非接触時代 ~接触不可な恋活~

無乃海

前編 未来の恋愛模様

a.ようこそ、30世紀の世界へ

 新作の連載を開始しました。宜しくお願い致します。


さて今回の物語は、コロナ禍の生活が未来に続いたら…というテーマで、書いた作品となります。あまり深刻に考えず、コロナ対策が行き過ぎた未来として、「こんな未来は嫌だ!」と思ってもらうような、ちょっぴり風刺したコメディものです。



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 「朝だよ、起きなさい。遅刻するわよ~。」


朝っぱらから大音量で聞こえるこの声は、私のお母さんの声である。別に、母の声が特別に大きいのではなくて、また世の中の母親の声が大きいと言う訳でもない。単に拡声器のような物を通して、声を響かせているだけだ。


どうしてこうなったのかと言えば、別に…私の寝起きが悪いとか、家族の皆が起きてくれないとか、そういう理由ではなかった。実は…この母の声は、台所から各部屋へと連絡が取れるようにと、家中に取り付けられたインターホン、つまりは家の中での呼び出し器具であったりする。


 「はい、今起きたよ。着替えてから、降りて行くね。」

 「了解。今日の朝ご飯は、久々の和食よ。」


私は自室の中のインターホンで、返事をした。すると母からは、今日の朝ご飯は和食にしたと、教えてくれる。両親が共働きをしている所為もあるけど、一緒に食べる朝ご飯も久しぶりだと思いつつ…。


…やったあ!…本当に久々の和食だよ。パンとサラダと牛乳の洋食も美味しいとは思うけど、偶にはご飯とお味噌汁とたくあんも、食べたいんだよね…。


和食と言っても朝ご飯なので、昔から食べられている平凡な家庭料理だ。それでも私達の今の時代では、20数世紀の頃まで食べていたと言われる和食は、殆ど消え去っている。私が住む此処は日本ではあるけれど、現在日本人は激減し、30世紀に入る前に半分程に減っていた。残りは外国人か、外国人とのハーフやクオーターである。一応は日本の国籍を持っていて、日本人と同等の扱いを受けている。


日本人が減ったその結果、豪華な和食は消えて行った。25世紀の頃までは食べられていたおせち料理なんて、今はもう食べたことはない以前に、見たこともない。他にも料亭とやらで食べられた高級料理は、もう作れないようだ。そういう料理を作れる料理人が、この日本には居ないのだから。


日本ののは、非常に残念なことかもしれない。それでも、見たことも食べたこともない私達には、どうでも良い話だ。食べたくても作れる料理人も居ないし、また食材も高くて手に入らないらしいから、元々私達一般庶民には手が出せない、料金となるだろう。


そういうアレコレを考えている内に、学校の制服に着替えた私は、台所に向かう…のではなくて、先ず最初に向かうのは…除菌室だ。除菌室とは、21世紀終盤から導入された法律に基づく、各家庭に必ず設置される部屋である。


実は現在も、21世紀初期から流行したコロナウイルスが、その原型を徐々に変化させていき、今ではコロナとは別物と言えるウイルスへと、激変していた。今の時代のウイルスは数百年前から、コロナウイルスとは呼ばれなくなって、新種の別のウイルスとして名づけられていた。今は30世紀に入ったばかりで、21世紀からは900年ほど経っている。


新しいそのウイルスの正式名称は覚えてないけど、世の中で通称として呼ばれるウイルス名は、十字の形に似ていたことから、『クロス』と呼ばれている。実際に何かの映像で見たことがある私は、十字の形に見えないもない…というのが、本音なんだけどね…。素人からすれば、そんなものなのかもね。


21世紀ごろから始まったコロナ対策は、次代と共に対策も進化している。そのうちの1つが、この除菌室だ。少しでも被害を減らす為に設けられた対策が、今では殆ど義務化されている。…いや、何方かと言えば、強制的な対策として導入されている。此処日本だけではなく、地球の全ての国が似たような対策を導入した。厳しいのは、日本だけではない…ということよ。


除菌室で無菌状態になった私は、今度こそ台所に向かう。我が家には無菌室は1つしかないので、早いもの順である。父は既に除菌室を通ったらしく、台所のテーブルに着いていた。但し、テーブルには席を完全に仕分ける、透明のプラスチックの囲いがされていた。


 「おはよう、紗明良さあら。直に顔を合わせるのは、数日ぶりだなあ。」

 「おはよう、お父さん。ほんと、数日ぶりにあったよね。…ふふっ。」


母とは何かと顔を合わせる機会もあるが、帰宅の遅い父とは、全く顔を合わせない日もあった。然も、私達が生きている30世紀では、、許されていない。両親に抱き着いたり抱っこされたり、最後に頭を撫でられたりしたのは、何時いつのことだっただろうか…。こういう時代だから仕方がないと思う一方で、私は…時々寂しくなる。


…寂しいのは、私だけじゃないもんね。世界中の人たちが似たような状況で、私もすっかり諦めているけどね…。何時の日にか、感染力の強いウイルスが消え、治療法が確立される日が来るのかな…。何百年もの間に確立が出来なかったのに、少なくとも






