c.学校は登校も遅刻も自由だよ

 今も何とか、地球に住み続ける私達人間は、学生どころか日本人、いや…日本に住む外国人も含め、日本全体の人口が徐々に減り続けている。また外国に住んでいる人間の人口も減り続け、地球全体の人口が激減していた。人間のみならず、動植物の数も減っているらしい。


過去の人間達は未来に行けば行くほど、機械化された未来社会をイメージしていたようだ。実際には、電化製品なども進化し続けていると思うけど、社会が機械化されたかどうかは微妙だ。ロボット技術も進んでいるけれど、人間の代わりになっているとは、決して言えないし…。


感情の無い部分を補うならば、ロボットでも十分だと思う。但し、人間の感情が左右するような仕事は、相変わらず人間の仕事である。犯罪に関わる監視をするだけならば、ロボットでも十分だとされている。クロス禍の中で、人間を単に監視するという意味では、ロボットは最適だ。ロボットに感情がなくとも、指示された命令には完璧に従うのだから。


 「可哀そうだな…」

 「これぐらいは、見逃してあげようか…」


そういう意味でも監視付きの罰則には、ロボットは良い仕事をするようだ。人間のように感情に揺さぶられず、人間がこういう感情になる場面も、一時的な感情を持つことはない。寂しさに負けた人間が話し掛けても、世間話などの無駄話もなく。


ロボットは食事も要らないし、動物のような餌付けや可愛がりも、必要ない。警察官や警備関係者でも良いから、同じ人間に監視された方が、孤独感は感じないだろう。全く話も聞いてくれないのと、全く話が通じないのは、同義ではないと思う。天気などの、その人にとっては物凄く寂しいことだよね…。


普段から多少の寂しさに慣れた今の時代の私達でも、この状態は酷なのだ。自宅も学校も1人での行動が多くとも、それでも…会話が全く出来ないのではない。透明版や透明マスク(※一般的には顔が見えないマスクが、主流だけど…)を通せば、顔を見て話せるのだから。触れる接触は極力禁止されていても、常に適当な距離を保っていれば、話すことが許可されている。寂しさを感じる=孤独ではない。


クロス禍の中の規則を一通り守れば、不必要な監視がされることはない。警察官代理のロボットが街中をパトロールしており、そのロボットに会わない限り、余計な監視はされない。ロボットに出くわそうとも、は、その対象にならないともされている。


…たった今、ロボットに出くわしたわ。感染者を感知したり、不必要な接触を見つけるのが目的なので、対象者は居ないと判断したらしく、向こうに去って行ったわね。稀に、初期感染した者や接触する者達を見つけては、通報した後に捕まえているんだよね。事情次第では厳重注意で無罪放免となり、悪質だと判断されれば犯罪者扱いとなるみたい。


ロボットを横目にし、電車とバスを使って漸く、私は学校に到着する。学校は相変わらず、賑やかと無縁な状態だ。シ~ンとした学校は不気味だと、昔の本に書いてあったけれど、今の時代では当たり前のことなんだよね。


クロス禍の中でワイワイ騒ぐのは、法律上でも禁止されている。悪質な感染者だと判断されれば、孤独という刑罰が待っている。刑罰とまではいかずとも、血の繋がらない赤の他人に感染させれば、世間からのバッシングは凄いのだ。但し鬱憤が堪らずとも、唯でさえ孤独な日常を送り、逆に、他人から感染する自体が迷惑だと感じるだけだ。それに、あの孤独の中で監視される罰則には、誰もが受けたくないだろうしね…。


 「おはよう、サラ。久しぶりに会ったよね?」

 「おはよう、好華このかちゃん。インターネットでは、顔合わせしていたけどね。」


私が自分のクラスの教室に入ると、既に何人かの生徒達が登校していた。今年の春に高1になったばかりの私は、自宅近くの高校への進学は諦め、少し遠いけれど大学への進学に有利な今の高校に受験し、合格している。お陰で中学までの知り合いは少ないけれど、良いお友達にも恵まれたし、この学校を選んで良かったかな。


 「ははっ、確かにね。ネット上ではマスクしなくても良いし、バッチリ素顔で顔合わせしたよね~。」


『好華ちゃん』は、私と仲の良いクラスメイトの1人で、高校で知り合ったお友達である。『牧村 好華』というのが、彼女の名前だ。初めて会った時、何処のお嬢様かと思うほど、可愛らしくてお上品な雰囲気だったのに、今は…サバサバとしたという彼女の素が丸出しだ。


実際に好華ちゃんは、ちょっとした家柄のお嬢様である。大金持ちとか大企業の家柄ではないけれど、彼女のお父様は中小企業の会社を経営する、社長さんであるのは間違いない。彼女の場合は会話をしなければ、清楚なお嬢様で十分に通るかな。






