しもは、後継者だけ指し示しているようだ。…はあ〜、複雑。
「…ありがとう、納得してくれて。どうやら神代家初代さまの能力は、彼女の天寿を全うされた後も、自ら守護霊となられるほどに凄かったらしいのよ。その時、彼女が守護する対象との間で、以心伝心が可能とするように授けられて。そして…それ以降は神代家の能力の1つとし、子孫も受け継ぐことになったのよ。」
…神代家初代さま、か…。神代家では最早、伝説化された大物人物であり、彼女の残した能力を受け継ぐことで、その能力はより伝統化されていったのよね。
初代さまのこの嘘のような能力に関しては、我が家の伝説のように聞かされて育った立場なので、初代さまの能力が桁外れだったことは、私もよく知っているつもりだ。それでも、こうして自らその片鱗を経験すれば、嘘の能力だったとか大袈裟だったとか、そういう思考も無くなる。私も同じく大袈裟だと思っていた、そのうちの1人だけどね…。
「…紗明良。貴方も知っている通り、初代さまは神代家の繁栄を願い、このような加護を受けられるようにされた。当時の私も以心伝心は嫌だったけど、自分の守護者との関係は…誇りに思うわ。私の死後もお盆には会えると信じていたのに、もう二度と彼女に会えなくて…。魂が生まれ変わるからなのか、暫く眠っているからなのかは分からない。そして、守護者達が生まれ変わった後は、二度と神代家に現れることはないわ。今後は神代家以外の者として、生まれ変わるから……」
…守護者となられたご先祖様の告げられた真相は、衝撃の内容だったわ。要するにご先祖さまの守護者は、別の家の者として生まれ変わってしまった、ということよね。もしかしたら、その準備中…なのかもしれないけど。
二度と会えなくなったなんて、寂しいな。折角自分も天寿し、同じ世界で一緒に過ごせるかと思いきや、同じ霊界では相手がどうなったのか分からず終いで、二度と会えない。それでも、再び異なる人生を送るならば、また別の形の幸せが待っている筈である。私は…そう思いたい。ご先祖さまである私の守護者さまには、長年寂しい思いをされたことだと思うけど、今からその分を取り戻して行けたら…と。
「…ありがとう、紗明良。貴方の言う通りだわ。神代家の記憶を失っても、彼女には幸せになってほしい。確かに以前は、寂しかったかもね…。でも今は、楽しんでいる。今は…紗明良と出逢えたことに、感謝するわ。」
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漸く第7話を更新できました。幽霊の正体は……
幽霊姿の少女は、主人公のご先祖さまと判明。名前を出す筈が、神代家の守護者や後継者の話で、今回は終わってしまった……
更新遅くなり、申し訳ありません。最低でも月に1回は、更新したいと思っていたのですが、未来モノに苦戦しております。次回も不定期でお願いします。
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