b.30世紀はこういう時代だよ

 現在、日本の法律では、みだりに人と触れ合ってはいけないと、例え家族であろうともむやみに触れてはいけないと、そう決められている。例え家の中でも、特に監視はされていなくとも、家族がウイルスに感染すれば、何れ調査でバレることである。そうなれば徹底的に調べられ、むやみな接触があったと知られた時、家族全員が法の裁きを受けることとなる。そしてその罰則として、何年も監視付きの孤立させられる生活を送る、という実刑が待っていた。


如何いかにも緩そうで、緩くない刑罰だ。ウイルスにかかる自体は、本人も意図した訳ではないし、罹りたくて罹る訳でもあるまいし、刑罰として違反者を刑務所に入れても、肝心なウイルス対策が出来なければ意味がないと、政府官僚たちは長年の間頭を抱えていたらしい。病をうつしてから反省されても、既に遅いのだと…。


…実際に人間って自分に都合の悪いことは、だもん。都合の悪いことは他人ひとの所為にして、自分は逃げちゃうような卑怯さも、自分や大事な人を守る為ならば、簡単にできちゃうのよね…。


苦肉の策として、何処かのお偉いさんが提案したのが、今現在の刑罰だ。これならば刑罰として実刑にはなるものの、犯罪者扱いをされるのは一時的なものとされ、実刑を受ける間だけで済むという特別処置だ。但し…何よりも人として、一番大切な人との関わりを失くす。これが結構人間には、…。


実際にそういう実刑を体験した者、一時的に犯罪者扱いとされた者達は、徹底的に孤立するように監視され、他人と関わったとしても、喋ることは疎か目を合わせることも許されない。一応は自由に行動出来るのだが、それが却って他人と関わることに不自由だと感じ、ある意味では刑務所より孤独が厳しい生活だと、どうしようもない寂しさを抱えてしまえば、その寂しさに気が狂ってしまうという者も、意外と続出したようで…。かなり怖いかも……。


こういう事情で恋愛しても、恋人と手を繋ぐのは禁止だ。(手袋越しならば、手を繋いでもOK。)恋人と肩を寄せ合ったりハグするのも、禁止だ。(除菌室に入った後に、自室で1時間まではOK。)恋人とのキスは、勿論禁止だ。(除菌室後に軽いキスまではOKで、ディープキスは結婚するまで禁止。)恋人と共に大人の階段を上るのは、当然の如く禁止だ。(結婚するまで、絶対に禁止。)…以上のようにこの禁止事項を破れば、法律を破ったと見なされ、法の裁きを受けるのだ。


朝食を食べ終えた私は、再び除菌室に入った後、一度部屋に戻ることにする。兎に角移動する度に、除菌室を通らなければならないのは、結構面倒臭い。然も、家族と重ならないように利用しなければならず、一々誰が使用中か確認するのも面倒な作業なのだ。気力も体力も消耗する…。


私は部屋に戻り、まだ登校には時間があると、スマホでインターネットを楽しむことにする。今の時代は、家族揃って見たというテレビは消え、インターネット放送を個人で見る形式である。要するに、スマホでテレビを見るという形式に、現在は移行していた。少なくとも25世紀頃までは、家族揃って居間でテレビを見ていたものの、現在のように家族で過ごす時間を、法律で禁止された頃からは、自宅に置く形式のテレビは廃れたようである。


コロナウイルスが流行り出した21世紀でも既に、若者世代はテレビを見ないと言われたそうだから、コロナやクロスが流行らなくとも、徐々にそういう傾向にあったのだろうな。私も家族で同じ番組を見るなんて、考えられないし…。家族で一緒に見る番組なんて、一体どういう内容なのかな…。


…さてそろそろ、学校に行きますか。今日はクラスの全生徒が、登校してくるといいなあ…。高校に入ってからは、クラスの全員が揃った試しがないんだよね。正に入学式以来、会ったことがない生徒もいるんだよね…。


入学式は全員参加なので、絶対に登校しなければならないが、他の日の登校は強制ではない。クロス(※21世紀のコロナと同じ意味)の中では、登校や出勤は義務ではなくなっている。但し、在宅で十分に勉強や仕事が補える場合、認められているに限るのだが。現実には中々難しいようで、私達が登校するように両親も出勤しているし、世の中の半分以上が同様だ。


私もお姉ちゃんも両親も、在宅の方が窮屈に感じる部類だからか、私と姉は登校できる日は進んで登校するし、両親も在宅の仕事はしなかった。けれどクラスメイト達の半数以上が在宅を希望し、週に4日の登校も自主的に減らしている。そういう訳で、クラスメイトが全員揃った試しもなく。


別に…私に、誰か好きな人とか気になる人とか、特定の人とかはいない。それでも生徒でいるうちは、勉強以外も学ぶことができる。そうじゃなくてもクロス禍で、他人ひとと接する機会が激減したのに、寂し過ぎるよ…。






