f.本格的な修行が始まった?
「さて、紗明良。そろそろお前さんに我が家伝統の巫女の儀式を、本格的に教えることにしようかね。お前さんに一番素質があるのは、
「私の素質が……審神者?…それって…もしかして、巫女の身体に成仏した霊の魂を降ろし、代わりに家族とかに伝える…イタコとも呼ばれる
おばば様に大事な話があると呼び出された私は、おばば様と向かい合うように座っていた。此処はおばば様の私室で、この部屋にはおばば様と私しか居ない。何度かこの部屋には入ったことがあったけど、此処までの具体的な巫女本来の話をしたことは、殆どなかった。
私は今までおばば様から、神社の役割やら我が家の歴史やら、後は…表向きの巫女の仕事内容を、教わっただけだった。要するに巫女本来の仕事というより、頭で覚える巫女としての勉強をした以外は、補助的な表向きの手伝いをしただけだ。
…おばば様の部屋に入った時から、おばば様の様子がいつもと違うと、私も気付いてはいたけど…。まさか、漫画や小説に出るような単語が、おばば様の口から出てくるとは……
意外というか何というか、現実的な考えのおばば様の口から言われると、何とも言えないおかしな感じだ。霊の魂を憑依させるなんて、私もおばば様から初めて聞かされたので、首を傾げながらおばば様に訊ねた。本当は心の中でちょっぴり動揺していたけど、顔には出していないと思う。日頃の巫女としての振る舞いや、行事の際に踊ることとなる舞いの練習など、そういうもののお陰なのだろう。
「まあ、早い話はそういうことだが、霊の魂を憑依させるという行為は、一般的には我ら巫女の血を引く者が、自らの身体に呼び寄せることにより、成り立つ儀式であるのだが…。紗明良、お前さんは如何やら同様に呼び寄せたとしても、自らの身体に憑依させることはないだろう。」
「……えっ?!……それって、どういう意味なの?…私は…霊の魂を、口寄せさせられない…ということなの?…私は結局、そういう才能がなかったの?」
「いや、そういうことではない。お前さんに才能が無いのではなく、紗明良は特殊とされる能力を持っている、そういう意味だよ。寧ろ…お前さんの方が、高い能力を持っていると言えよう。」
「………だったら私は、どうして…口寄せが出来ないの?」
…いくら私に特殊な能力があれど、巫女の身体に霊の魂を降ろせなければ、呼び寄せたことにはならないよ…。神代家の跡継ぎとして、漸く責任感を持とうとした私は、がっくりと肩を落とす。折角、色々と勉強したのになあ……と。
「審神者として口寄せが出来ない、という意味ではないんだよ。紗明良は一般的な口寄せを、抑々必要としないだけだ。お前さんは自らの身体に魂を憑依させることなく、霊の魂そのものをこの世に呼び寄せる、それが…紗明良の能力だと言えようか。紗明良は我らとは異なり、抑々媒体が不必要だ。自らの身体を媒体とせず、霊の魂をそのまま呼び寄せられるのは、至極稀なことだろう。それが可能なのは…巫女の家系の中でも、僅か数人存在するかしないかであろう…。」
「…………」
…おばば様の話に依ると、巫女の身体に抑々憑依させなくとも、霊の魂自体を呼び寄せてしまうらしい。そういう人材は元々が稀有な存在らしいけど、おばば様の説明では…私が其れに当て嵌まるとか…。私が媒体を必要としない特殊な能力を持つ存在だと、おばば様は本気で信じているのかな?…私がそういう特殊で稀な存在なのだと、おばば様からそう言われたことに、嬉しいと言うよりも複雑な気分で。
おばば様のことは、人生の先輩として巫女という先輩として、勿論尊敬をする存在ではあるけど、そういう人から特殊な存在だとか言われると、何ともくすぐったいような照れ臭いような気分である。私は返す言葉を失いながらも、おばば様の言葉をどう捉えれば良いのかと、モジモジと身体をくねらせたい思いであった。
「…何だい、自信がなかったのかい?…紗明良がまだ幼い頃に、神代家代表である私が次期後継者にと選んだのだから、もっと自信を持てば良いのだよ。お前さんが私同様に自らの身体に憑依させるならば、もっと早くから教えてあげることも出来たのだが…。何しろ、紗明良の能力は私よりも遥かに強く、幼過ぎる頃に此れをマスターさせるのは、寧ろ危険だと思われたからね。霊の魂を憑依させることに失敗すれば、逆に霊に呪われることもある為、巫女の力で抑えるという意味を含め、自らの身体に憑依させることには、そういう意味もあるのだよ。」
…おばば様の言う通りだ。亡くなった者の魂を呼び寄せることは、巫女の力を持つという巫女の家系の子孫だから出来ることであり、何のリスクも知らずにすべきことでは、ないのよね…。
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あの後、おばば様から呪文のような言葉を、私は教わることとなる。その呪文のことについて語るのであれば、仏教のお経に近い内容の言葉だと例えれば、分かりやすいのではないだろうか?