    ****************************






 「おはよう。 神代かみしろさん、牧村さん。神代さんは金曜日以来だけど、牧村さんは久しぶりだね。」

 「……高峰たかみね君。おはよう…。」

 「おはようございます、高峰君。お元気でしたかしら?」

 「勿論、元気だよ。牧村さんもずっと学校に来ていなかったけれど、元気そうで良かったよ。」

 「…ふふっ。お気にしてくださって、ありがとうございます。」


久しぶりに好華ちゃんと話が弾んでいると、不意に私の背後から誰かが声を掛けて来た。振り返ると…やはり想像した人物が、いつもの如く挨拶して来た。ほぼ毎日なので、流石に声で分かるようになった私…。だけど一応は勘違いの可能性もあるので、顔を確かめてから挨拶しているけど…。


しかし…好華ちゃん。相変わらず男子の前では、猫を被っている…。好華ちゃんにはれっき とした彼氏が居るので、別に他の男子に気にいられたいのではなく、これは単に彼女流の警戒心からだ。彼女は威張ったり嫌みを言ったりしないので、男女問わずに人気がある。但し男子は彼女の外見で、ほぼ判断しているのだが…。その点では女子とは仲が良いほどに、砕けた口調や態度で接してくれる。これは、彼女流の警戒を解いたという、無防備な姿なんだよね。


要するに、私達の目の前に現れた男子生徒『高峰君』を、専ら警戒中の好華ちゃんは笑顔で対応しつつ、彼女の目付きは胡散臭い人物を見る目である。無難な挨拶で交わす好華ちゃんに対し、私は…挨拶を返すのがやっとだ。私から男子には話し掛けないし、男子から声を掛けられることも殆どないんだよ。然もその相手は、あの高峰君なのだから…。


彼は『高峰 李遠りおん』という名で、学年1・2を争う程の秀才だ。運動もそこそこに出来るらしく、文武両道といったところかな。その上、素顔も素晴らしくイケメンだという噂がある。普段は生徒全員がマスクを着用し、顔半分は見たことがなく、彼の顔も拝見したことがない。確かに、顔の上半分はイケメンっぽいよね…。目元もキリッとしてすっきりした雰囲気で、ニキビやニキビ跡もない感じだし、上半分を見る限りでは整っていると思うよ。


だけど私には、ただそれだけだよ。イケメンが特に好みでもないし、この時代にも男女共にアイドルは存在するけれど、別にアイドルにも興味はない。寧ろ私はお笑いが好きなので、コメディアンと呼ばれる芸能人の方が、好みだったりして…。


だからと言っても、面白ければどういう人でも良い訳じゃないよ。何方かと言えば容姿は、可愛い系の人が好みかな…。背は私が低過ぎるので、自分より高い人と結婚したいかも。勉強は私よりもできて、教えてくれる人が良いよね。運動は私より少しでも出来る人が、なるべくなら良いよね…。後の条件としては、お洒落過ぎて自意識過剰な人は、嫌かも…。ダサすぎる人ならば、私がコーディネイトしてあげれば良い。髪は染めてない人、これ一択かな。私が地味系だしね。


理想がまあまあ高めかもしれないけど、分からない。私はまだ一度も本気で恋をしておらず、インターネットで見たドラマ(※元々は、テレビドラマで放送していた)で、疑似恋をしたようなものだし…。


ドラマの主人公になりきって、相手の男子に恋をした気分になっただけだ。人間が演じるドラマだけではなく、アニメとか漫画本や小説でも似た気分になったかな。実際の恋はまだ知りたくないし、こういう時代で顔半分しか見えなくて、一目惚れとか有り得ないもんね。


高峰君はほぼ毎日、学校に登校しているようだ。インターネットでの授業を、受けたことはないかもしれない。真面目すぎるのか、単に友達に会いたいからなのか、その辺りの事情は分からないけれど、学校で授業を受けたいみたいだね。


高峰君とも高校で知り合ったので、彼が挨拶してくることには、不思議だと思っている。但し、彼はクラスメイト全員に挨拶しているようで、何故か地味な私にも挨拶してくれるようだけど…。私の方が上手く受け流せなくて、毎回戸惑うわ……


 「高峰君の本音は、よく理解できないわ。彼の笑顔が素敵過ぎて、逆に胡散臭いと私は思っちゃうんだよね…。」


高峰君が去った後、早速本音をぶつける好華ちゃん。彼女の言い分はよく分かるけれど、何故に素敵な笑顔だと判断できたの?…マスクをしてるのに、肝心な部分は見えていないよ?


 「あの目の様子だと、よね…。」


…あの目の様子?…どこか、変だったのかな?…それとも、マスクの中では愛想笑いをしているとでも、言うのかな?…だとすれば余計に、素敵笑顔という言葉は何処から来たんだろ…。何処をどう見て、そう判断したの?


 「…ふう~。サラは時々、鈍過ぎるよね…。まあ、騙されないようにね。」

 「…鈍いって、何が?……騙されないようにって、誰に?」


時々なんだけど、好華ちゃんのが、理解できないよ。私って彼女からは、どう見られているのかな……







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 第3話です。漸く、学校の友達が登場してきました。


男子1人と女子1人が、初登場しています。主に、学校か生徒がメインとなる予定なので、後もう少しは登場する予定ですが、他の作品のようには大勢にならないようにしたい…。

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