361-いつかの君と俺だった僕の話(13)
「魔石の量はこれくらいか。あ、お前達は運搬を手伝ってくれるのか? ありがとう」
無事に森に戻ってからしばらくのこと。
俺は、森の精霊達と共に、やがて来る聖女の誕生日に聖霊王様に捧げる魔石を採掘していた。
最初にこの森の近くに来た時にも感じたとおり、ここは聖魔力に溢れている為に普通ならば微弱な魔力しか持たないような魔石でも、かなりの力を有しているのだ。
しかも、それを洞窟などでもない、土中を掘るだけで入手できるのだから、さすがは聖霊王様から認められた森、と言うべきだろう。
驚いたことに、聖霊達までが、その聖魔力で運搬を請け負ってくれたのだ。
あまり下界に見られない聖霊、聖霊獣が多く見られるこの森の中心には聖霊王様からのご指示で鉄輪が発見した巨大な古木の空洞部、うろが存在していて、そこは聖霊界に通じるいわゆる転移門になっているそうだ。
要するに、聖霊、聖霊獣達はいつでも聖霊界に帰れるし、聖女にも会えるということ。
少し、羨ましいな。
俺も、そんな場所を魔獣国にお作り頂くことができたら。
そんなことを考えていたら、空に浮かぶ、大きな羽の様なものが視界に入った。
飛竜? それも、負傷している……だと?
飛竜と言えば、竜族の中でも高位の存在。
それに傷を付けられるとは、いったい何に? 何が?
『申し訳……ない。こちらは……聖女様のあられる地で……間違いはないで……しょうか……』
『……コハ、僕は聖女様と鉄輪さんを呼んでくる!』
『聖霊王様はお気になさらないから、魔石を使ってあげて!』
「ああ。頼む。俺は飛竜を助ける。……魔石よ、頼む。……跳ぶぞ!」
精霊と聖霊とに応えた俺は、聖女からもらったあの魔石に願う。
すると、俺の体は弾けるように、跳んだ。ふらふらとしていた飛竜は、まだ若いのだろうか。俺よりも小柄なくらいだった。
「今、聖女……様を呼んでいる。若き飛竜よ、意識を保て。そして、体を休めてから話を聞かせてくれ」
『あり……がた……聖……さま……』
安堵したのか、言葉の半ばで気を失ったこの飛竜が何者なのかは分からなかった。
然しながら、聖女を守るために張られた幾層もの聖魔法の対物理と対魔法の防御魔法。
これを抜けられて、俺が救助できたことが、この飛竜が善のものである何よりの証と言えた。
聖女の誕生日まで、残り180日。
この日は、そう。
風雲急が告げられるきっかけとなった日だった。
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