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 「おはよう、お母さん。今日はお休みなの?」

 「おはよう、紗明良。そうなのよ。久しぶりのお休みだから、朝から張り切って和食にしちゃったわ。とは言っても、お味噌汁と煮物ぐらいだけど。」

 「わ~い、お母さんの和食、大好き!」


こうして会話する時もしっかりと距離を取り、離れた場所から話している。除菌室を使用した後だとしても、誰かがウイルスを持っている場合、それが今問題の感染力が強いクロスならば、直ぐに感染してしまう。コロナウイルスの頃とは違い、死亡率は高くなくとも感染力は異常に高い。比べ物にならないくらいに…。除菌した直後に、部屋に浮遊したクロスに感染した例もあった。


だから、1日に何度も除菌室に入る。部屋には除菌スプレーを撒き散らし、他人の物に触れる時には常に手袋をして、挨拶も離れたところからマスク越しに、会話もプラスチックの透明版越しで、握手は手袋をしたままで、だ。


流石に、家の中ではマスクはしなくても良いと、許可はされている。プラスチック板越しがドア越しの会話ばかりで、家族らしい生活とは程遠いかな。それでも我が家はまだ仲が良い家族なので、こういう生活の中でも楽しんで暮らしている。


…学校のお友達の中には、家族仲が最悪なほど仲が悪くて、全く会話をしないどころか、今はもう何年も…顔を真面に合わせたことが、ないらしいよ…。それって、家族とはもう言えないよね。もう他人だよ、同じ家に住む他人…。悲しいよなあ、家族がそういう関係になるのは…。私だったら耐えられそうにないから、まだ離婚して別々に暮らした方がマシだなあ…。


そういう風に徒然と思いを馳せつつ、お母さんが作ってくれた朝食を食べ、小さな幸せを噛み締める。久々の和食は超美味だわ、と感動する私。正にその時、入って来たのは、超マイペースな私の3歳上の姉である。


 「おはよう、お父さん、お母さん、紗明良。」

 「おはよう、お姉ちゃん。今日は遅起きだねえ。大学の授業、午前中ないの?」

 「うん。今日は午後からなんだ~。だけど、午前中はバイトに行くよ~。」


のほほんとした口調で喋るお姉ちゃんは、私と違って中々の美人さんだ。お父さんもお母さんもイケメンと美人ではないのに、誰に似たのかと思うぐらいだ。父も母も私も3人共に、平平凡凡な容姿だと言うのに…。羨まし過ぎる…。


そういう美人のお姉ちゃんは、よくモテる。男性にも女性にも、分け隔てなくモテている様子だ。お姉ちゃんを見ていると、恋愛も大変そうだ。何故ならば私達のこの時代では、感染リスクを抑える為の生活が、義務化されている。つまり、日本の法律でそう決められていた。21世紀に掲げていた3蜜スローガンよりも、もっと詳細で多くの項目が法律で定められている。


その内で一番重要事項なのは、である。人間として生まれてきた以上、1人っきりでは何も出来ないし、生きて行けないだろう。他人との関わりを極力減らしても、全て自宅で済ませるのは無理だ。


一時期は学校も登校せずに、オンラインで授業を受けていた時代があったらしいけれど、結局は現在も一部しか行われていない。全てをオンライン授業にするには、学校側が膨大な資金を掛けねばならず、また一般家庭も負担が増えることになり、結局は現在は週の4日は学校に通っている。


それに…お金の問題だけでは、なかったんだよね…。学校に通う時は遅刻しないというのに、自宅でオンライン授業になると、遅刻ばかりする生徒が増えた。自宅だから遅刻しないと思って、ついつい二度寝したとか何とか…。


家族も接触が減って直接起こしに来ないので、インターホンでは「起きてるよ」と言えば、案外とバレなかったりするのだ。朝ご飯は休憩時間に食べれば良いと言いつつも、一度は皆オンライン授業中に食べていたりする。これも案外と、教師側にはバレないものだ。私も一度だけ、経験した。但し、二度としたくない。


オンライン授業中は、教師が一方的に喋る場合が多い。その点では食べていても分からないけれど、稀に教師が画面を切り替えて、生徒側に質問をすることがある。その時に食べていたら、アウトだ。流石に顔を映し出されて、教師だけではなく他の生徒にもバレてしまう。私ももう少し遅かったら、バレていたかもね。あの時は本当に、危なかったなあ…と反省したよ。


そういう接触の問題では、今の時代は恋愛にも支障がある。恋愛と言えば、恋人との密接に接触することにより、成り立っているのに…。好きな人に甘えたくとも、普通に甘えることも出来ない。恋人と話をする時も隣の席ではなく、プラ板を挟んだ状態で離れた席に座る。一緒に肩を並べて歩けず、距離を取り離れて歩く…という風に、恋人と普通にデートも出来ないと…。


恋人なのに恋人らしく出来ないのだと、お姉ちゃんと彼氏持ちの友達からそう聞いた私は、だとしか、思っていなかったよ。






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 温暖化問題までは面倒なので、この話には出て来ませんが、少子化問題は軽く取り入れました。未来の人々は飽くまでも真面目なのに、ちょっと笑えるような話にしたいと書いてみましたが…。



※重い話題ですが、家族と恋愛をメインに書いていく、軽い物語のつもりです。宜しければ、此方のお話も宜しくお願い致します。

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