第9話ミリオンという男

美しい容姿をしたその少年はそこにやってきた、爺さんを注意深く観察していた。歴戦の強者、といった感じは全く受けないが動きはかなり素早い。もしかしたら、本気の自分より素早いだろうか。しかも、魔法の才がありそうな同年代の少年が師匠と呼んでいた。要警戒だ。

「酸素の膜を維持しながらここまで来るの疲れたんじゃないの?」

「ああ、疲れたさ。でも、この町で流した汗に比べたら塵みたいなもんだね。」

熱血系だと判断、こういうタイプは大体肉体戦が主体だ。小型ナイフなども使う可能性もあるな。

「私を忘れないでください。」

地味な男がその隙をついて、剣で脇を突いてくる。そういえば、こいつもいたんだった。

「なるほど、今度の2人は歯ごたえがありそうだ。」


ミリオンさんと地味な眼鏡の男は少年とある程度互角に戦っていた。それにしても気味が悪いな。今は互角だというのに、いまだ少年の強さに底が見えない。あと何本か切り札を持っていそうだ。


自分が思うに、魔法が体術と比べて優れている点は何点かある。まず初めに、射程距離。熟練の魔法使いともなれば、剣の数百倍もの距離に魔法を打つことができる。威力はその分劣ることになるが訓練でカバーすることとは不可能ではない。次に、体勢だ。剣は最大威力を出すには、自分の体勢を整えなくてはならない。しかし、魔法はどの体勢からでも打てる。地面に四つん這いになってても。

「土よ!現れよ!」

白いやつの足元の土を持ち上げた。

「ちっ!!」

少年の足がもつれる。その隙を逃さず、彼の胴体をミリオンさんが襲う。

「ごぼっ、、、、気絶してなかったか。」

残念ながらね。

「しょうがない、とっておきですよ。」

彼はそういって、さらに濃密な白い霧を体から出した。

「さらに白い霧、、、」

酸素の膜があるから大丈夫なはず、、、

「今回のは特別性なんだよ、ほら。」

少年のパンチを地味な眼鏡の男は手で受けた。空気の膜は当然、割れる。これは肉体戦をやる以上、仕方のないことで一瞬吸ったぐらいで寝るわけでもないので、また離れたときに膜を張ればいい。

「な、、、、」

眼鏡の男は目を一瞬で見張った。その直後、目を閉じて体が崩れ落ちる。

「なるほど。睡眠性がより強くなったのか。」

「まずいですね。」

地味な男が離脱したのもまずいし、空気の膜を絶対に壊せないというのもつらい。彼の拳も足も絶対によけなくてはいけない。

「君達も早く眠ってくれると嬉しいんだけどな。」

少年は、迫る。刻々と。


周大の頭の中は、この危機的状況の中で驚異的な回転を見せていた。走馬灯が見えてるな、そう思いながら考え始める。俺には、いまいくつか選択肢がある。①このまま戦う。多分、この少年に勝つのは無理だろう。良くて気絶かな。②ミリオンさんと一緒に逃げる。うーん、これも微妙だ。僕は足が遅い。間違いなく捕まるに決まっている。③正直、これは使いたくない。間違いなく、俺も痛い思いをする。町中の人もだ。アイツ一人を倒すために、其れだけのことをする必要があるのか、、

「おい、お前。」

少年はその声を聞いて驚いたようだった。

「なんだ、まだ希望を捨ててない眼をしてるね。」

「お前、ついてなかったりしてないか?」

少しの空白の時間が過ぎる。

「・・・なにが?」

「なにがって、、、、、、ついてるっていや、あれだろうよ、股についてるやつ。」

「こ、小僧。頭でもおかしくなったか。」

彼は、その美しい顔の眉毛を斜めにあげ、不可解だという風に、手を顔に当てた。

「・・・・・ついてますけど。」

そうか、、、、、もしかしたらついてないかもと思ったんだが、、

「残念だ。」

やめろ、変態を見るような目で俺を見るな。

「・・・・・ちなみに、この会話とこの戦闘と何か関係がありますか?ないのならすぐに殺して差し上げます。」

かなり起こっていることがこっちにも伝わる。慈悲がなくなったみたいだな。

「なあ、この霧って俺がもといた世界で言うガスってやつと一緒だと思うか?」

今度もまた、彼は人を見下す顔をした。

「さっきから何を言ってるんですか?」

「いや、ガスだったらこれ、使ったら君は間違いなく死ぬだろうからさ。」

そういって、俺は右指に炎をぽっと宿した。それを見て、彼の顔は青くなる。

「やっぱり、図星みたいだな。」

「偶然、じゃなさそうなんですよね。知っていたみたいですが。」

一応学校はちゃんと行ってたからな。

「交渉をしないか?」

「・・・・本当にできると思ってます?あなたが炎を放った瞬間どれだけあなたの魔力操作がうまかったとしても間違いなく周辺一帯の人は死にますよ。」

げ、それに気づいてたのか。まずいな。

「お前だけでも、俺は殺すよ。」

「やめろ、小僧。」

「止めないでください、師匠。」

暗に考えがあると目で伝える。

「・・・わかった。お前を信じる。」

俺は、巨大な炎をその場に出現させた。ポン!!!ポン!!!と、小気味良い音が聞こえてきた。あっつ。肌がひりひりする。

「っち。そういうタイプのバカだと思ってたよ。」

そして、大きく炎が弾けようとしたときに、、、霧は完全に晴れた。

「残念ながらお前は、そういうタイプのバカとは一緒に死ねないタイプだったな。」

「俺はお前と違って馬鹿じゃないんだよ。」

ミリオンさんは万全、町の人も兵たちも起きてる。俺たち有利の第二ラウンドの始まりだ。

「撤退のしどころかな。撤退!!!」

少年は大きくそう叫んだ。そして、零コンマ一秒後、その少年は跡形もなく消えたのだった。

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絶対に怯ませたいトゲキッスです。いつものように、読んでいただきありがとうございます。皆さまのおかげで、この小説は続いているようなもんです。ここで一旦、この戦いはしまいです。次からは、新局面に入ります。


次回  終戦のその先に

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