365-いつかの君と俺だった僕の話(17)

「本当に? コハの故郷に行けるの?」

 聖国への対策は、かなり迅速に進んだ。


 聖女の誕生日までは、あと150日。


 俺たちが積極的に行ったのは、獣人売買組織は潰せるものは潰し、「恐れるべきは獣人の性質ではなく魔法による洗脳という愚かな行為である」ということを聖女のお言葉として飛竜に伝えてもらうことだった。


 その上で、聖魔力付与済の果実を施し、洗脳されていた獣人は、本来が善であるものについては洗脳を解除してやり、医療機関へ。  

 諸々の更生が必要な場合は魔獣国の施設へ……と、中々に対策は進んでいる。


 聖女の大切なあの村には、魔獣国の中でも敏腕で、更に人型への変化が巧みなものを守護者として派遣してもらえた。

 懸念事項は、獣人売買組織や獣人の洗脳と聖国とを結び付ける証拠が少ないことだ。


 まあ、それでも早期に改善の目処が立ったので、二人との約束通り、聖女に「俺と行きたい場所はあるか?」と訊いてみた。


 すると、冒頭の様に俺の故郷……魔獣国へ行きたい、そう言われた。

 行きたいとはいえ、さすがにそれは無理だろうな、と思いつつ鉄輪に確認したら、なんと、かまわないと言われたのだ。

 それも、たやすい方法があるとまで。


 どんな方法かというと、魔獣国と森のうろは、既に結ばれていると言うのだ。

 もしもの時に、この森に生きるもの全てを転移させる為に粛々と進められていたのだろうか。

 たやすい移動となるまでに、鉄輪はそうとうの苦心をしたのだろうに、彼は、それをこともなげに言うのだ。


 用意が良すぎないか? とは思ったが、俺以外にも聖霊と精霊達が警護役を買って出てくれたし、森のことは鉄輪と飛竜が居るから大丈夫だろうな。


「女王陛下への拝謁は勘弁してくれ。それは、16歳になってからだな」


 女王陛下と王配殿下、そして側近たちには、ただでさえ、煩わしい周辺地域とのやり取りに加えて聖国関連のいざこざにも対応して頂いているのだ。


 それに、拝謁などを願えば、さすがに俺も事務作業の十や二十はやっていけ、となるだろう。

 俺の代わりに事務仕事をしてくれているはずの、王宮勤めの連中の顔が浮かぶ。


「うん、じゃあ、魔獣国の皆さんに贈る聖魔力の果実の種をたくさん作るね! あと、将軍さん達のお墓の近くに植えてもらいたいお花の種も!」


「大丈夫なのか、聖女よ。最近、魔力付与が多いだろう? 魔獣国への書状にもかなりの付与をしてくれていたし」

「大丈夫! 果実への付与も疲れてないよ。本当は、直接、たくさんの人達を癒してあげられたら良いんだけどね」


 まあ、今の聖女の魔力量なら、広い空間に人や獣を集めて一気に浄化、なども可能だろう。


 いや、待てよ。


『鉄輪、飛竜!』

 聖女のお陰で、俺達三人は森の中と周囲であれば念話が可能となっていた。

『……ふむ、確かに魔獣国の近くならば安心か。聖女様が積極的であられるなら、そして、聖霊王様へのお伺いが認められれば、俺は全面的に賛成する』

『私もだ』

 鉄輪も、飛竜も、賛成してくれた。


 俺の思い付きは、成功するだろうか。


 隣に居る聖女に伝えてみたら、「聖霊王様にお伺いしてみる!」とかなりやる気になってくれた。


 俺はただ、良かった、と満足していた。


 だから、聖女が将軍殿の墓参だけではなく、俺の故郷に行きたいと望んだのか、というその理由。


 それを訊いていなかったことには、気づかなかったのだ。


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