第8話催眠霧

霧はどんどん広がっていく。

「どうやら、眠くなる効果みたいですね。」

強烈な眠気に襲われ始めた。

「小僧、魔法を使うのを許可する。今すぐ使え。」

「師匠、いいんですか?」

「ああ。周りが寝てるから使っているのを見られる心配はない。」

確かに。

操作魔法で空気を操作する。自分の周りだけ、正常な空気の膜があるような感じで体にそれをまとわせる。

「俺はいまから霧流してるやつを探して、そいつとやってくる。小僧はこんなかで命が危ない奴と医者を探して、取りあえず霧の中から出せ。霧の効果が眠らせるだけなんて都合がいいものだとは考えない方がいい。」

「わかりました。」


霧の中に入る前に、もう一度大きく深呼吸をして戦場を見る。戦力的には互角、だろうか。偉そうにしていたナーバスと隊長ベルもどちらかが一方的にリードしているという感じはないな。

「よし、行こう。」

白い霧の中には倒れている男たちがたくさんいた。無傷の男たちはこのさい放っておくことになるな。とりあえず、もう消えかかってる命の灯を探しに行くか。

「あれ?なんで君動けてんの。」

その甲高い声を聞いた瞬間、俺は死を実感した。今、俺の前にいる存在には天地がひっくり返ろうとも勝てるはずがない。

「あー、君も魔法使えるのか。若いのにすごいね。でも、このまま眠ってた方が幸せだったかもよ。」

魔族とは思えない、(でも状況的には魔族以外ありえない)真っ白い肌に青い眼の美少女。いや、多分どうせ美少年なのか。とりあえず、真っ白い肌が美しい小柄な子供だった。しかし、その足元には鎧を着た男達のからだが死屍累々と詰みあがっている。

「そこにいる少年。早く逃げたまえ。」

少年の手前にいる存在感の薄い男がそういった。あれだけの存在を前にして、おびえてもない。極めて冷静だ。

「えー、君はもう重症でしょ?動かない方がいいんじゃない?」

よく見れば、その男の鎧にはかなり傷があった。彼もまた、酸素の膜で体を覆っている。

「内臓はまるまる無事です。心配されるほどではありませんよ。」

地味な眼鏡に質素で機能性重視の鎧。サラリーマン。そういった方がわかりやすいだろうか。

「俺も援護します!!!」

「君にはあとでなんで魔法が使えるか事情を聞かないといけない、いま逃げた方がいいと思うが。」

優しい人だ。そういうタイプのデレは嫌いじゃないぞ。女の子だったらなおさらよかったけど。で、逃げるかね。あの魔族とタイマンをして俺は勝てない。これは確実。この人を入れても精々互角が精一杯か。でも、いま助けれる人を見捨てたら確実に後悔することは間違いない。今までの人生でそんなことをしたことないからな。

「少なくとも、いまその初めてを経験する場面じゃない。」

可憐な少年の方に一歩近づいた。

「残念だが、俺はこの町のある人に恩がある。その人が来るまでの時間稼ぎぐらいはするぜ。」

イメージしろ、大量の風。この一帯を吹き飛ばすぐらいの突風。

「風よ!!!!」

そう唱えた。自分の身体も飛ばされそうになるのを必死で我慢する。

「強い。かなりの魔力量ですね。」

「でも、残念。この白い霧、ほとんど無制限にだせるようなもんなんだよ。そうやっても意味ない。」

その言葉通り、彼女の周辺からはまた濃密な白い霧が出てきた。

「この一帯を埋め尽くすだめの魔力を使ったのにまだ際限なく、出せるのか、、、」

化け物め。

「しょうがないでしょう。私が守りますから、あなたは今のように魔法をどしどし打って、、、」

「ぅぐううう!!。」

速い。少年が腹にけりを入れてくる。

「あれ?こっちの方はさっぱりなんですか?」

残念ながらさっぱりですね。続いて、足。

「反撃しないなら、もう気絶しといてくださいよ。」

最後に股間。

「あ!!!!!!!それは反則でしょ、、、、」

最後だけ露骨に手加減されていたのもムカつく。

「ふー。余計なお世話ですがさすがにかわいそうなので言っておきます。戦場に出る以上、少しは、こういうのもできた方がいいですよ。」

「ほ、本当に余計なお世話だ、な。」

みっともなく敵の前で膝をつく。くそ、こっからまた立ち上がれる気がしねえ。今までの人生のどの金的よりも痛い。

「そこの地味な男も、わかった?君いま反応できなかったでしょ?」

そういわれて、地味な男は眼鏡をもう一度かけなおした。

「その子を放しなさい。あなたの敵は私です。」

「ふん、まだそんなことを言ってるかな。」

少年の足が、手が、自分の横にいる男に襲い掛かる。

「小僧、だからお前に散々、少しは体術もやっとけって言ったじゃねえか。」

「遅いですよ、師匠。せっかく合図もしたのに。」

異世界であった、俺の初めての恩人がやっとやってきた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――どうも、絶対に怯ませたいトゲキッスです。毎度のごとく、読んでいただきありがとうございます。できれば、できればでいいので評価とかしていただけると嬉しいです。


次回!!ミリオンという男。

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