360-いつかの君と俺だった僕の話(12)

「お帰り、コハ!」


 元気よく出迎えてくれた聖女に、村の皆からだと手紙を渡す。

 識字率が低いため、手紙を書いてくれたのは村長夫妻のみだが、皆が語ったことを俺がまとめて書き留めたり、絵を描いてくれたものもいた。


「嬉しい。あ、これ、私だ……」

 村の子どもが描いてくれた絵に、聖女が微笑む。


「へえ、見たいな」

 視線を移したが、隠されてしまったので、赤い花らしいものしか見えなかった。


「まだ、だめ。16歳になって、正式に聖霊王様から聖なる祝いを頂いたら、ね」

 そうか。村の皆は聖女の本当の姿を知っているのだな。


「待っててね。そうだ、祝いの授仮方も教えて頂いているんだ」

 嬉しそうに、聖霊王様からのお告げを教えてくれる聖女。


「へえ。誕生日の日の翌日、つまり、日付が変わって、16歳になって、太陽が昇れば良いのか?」


 意外と簡単なのだな、と思ったのが伝わってしまったらしい。


「そう。私はただ待っていればいいの! あのね、コハ、日付が変わったら、お嫁さんになっても良い、って聖霊王様が仰ったんだよ!」

 ……お嫁さん? 


 聞き捨てならない言葉だな。いや、待てよ?


「まさか、聖霊王様から乙女でなくても聖女でいられるというお告げも頂いているのか?」


「うん。乙女であることを強いるもの達もいるけれど、きちんと聖霊王様がお認めになったものとなら婚姻も可能なんだって。……ちなみにね、私の好きな人は、認めて頂けたよ!」

 ……そうか、そんな奴が、いや、方? か。


「分かった。その日までは俺が聖女を守る。その翌日、誕生日の翌々日に、その相手の方をここに呼べば良いか?」


 聖霊王様がお認めになっているのであれば、仕方ない。


 だが、王族や他国の司教をか? どうやってここにお連れする?


 魔獣国の女王陛下のお力を借りられる国の方ならいいが、そうでないときはどうしたら……。


 悩み出した俺を見て、何故か聖女は笑い出した。


「……ふふ。呼ばなくても、大丈夫だよ。ずっと傍にいてくれる筈だし」


「ずっと傍に? まさか、この森のものか……? 誰のことだ? 鉄輪か?」


「違う! 鉄輪さんは家族みたいに大切な人だけど、もう一人いるでしょう?」

 ……もう一人? 誰だ?


 俺の知らない精霊や聖霊か、いや、精霊獣、聖霊獣?


 この森で過ごすうちに、俺も一応全員と顔合わせはできた筈だが……。


 人型ではなくとも、ということか? そういうこともまあ、あるか。


「……降参だ。教えてくれ。誰だ?」

 俺は多分、一時間は考えていたと思う。


 すると、聖女はまた笑った。


「もう少ししたら、教えるね。……コハは驚くかも。でもね、すごくすっごく、優しい、素敵な人なんだよ」


 その日の晩、酒を酌み交わしながら鉄輪にこの話をしたら、何故か背中を叩かれ、爆笑された。


「……コハ、お前は面白いなあ! ああ、また一つ聖女様のお誕生日の楽しみが増えた!」


 聖女の誕生日まで、あと200日。


 正直、訳が分からなかった。


 それでも、月を見ながら二人で飲んだ酒は、とてもうまかった。

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