e.私がお嬢様になった理由は…
21世紀以降に、世界中でインターネットが普及したことで、今では色々とその記録がネット上に残されており、一般人でも簡単に閲覧して情報を得る、それが可能な社会へと変貌していた。そうは言えども個人情報の悪用をされない為に、誰もが簡単に閲覧できる訳ではない。個人情報に
逆に個人情報に関係の無い情報は、ネット上で誰もが見ることが出来た。時折ある程度の手順や会員登録も必要とされるけれど、個人情報を見たい時の手続きと異なり、数分で完了するだろう。
21世紀頃にネットが普及した当時は、ネット犯罪の件数も非常に多く、犯人を特定する技術が上がる度に、犯人側も手を替え品を替えの繰り返しで、いたちごっこであったらしい。今の30世紀ではネット犯罪の対策も進み、少なくともネット犯罪が簡単には行われない仕組みとなった。つまりネット上で犯罪を行えば、必ず逮捕されるというのが現状だ。
これは日本に留まらず、海外も同様だ。21世紀の他国とは不安定な仲で、一部の国々では戦争も起きたそうだが、現在表面上は平和を保っていた。特にネット犯罪はどの国でも重要視され、何十年か前から世界中で協力をしている。お陰でネット犯罪も減りつつあると、言えようか。
さて、私は
好華ちゃんと希空ちゃんは、毎日は登校して来ない。カルラだけは私が登校するのに合わせ、毎日登校していた。私が体調を崩して休む時は、カルラも同様に休むらしいが、私の不在時に彼女の失言で尾鰭が付く、結果的にそういう心配もなく良かった。毎回同クラなのは、偶然というよりも必然だろうしね……
カルラが漏らした失言『男子に遊ばれた』とは、男子が私に意地悪したとか悪口を言ったとか、そういう意味である。昔から何故か、私に対し暴言を吐く男子が1人は居る。幼稚園でも小学校でも必ずクラスに1人は居て、然もその人物達は同一人物ではなくて。
その男子達は常に、お姉ちゃんと私を比べるような発言で、如何やらお姉ちゃんに近づきたくて、私に意地悪したみたい。妹の私にヤキモチを焼いたのか、それとも妹の私に紹介させたかったのか。
…その所為で、私は男子が苦手になったんだよね。
その後私は一切、他の男子達にも関わらないようにしてきた。自分から関わらなければ、いくら男子が巫山戯て絡んでこようとも、無視し続けることで相手も諦めたのだから。少なくとも中学まではそうして、男子の嫌がらせから逃れてきた。だから…高校の入学式翌日に、「おはよう、神代さん。」と高峰君から挨拶をされて、目が飛び出そうなくらいに驚いた。今は…高峰君らしいと思うけど。
中学までのクラスメイト達は、殆どが地元の公立高校に入学し、若しくは…地元の私学高校に入学している。私は地元の学校から離れたくて、また神代家の本家のおばば様から、今の高校への進学を勧められたのもあり、試しに受験したら合格したという次第だ。
本家のおばば様とは、私の祖母の姉に当たる人である。何故か私は神代家を継ぐ素質があると言われ、おばば様には可愛がられている。私は本家の人間ではないし、本家から睨まれてもおかしくないのに、神代家の親族達はお人好しばかりなので、このままだと私が継ぐことになるかな…。気が重……。
神代家は代々、本家が継ぐとは限らないようで、先祖代々というほど歴史のある家柄なのだ。但し、数年前までは格式ある家柄と言えども、お金持ちとは無縁の家柄ではあったが。
「神代家の次の代は、『紗明良』に継がせることにした。」
ある日、神代家親戚一同が集まった席で、行き成りおばば様がそう発言した。まだ幼かった私は、何のことだが分からずキョトンとする。「やはり…そうなるか。」と何故か大人達だけは全員、納得した顔をしていたけれど…。
…いや、おかしいよね…。私の両親は普通の会社員で、私は一般的な家庭で暮らす子供だ。神代家はそれほど由緒ある家柄でもなく、古くから続く伝統的な儀式を受け継ぐ家系だとするだけで、お金持ちでも何でもないのに…。私にその素質があると言っても、具体的に何の素質があるのだろう……
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小学高学年生になれば、それなりに自分の境遇も理解できていた。但し、その頃の私にその素質については、まだ具体的な正体を明かされず、また本家の子供が神代家を継がない理由も、理解が出来ない状況であった。
おばば様の一言で、その後の私の生活は一変する。週末は本家で過ごすことが多くなり、然も本家に泊まるのは私だけだ。流石に幼い頃は、家族揃ってのお泊まりだったけど、今は1人でも寂しくない。私にとっては
「…紗明良。お前は、この神代家をどう見ている?…どう変えていく?」
