362-いつかの君と俺だった僕の話(14)
あの疲弊していた飛竜は、喜ばしいことに、聖女の聖魔法と鉄輪の手厚い看護で体力を取り戻していった。
もちろん、俺や精霊、そして聖霊達も作物を備蓄したり魔石を掘るなどをして鉄輪の仕事を分担し協力した。
「……コハ、飛竜殿が会いたいと言われているが」
飛竜が降りてきてから10日と何日かが過ぎた時のこと。
鉄輪にこう言われたので、魔力が詰まった果実を手土産に、飛竜のいる洞窟に向かった。鉄輪も一緒だ。
洞窟とはいえども、すぐ近くに清浄な水場と手洗いを用意された快適な空間。
『この度は誠にありがとうございました』
深く頭を下げる飛竜に必要ない、と伝えて果実を渡す。
魔力を湛えた草の寝床。快適そうで何よりだ。
洞穴なのに腰を落としても座り心地が良い。鉄輪が清浄魔法と自動発動の鉱物軟化の魔法を付与してくれたようだ。
『ありがとうございます』
「遠慮せずに食べてくれ」
飛竜にはとりあえず食べてもらい、それから話を聞くことにした。
そう言えば、鱗の色の輝き? と言えば良いのだろうか、その色が助けた時よりも美しくなっていた。……良かった。
飛竜は、聖女よりは大きく、俺よりはやや小さいくらいの大きさ。
『申し訳ない。若輩故に、名乗る名はまだございません。ご遠慮なさらずに飛竜とお呼び下さい』
竜は何百かの時を経て、鱗の色を名乗ることを許されるという。
若い頃の彩りと変化することもあるからというのも理由の一つらしい。
さすがに魔獣国にも竜はいないから、魔力の強い大トカゲから聞いた話なのだが。
「では遠慮なく。飛竜殿。何がございましたか? ご心配なさらずとも、聖女様は腕利きの聖霊獣と共に花畑に行っておられます。貴方へのお見舞いをお願いしたい、と申し上げましたら張り切って向かわれました」
鉄輪が丁寧に会話を始める。
俺は、そうだ、と防音壁を張ることにした。
「……俺が防音壁を張ろう。聖女……様には俺達だけの内々の話をしたので、と伝、お伝えしたら良い」
『ありがたきお心遣い。コハ殿、常の言葉遣いをなさって下さい。貴方様が聖女様の特別な存在であられますことは聖女様の魔力からこの身にも伝わりましてございます故に』
「……そうか。ではそうさせてもらおうか。話はそちらの体調に合わせて行ってほしい」
『もう空を自在に舞えまする。……では』
……それから、飛竜は語り始めた。聖国の愚かな行いを。
「聖女様の村の周囲で?」
『はい、その通りです。正しくは聖女様の村に噂を届かせる様に、ですが』
聖女の代わりにと、魔力を持つ人獣と獣人を集めているらしい。集めている、というよりは奴隷商人や商人崩れから買いあさり、獣人売買の連中を動員しているのだ。
人獣とは、聖国が用いる特殊な呼び方だ。所謂貌が獣のもの達。通常は全て獣人で、魔獣扱くの国民である獣人達もその呼び方を自称している。
聖国では人と獣の要素どちらが多いかすら区別、差別の要素としているのだ。全く、やっている行いを含めて、反吐が出る。
恐らく、他国から依頼を受けた治療、治癒が出来なくて困り果てたあげくの愚策だろう。
聖女が真の聖女になれば、その旨を諸国に告げて聖国の悪行を白日の下にさらせばそれで良いはずだ。
「では、飛竜殿はその獣人達の声をお聞きになられたのですか」
鉄輪が訊くと、飛竜は肯いた。
『私が見掛けましたのは、子どもを
「何を言うのだ。貴方は子ども達を守られた。むしろ誇るべきだ」
鉄輪の声が熱い。俺も深く肯いた。
『ありがとうございます。聖女様のおわす森のことは、恐れ多いことながら、聖霊王様のお示しによります聖霊殿からのお伝えに存じます』
「そうか。とにかく子ども達と飛竜殿がとりあえず無事で何よりだった」
鉄輪の言葉に賛意を示しながら、俺は思考を巡らせていた。
今はまだ良い。
魔獣国にも応援を頼み、対処すれば良い段階だ。聖女には聖霊王様にお言葉を頂けるかを確認してもらおう。
この森の聖霊、聖霊獣達にも頼まなければ。
……だが、問題は。
聖女が16歳となる、その日。
その日を迎えるまで、聖国の愚策はこの程度で済んでいるのだろうか、ということだ。
飛竜という新たな友人、そして仲間が増えた日。
聖女の誕生日までは、正確には、165日だった。
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