363-いつかの君と俺だった僕の話(15)
「よし、頼んだぞ紙鳥」
聖女の誕生日まで、あと160日となった、空が青い日。
飛竜から聞いた話をまとめた紙を鳥の形にして、魔獣国に飛ばした。
雨や風の日よりも、やはり快晴の日の方が紙鳥も嬉しそうだ。
それにしても、魔獣国の凄腕達も目を光らせている筈なのに聖国の中と周辺で獣人狩りや売買を頻繁に行えるという状況……やはり、何かがおかしい。
その辺りも踏まえて魔獣国の皆から何か情報をもらえたら良いのだが。
『コハ殿』
「飛竜殿か」
『殿は要りませぬ』
「ならば俺にも殿は必要あるまい」
『……では、コハ』
「そうだ、それで良い。どうしたのだ、飛竜」
『状況が状況です。故に、我が血族にも念を飛ばしましてございます。……独り立ちの為の期間とはいえ、特例を認められました。状況が落ち着きますまでは全身全霊をもってご協力を』
……確か、飛竜は独り立ちを認められるべく、旅をしていた筈。それを中座してまでとは、ありがたいが。
「良いのか? そうだ、聖女から飛竜の血族殿達に言葉を頂こうか」
『ありがとうございます。それにつきましては、鉄輪殿……鉄輪が既に』
「そうか。さすがだな。では遠慮なく」
鉄輪の知力は、本当に凄まじい。
聖女の聖魔力と鉄輪の知力。あいつは腕力もあるからな。そして飛竜と、一応俺。とにかく、この森は安全だろう。
この森の全ての生と、それから聖女が救いたいと願う全てのもの達。
それら全てを魔獣国に移住させるのは、恐らく女王陛下も否とは仰るまい。
……あくまでも、自由に。
その為に女王陛下はありとあらゆる国からの国交正常化を拒み続けているのだから。
その代わり、侵略などは決してなさらない。王族が民を虐げた時などは民と獣達を全て魔獣国に移される、それだけだ。
場合によっては、本当にそうして頂く必要があるのかも知れないな。
「では、打ち合わせを」
『ああ』
鉄輪の所に行こうか、と飛竜と肯きあった時。
『聖女様が聖魔力を下さった果実が、また戻ってきたよお!』
精霊達が騒ぎ出した。
聖女が聖魔力を与えた果実、とは。
俺が飛竜に渡したものもそうだが、例の転移門……古木のうろを通じて精霊達が聖女からの施しとして聖女の力を求める弱者に届けているものだ。
全ての弱者の声に応えたいと願う聖女の思いを踏みにじった聖国の連中は確かに憎い。
いや、憎いなどでは表現しきれない。
然しながら、聖国の民、周辺の民までもを同等とする様なことは俺達でも有り得ない。
苦肉の策として、聖女が聖霊王様にご許可を頂戴し、このものには、とうろが判断したものには精霊達が果実を渡しに行くという形になったのである。
聖霊王様、精霊王様、幻獣王様を心から敬い、聖女を尊ぶもの。
厳しい選別ではあるが、聖国から聖女を隠している今この時においてはかなりの綱渡りの策でもある。
因みに、この案を聖女に提言したのも鉄輪だ。
「……そうか。残念だ……」
俺達が遅いからと自ら来てくれたらしい鉄輪が明らかにうなだれている。
間に合わなかったのか、転移門の転移外に出てしまったのか。
後者ならいつか、とも言えるのだが、前者だとしたら……。やりきれないな。
『確か、その果実が渡る筈だったものは……』
「ああ、聖国の……獣人だ」
「コハ、飛竜。そろそろ聖女様にもお伝えせねばならぬかも知れないが」
……確かに。
鉄輪の言うとおりだ。だが、まだ。
せめて、魔獣国からの返事が来てから。
そう考えていられたこの時は、それでもまだ、平穏のうちだったのかも知れない。
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