357-いつかの君と俺だった僕の話(9)

「とりあえず、君の村に馬で向かえる範囲には奴隷商人や盗賊、人を襲う獣や魔獣はいなくなった筈だ。聖国にも、俺が単身で、一度向かってみようかと思うのだけれど」


「本当? コハ、将軍さんに会えたら私のこと、たくさんお話してきてね!」


 ……え。


『まさか、知らないのか? 将軍殿のことを……』

 今日は鉄輪も聖女の家に来ていて、三人でお茶会としゃれ込んでいた。


 聖女の誕生日まで、あと250日。


 俺達が出会ってからは、50日ほどが過ぎていた。


 魔獣国との情報の遣り取りも円滑になってきている。

 そこで、聖国で聖女と親しくしていた者達の現在の確認と、それから将軍殿達の墓参をと思っていたのだが……。


「聖女様、実は……」

 言いにくそうに、鉄輪が話しかけた。


 それを、聖女が止めた。


「あ、鉄輪さん、大丈夫。私、将軍さんがお空に居るのは知ってるから。聖霊さんと精霊さんが教えてくれたの。ただ、将軍さんと部下さん達がきちんとお休みできる様にしてあげたいから、コハが、こう言ってくれたの、嬉しい。お墓はあるんだけど、国はほったらかしで、将軍さんのことが大好きな人達が手入れをしてくれていて……コハ、女王様にお願いしても、いいかな? 皆が眠れるところをご用意下さいませんか、って。……あ、お礼、どうしよう。私、お金、持ってない……」


「聖女様、よろしければ魔石に聖魔力を込めてお渡しになられたら如何でしょうか。魔獣国の女王様もお喜びになられます。……どうでしょうか」


 ほとんど現世とは関わらない聖霊殿との遣り取りがあるのはさすがだな。


 そして、聖女に金銭を渡さなかった聖国の連中……あいつら、どこまでがめついんだ。


「あ、将軍さんはたくさんたくさん、お金とか宝石とか渡してくれようとしたんだよ? この綺麗な聖女のお洋服も、代わりをもらえないから自分で清浄魔法を掛けてたら、将軍さんが聖女の衣服代? を着服していた? 貴族から取り上げてくれたお金で、同じだけれど生地が違うのを色々準備してくれたの!肌着とかは女官さん達がこっそりと増やしてくれてたの! 自分でも洗濯してたし清浄魔法もあったし! だから清潔だったよ?」


 俺が不快感を表に出していたのが伝わったのか?

 気をつけないといけないな。


「もちろん、素晴らしい礼だと思う。では聖女、皆様が居るところを教えてくれ。俺は皆様を魔獣国の近くに転移させるから。……鉄輪は聖女の護衛と魔石の管理を。そうだ、聖国の民が将軍殿達をいたむことができるように、お墓の代わりになるものも頼む」


「畏まりました」


 まだ敬語なのか? 水くさいな。


「そろそろお前も俺の名前を呼んでくれないか、鉄輪。俺達は、聖女を守る仲間……だろう?」


「……ありがとうござい、ありがとう、コハ。……では、準備をするので、聖女様、よろしいですか?」


「……私には敬語のままなのね」


「仕方ないだろう。鉄輪はこの森の代表。代表が聖女を敬うのは、皆が君を敬うことにつながる。理解をしてあげなければいけないよ」


「……分かった」

 鉄輪が入れてくれた薬草茶を飲み、胡桃の菓子を食べてやっと笑顔になった聖女。


『ありがとう』


 鉄輪から念話でそう言われた。


 そう、俺と鉄輪の長い長い友人関係は、ここから始まったのだ。

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