    ****************************






 高校へは交通機関を使って、通っている。但し、登校専用に運転されている電車である。一昔は、マイカーで通っていた大人も多かったようだが、今は其れも制限されており、今日マイカーで出社する人も、明日は電車ということになる。これは政府が出した強制の制限であり、従わない場合は現金での罰則となる。


20数世紀代頃の一時期には、電車通勤を避けたマイカー通勤者が続出し、日本の交通が麻痺したらしいのだ。これも、コロナ禍の所為であった。ウイルス感染を避ける為に、マイカー通勤者が増えたようである。


但し国民全体が、マイカーやタクシーなどの通勤・通学になれば、困る。実際にマイカー通勤で渋滞が慢性化し、電車の運営が赤字となった。政府は無理矢理関与することで、マイカー通勤を減らそうと躍起になったようだ。電車代の負担を軽くしたり、電車通勤でポイントの得点を特別につけたり、マイカーに対する諸々の税金を上げたり、色々と対策したらしい。それでもマイカー通勤が多く、法律の強制力を使うことにした。こうして渋滞は元通りに近づき、電車の利用も戻ったと…。


国民の人口が減っているので、電車やバスなどの交通機関の利用が減るのは、仕方がないようだ。その対策として考えられたのが、私達生徒の為の専用利用だ。これによりその時刻帯の電車やバスで、学生しか乗れない専用車両に関しては、比較的空いている。クロス禍での蜜を避けるでもあり、一石二鳥だったらしい。


電車やバスの乗り場も学生専用乗車口なので、大人が間違って乗り合わせることもない。そういう意味では、私達は。満員電車や満員バスには、乗ったことがないのだから。


…クロス禍を避ける為に、遅刻してもOKだと法律でも決まっているし、慌てる必要なんてないもんね。但し遅刻すると、家庭学習が増えるのが難点なんだけど…。一応勉強はできる方だけど、勉強しなくても出来るタイプではないから、家庭学習は避けたいんだよね。


学校の成績で言えば、私の方がお姉ちゃんより成績は良い。但し、お姉ちゃんは特に勉強をしている様子が、見られない。きっと熱心に勉強すれば、私より頭が良いのだろう。それに比べて私は毎日、予習・復習を欠かさない。テスト対策も山を張らず、真面目に勉強している。これでクラスではトップでも、学年ではぎり10位以内が限界だ。学年は300人前後だから、これで満足すべきだろう。


…お姉ちゃんに勝てるのが、唯一勉強ぐらいだったし、勉強すればするほど自分の知恵にもなるし、私の取り柄みたいなものだし、ね。政治家になりたいとか、法律家になりたいとか、そういう大きな目標はないけどね。もし叶うのならば、21世紀までのような暮らしがしてみたいなあ…と、そういう願望はある。


それを自分で叶えたい、とは思っていない。そういう生活に戻りたいと思うのは、飽くまでも自分であって、他の人達の意見は其処にはない。戻れるものならば、うの昔に戻っているだろう。現実は、なるように成れ…である。


私も全てを昔のように戻したいと思う訳じゃないし、実際にはそういう暮らしをしたことがないので、実感も湧いて来ない。唯…家族と過ごす時間は、どうなのだろうと思っているだけだ。日本食を家族と一緒に食べたり、外食を誰かとするのは、どれほど楽しいのだろうかと…。


…学校でも皆と一緒に、ワイワイ騒いでみたい。運動会やら校外学習やらも、1人ずつ参加する形式ではなくて、皆で協力したり助け合ったりして、大勢で参加してみたい。私も…経験してみたいのだ、一度でいいから馬鹿みたいに騒ぐことを。


そう思うこと自体、今を生きる私達には途轍もなく、贅沢な行為だ。今の私達は何かのも、気のせいではないのかもと、危機感を感じることもある。例えそうだとしても、一度失った物や時間を取り戻すのは、容易なことではないことも…。


だから私は後悔しないように、勉強をする。この先、何が起こるか分からないということは、今も自分達が身をもって知っているのだから、役に立つか立たないかは分からなくとも、将来何かの役に立てばいいなあ…ぐらいでも、良いと思う。


…今は自分が、何を出来るか分からない。それでもクロス禍の中で、自分らしく生きて行きたいと、抗っても良いよね?…勿論、法律に逆らうのは…無しの方向で。それに、ウイルスに打ち勝つ努力ならば、何らかの形で協力したいし、自分がやり遂げられなくとも、自分の同じ意思を持つ者がやり遂げると、期待して。


未来に期待するのも、悪くない。きっと、未来に託して来た筈だ。未だに完治していないと知ったら、がっかりするのかな?…それとも、更に先の未来に期待するのかな?…逆に、もう如何どうなっても良いと…思うのかな?






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 第2話は、多少説明っぽくなりました。高校生女子が語る口調なので、軽めの感じで書いています。


21世紀以降は世界中でインターネットが普及していたことで、色々と記録が残されており、一般人も簡単に閲覧して情報を得ることができる、そういう社会設定で書いています。

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