359-いつかの君と俺だった僕の話(11)

「おお、あの子の……いや、聖女様でしたな。すみませぬ」

「いえ、聖女様におかれましては貴方達ご夫婦は親も同じ。あの子、と呼んであげて下さい」


「いや、本当に……。字も、こんなにきれいに書けるようになりましたか……。ありがとうございます。誕生日までも、あと200日と少しになりましたなあ」

「……あんなに苦労したのに、本当に、優しい子……」


 聖女の誕生日まで、あと220日となった日。


 奴隷商人から聖女を助けてくれた、言わば聖女の最初の恩人たる村の村長夫妻の元を訪問した俺は、かなりの歓待を受けていた。


 信用された理由は村への結界を無傷で抜けたことと聖女の聖魔力を有した魔石を見せたことが大きかった。

 ついでに、と村人の体調も確認させてもらった。

 まあ、俺がしたことは魔石をかざしただけ。確認したのは聖女本人みたいなものだ。


 以前の旅人の様に村の者以外の出入りもあるものの、聖女の出身の村であることや将軍殿が多額の寄付をなされた事など、聖女に関係する全てのことはこの村を出た途端にその者の記憶から消える。


 ……あの、いかにも聖女然とした、姿。


 発端は、聖国の連中に聖女らしさを求められ、無理やりにさせられた変化ではあったものの、縛りとしての制約は大きいようで、聖女が『村を守る為に』自ら変化を解かない理由が理解できた。

 良かった。この村の人達は聖女がここの人達を守りたいとしぜんに思えるくらいに聖女を大切に思っている。


 村民の外出についても、再度の来訪があれば、村にいる間は記憶が戻る為、不都合はないそうだ。村人も同様。

 村外、例えば聖国の聖都(この名称も連中の自称だろう)に向かっても、某村の出身という偽の情報が記憶となり、故郷に戻ればまた再びいつも通りとなるのだ。

 まあ、これは例え話であって、ここの人達が進んで聖国の中心部に行くとも思えないがな。


 将軍殿達のご遺体が無事に魔獣国の近くの墓所に転移し、きちんとした形で眠りにつかれたこと、魔獣国で保護した将軍殿や部下達のご家族は平和に過ごしていること、そして聖女が森で幸せに暮らしていることを伝えた。


 学問については、俺よりも聖霊王様のお力で高い魔力と知性を得た鉄輪がほとんどの教師役をしてくれているのだが、まあ、そこはぼやかしておいた。


「聖霊王様から言われた日、聖女……様が16の御年になられます日を迎えられましたら、またこちらに伺うことも可能かと。もう少しだけ、お待ち下さい」

 ごく稀にだが、聖霊王様が聖女の夢にお姿を示されるようになっていた。


 15から16となり、聖女として真に目覚めることで聖国など歯牙にもかけずにすむほどの聖魔力を持つことになるのだろうか。


「……できる限り多くの村の方とお話をさせて下さい。皆様のことをお伝えしましたら、聖女様が喜ばれます」

「ええ、ええ!」「勿論!」


 あと少しで、聖女は自由に色々な所に行ける。

 この村に訪問して、将軍殿達の墓参をして。

 そうしたら、俺の故郷に連れて行こう。


 喜んでくれたら良いのだが。


 少なくとも、この時の俺は、呑気にそんなことを考えていた。

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