おばば様が言うには、お経とは全く似ても似つかないもの、というのが真意らしいけれど…。お経と言えばそう聞こえるし、呪文と言えばそう聞こえるだろう。然もその呪文は、大声でハッキリと呪文を唱えてはならないのだ。つまり…誰にも呪文の言葉と内容を、知られてはならないということである。小声でモゴモゴと言葉を濁すようにして、呪文を唱えるのが正式なやり方であった。
…勿論、おばば様から教えられた私は、ハッキリと呪文を聞いている。呪文の言葉もその内容も。師匠(おばば様のことだよ)から弟子(孫の私のことね)に伝える時には、必要な引継ぎだから良いのよね。
如何やら呪文の言葉は代々引き継いでいて、同じ言葉を紡ぐと言うのに、おばば様のように自らの身体に憑依させる者も居れば、私のように幽霊として口寄せる者もいるらしい。…というのも、私はまだ…その呪文を教わっただけで、呪文として言葉には出していない。否、声に出していないと言うべきか。
今の私は既に、自分の家の自室に帰って来ていた。一通りの巫女修業は、疾うの昔に終えている。今後は本来の巫女の力を扱う為に、訓練をすることになりそうだ。今日呪文を教わったばかりの私には、呪文を唱えたところで直ぐには、成仏した魂を呼び寄せるのは不可能だろう。それでも自分1人の時にも復讐しようと、安易に考え呪文を唱えてしまった。
目を瞑った私は誠心誠意の心を込めて、無心となって唱えてみる。勿論、私の周りはシ~ンと静まっていた。やはり如何やら失敗したようだと、そおっと目を開けて部屋の中をぐるりと見たら……
無論のことだが、何も変わった様子はなかった。何となくホッとしつつ、何も起きなかったことに私は安堵する。ホッと溜息を吐いた途端、何となく寒気が襲ってくるというか、何かの気配を感じたというか、じわじわと嫌な予感がする。もう一度周りを見渡しても、誰も居ないというのに冷や汗が止まらなくて。
ふと…何かの気配を感じた私は、私の目の前から少しずつ顔を上げていく。そうすれば其処には、気配を感じた何かが居た。私の身体は恐怖で硬直し、私の顔もまた恐怖で歪んでいることだろう。
「……お、お化け、出た…………」
私は歯をガチガチ鳴らしながらも、何とか声を出そうとするものの、呟くような声しか出せなかった。私は幽霊を見るのも気配を感じるのも、生まれて初めてだったからだ。巫女の家系である子孫であり、巫女の力が高ければ高いほど、本来ならば幽霊が見えていてもおかしくない。実際に我が家の家系では、おばば様は勿論のこと私の父でさえも、見えたり感じたりするらしい。
…私の叔母も
「如何やら漸く、私が見えるようになったのね?…毎年お盆には神代家に戻って来て、貴方達子孫の様子を覗きに来ていたのだけれど、肝心の貴方だけは…気付いてくれなかったのよね…。毎年会う度に、寂しく感じたものだわ……」
「……っ!!!………………」
私の前に現れたのは…お化けこと勿論、幽霊という存在である。今まで全く見えなかった私が、嘘のようにハッキリとその姿を捉えていた。漫画などで描かれる幽霊とは違い、頭から足まで存在していて、まるで普通の人間のようだった。そうなのよね、体が透けていなければ…であったが。
…ゆ、幽霊が見えたっ!!…し、然も……幽霊が喋っている声も、しっかりと聞こえたよね?!……ま、毎年…神代家のお盆に来ていた?!……神代家の私達が子孫ということは、この幽霊さんは…私のご先祖さまですかっ?!
私は初めて見る幽霊に、腰を抜かしていた。私の部屋で空にふわりと浮いている人物は、どう見ても幽霊だと分かったからだ。身体は透明に近く、色は辛うじて持っている程度である。髪の色や容姿からして、日本人の幽霊だと一目で理解した。
腰を抜かし固まる私に、苦笑するような優しい笑顔を見せ、そう語った少女風の幽霊は、如何やら神代家のご先祖さまであり、お盆の度に神代家の様子を見に来ていたようで、私のことも良く知っている…という雰囲気だ。私が気付かなくて寂しかったと言うけど、幽霊を見たいと思っていなかった私は、眉をピクリとさせる。
…ご先祖さまには申し訳ないのですが、私は今まで幽霊が見えなくて、安堵としていたんですよ…。巫女の力は受け継いでいても、霊感が鋭くなくて良かったと思っていたぐらいなんですよ…。
「……ふふっ、思いっきり怖がっているわね?…私は幽霊というよりも、貴方の守護霊に近い存在なのよ。」
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随分と間が空きましたが、第6話更新です。今回も新たに登場者が……
漸くおばば様から、本格的な巫女の修行(?)が開始された模様です。彼ら巫女には一番大切な能力である、成仏した魂を呼び寄せる審神者(イタコとも言う)として、主人公の能力が開花する?!
そして新たに登場したのは、彼女達のご先祖さまのようで……
※タイトル番号の間違えあり、訂正しています。
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