364-いつかの君と俺だった僕の話(16)
「……早いな」
聖女の誕生日まで、あと残り155日。
魔獣国からの紙鳥が森に届いた。
「鉄輪、お前が読んでくれ。聖女への伝達はお前に任せる」
「……分かった」
『……私には構わずに進めてくれ。警戒を終えたら合流する』
『ありがとう』
体調が本人曰く『以前よりも軽快に飛べる』らしい飛竜は現在、かなり遠くまでの警戒飛行をしてくれている。
聖女の大切な村に飛んでくれることもある程だ。感謝に堪えない。
「……コハ、聖女様へ、はとりあえず置いておく。コハがどう感じるか、だ。読んでくれ」
いつも理性的な鉄輪にしては珍しい、怒りをにじませた表情だった。
紙鳥は俺達が読みやすいようにと、紙に戻ってくれている。
「……あいつら……獣人と……民を……何だと……」
書かれていたのは、獣人を洗脳して聖国内の辺境区域や周辺に送り込み、「獣人は人に対して害を為す」という偏見を人族に植え付けるというもの。
……全く。(決して褒めてはいないが)上手く調べたもので、獣人と、それから聖国の連中が言う人獣が人族と友好的に暮らしている地域を狙いうちしているというのだ。
数は少ないが、村長や代表を獣人や人獣が務めている所もある。そのような所ではさすがに排斥はないものの、洗脳されていると知っていて同族やそれに似たもの達を排除しなければならない獣人達の辛苦やいかに。
いや、人族も同様だろう。獣人と心を通わせるもの達は確かにいるのだから。
「……最後に書かれているな。魔獣国としては、無理に魔獣国に全てのもの達を連れて行く訳にもいかない、か。……その通りだな」
「一応、人型を完璧に取れるもの達を聖女様からのご許可を頂戴できるならば、と派遣して頂けるとあるな。ありがたい。本当に、魔獣国と縁を結べて、コハに来てもらえて、良かった。派遣……このことだけでも、聖女様にお伝えしたいが、いいか?」
「お前に任せると言ったろう? 律儀だな。俺は魔獣国に礼の紙鳥を送る。聖女には、許可の証になるものを作ってもらえるように頼んでくれるか? 聖女からの推挙、としたら効力が増すだろう?」
「ああ」
『私も人型を取ることができるもの達に協力を願おう。……それから、コハ』
『何だ?』
『対策への手続きが終わったら、聖女様との時間を取ってくれ。これは私と鉄輪からの頼みだ』
「な……? 俺だけがそのような緩い行いを? こんな時期に?」
「念話ではなく言葉になっているぞ、コハよ。本当に、飛竜の言うとおりだ。俺達二人からの願い。聖女様の御為に、そして、三人の友情の為に、頼む」
「……よく分からぬが……分かった。では、早く対策を進めよう」
「勿論」『ああ、その通りだな』
何故かこの時、鉄輪と飛竜の声が弾んでいた気がした。
その時の俺は、どうしてか、とは問わなかったのだが。
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