ある日、おばば様が私にそう訊ねた。多分私が、自分の素質について質問したからだろう。6年生の私は、学校で経済の仕組みを習ったばかりだ。社会科の授業で習うぐらいの経済の仕組みでは、生産側と販売側と購入側の立場の違いを、軽く
「……う~~ん。21世紀頃までの神社と今の神社と比べると、今は信仰者が減っていく一方だよね。クロス禍で滅多にお参りの人も来ないし、ネット上の神社で拝めるようにしたり、ネット上でお払いのお札やお守りを販売して、ネット上での相談を引き受けたり、そういうのもアリなのかも…。神代家もネットでの展開をしていければ、もう少し利益も出るとか…。」
「…………」
その頃の私は、まだ習ったばかりの歴史の勉強に触発され、21世紀頃の生活に興味を持っており、ネット検索で調べていた。経済の仕組みもその一環で、勉強した内容を知りたいとウズウズしていた私。
コロナ禍から引き続くクロス禍の社会で、ネットは生活上で必須だ。この30世紀でスマホが使えないという人間は、最早居ないのではなかろうか。あのおばば様でさえもスマホを持っていて、使い熟しているのを目撃した。ネットも同じく使い熟せるのは、今の時代では当たり前だろうし。そういうのもアリではないかと、その時の私はそう発言したみたいで…。残念ながら…よく覚えていない。
おばば様は考え込むように、暫し黙ってしまう。まだ小学生の私は、おばば様が私の答えに不満だったのかもしれないと、そう思う。他者から怖い人だと良く勘違いされるおばば様は、確かに厳しい人ではあるけれど、決して傲慢な人ではない。
私の意思を、絶対に無視はしなかった。後継者に決めたと発表した当初、私の意思は入っていないけれども、私が直ぐに継ぐという意味ではなく、私が大人になるまで待つらしい。その間に神代家を継ぐと私が思えない時には、その時には他の者が継ぐことになると聞かされている。
この頃の私はそういう意味から、気楽に発言した。責任感がなさ過ぎて、おばば様が落胆したのではないかと、私は凹んだ。やっぱり私では無理なんだ、お姉ちゃんみたいな才能も何もない私が、後を継ぐなんて変だったのだと…。
「…今まで、紗明良のような斬新な考えは、出なかったね。神代家は規模は小さくとも、それでも20数世紀頃までは神社としての役割を、きっちり果たしていたんだよ。それが…30世紀に入った頃には、何処の神社も落ちぶれた…。まだ寺は宗教との兼ね合いもあってか、今も細々と生き残っておるが…。」
…そうなんだよね。我が神代家も、神主とか巫女とかを輩出する神社として、そこそこ地元では有名だったらしい。今は完全に、無名の神社扱いだ。神代家本家も神社での生計は立てられず、おばば様以外の大人は会社で働いているんだよ。
おばば様が言う通り、30世紀頃に神代家は神社の機能を失った。地元民達が神社のお祓いなどを、全く利用しなくなったからである。その後、神社としての生計は立たず、今は名ばかりの神社として存在中だ。他の寺院も似たようなもので、特に神社が打撃を受けたのは言うまでもないことで……
「…ふむ。紗明良の言うことにも、一理ありそうだ。神社として復活させるためには、
おばば様は私の意見を否定せず、受け入れてくれる。本当にそれらが全て、実現するかどうかは分からない。実現させるまでには、まだ色々と問題はあるだろうし、おばば様というより神代家が一丸となって、努力する必要があるだろう。
その後おばば様は本当に、私の案をほぼ受け入れたらしい。ネット展開をする神社として、参入したのである。他にもネット上で、何かしらの展開をしている寺院はあれど、神社の機能がネット上で全て受けられるという状況は、我が神代神社が初の試みらしく。人間の思考は、意外と保守的だ。
その結果、我が神代神社は徐々に有名となり、実物の神社にもお参りしようという利用者が増えた。おばば様だけでは対応できず、私の母を駆り出しても親族だけでは回らず、2年ほど前から補助の巫女役の女性達を雇い入れている。
…凄いよ、ネットの影響は…。お陰で今の私は、神代家のお嬢様なんだもの…。
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第5話です。今回は新たに登場と言うより、過去の思い出の中に登場したというべきでしょうか…。
今回は、主人公を含めた家柄の詳細がメインです。主人公の親族『おばば様』が切っ掛けで、主人公の人生も変わったというところでしょうか。反対におばば様の立場から言えば、主人公のお陰でしょうが。
主人公達が通う高校は、ある程度の裕福な家庭の子供が通う進学校でして、彼女もそういう扱いとなりました。逆に一般家庭の特待生制度は、この時代にはない設定としています。抑々この時代には、貧し過ぎるほどの貧乏設定はなく、安定していると言うべきでしょうか…。
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