第2話 進路

「おい、達也くん。進路はどうするの?」

「あ、すみません。まだ決めていないです…」

「おい大丈夫か。もう夏に入ってる。他の生徒はほとんど進路を決めているけど、おまえだけまだ決めてない。そろそろ決めないとマズイわ」

「はい…」


 僕はもう高校3年生だ。そろそろ決めないと入試に向けて準備や手続きが大変なので、大体の人は夏休みに入る前に決めている。しかし、僕は将来にやりたいことが分からない。多くの人から興味のある仕事とやりたい仕事をすれば良いと言われても、僕は興味とやりたい仕事はなんてない。だから簡単に決められない。悩む。迷う。どうすれば良いか分からないまま過ごしていった。気づいたらもう夏休み直前になってしまった。

 そろそろ決めないといけないなと徐々に焦ってきた。担当の先生が焦っている僕に話しかけた。


「夏休みにインターシップがあるけど、参加してみたら?」

「インターシップですか…」


「ああ、インターシップとは希望している人と検討している人、まだ決めていない人がどんな会社なのか、どんな仕事なのかしっかり知ってもらうために仕事を体験することができる制度だ。資料でさっと読むより実際に企業で体験をすることでどんな仕事するなのかイメージを作りやすくなる。まあ、インターシップで進路を決めるために何かのヒントや参考になる材料があるかもしれない」

「なるほど…わかりました。母親と相談して考えてみます」


 僕は就職するのはまだ考えていない。大学に進学しようかなと考えているが、僕の学力では大学に入学できるレベルでもないので難しい。残されているのは就職か専門学校だけだ。卒業後すぐに就職するのはいやだ。父親と母親を見ると夜遅くまで働いている。休日に疲れた体を癒すためにボーッとスマホを眺めるだけ。平日ではご飯を食べて、働いて、寝て、このような1日を毎日同じように過ごして年を取っていくのは嫌だ。給料を得るために会社のルールに従って働かなければならない。社畜になるのを想像するだけで簡単に萎える。だから卒業後すぐに就職したくない。

 あちこちから蝉の鳴る音がする。うるさいなと思いながらギラギラと強い日差しを受けながら家に帰っていく。


「おかえり、歩」

「ただいま…」

「そうだ、先生から電話が来たけど、インターシップに参加する?」

「…まだ分からない」

「大丈夫なの?そろそろ決めないと遅れるわ。進路先を決めるのが難しくなるから」

「…分かってる」

「母さんは歩のことわかる。あんまり口を開かないので冷たいな人だと思われているかもしれないけど、口を開かない上に相手に傷つけないように気を遣ってる。優しさという気持ちを持っている歩は誰よりもよくわかる。だから大丈夫だよ。自信を持ちな」

「…ありがとう」


 パシっと背中を叩かれた。突然に叩かれたので、身体がビクッとびっくりした。

 部屋に戻り、ベッドに上に寝転んでもまだ背中の痛みが感じる。なんであんなことを言っているのかな?僕の気持ちを見透かれたか?いや、僕は失恋したことを一言も言っていないはずなのに。もしかしたら表情が出ていた?または、元気を付けさせたくてしたかな?

 なんだか母さんの言葉のおかげで前へ進められような気がする。インターシップに参加してみようか。

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