348-紙綴さんと寿右衛門さんと天幕さんと私
「では、天幕殿。お願い申し上げます」
厳かに寿右衛門さんが礼をする。人型で。
『はい、確かに御身と貴方様の人型をお預かり申し上げます』
ナーハルテ様とカバンシさん達、それから兄上とインディゴがコヨミ王国から旅立ってから数日が過ぎた。
ナーハルテ様達のお見送りに黒白と向かってくれた寿右衛門さんとか、兄上の凛々しいお姿を目の当たりにして、さすがにコヨミさんの末裔そして第三王子として私もそろそろ紙綴さんと向き合わないと、と決意したら、あとはどこでそれを行うか、という話になった。
結局、頼れる伝令鳥寿右衛門さんの英断で、今私達が居るのはコヨミさんと(実は)私のタウンハウスさんの敷地内。
本当はタウンハウスさんに入りたい。入りたいけど。
「緑簾さん、あとは頼んだよ。黒白のこともね」
そう、ついに紙綴さんの内容を知識として知るのだ。だから、魔力が溢れている、というタウンハウスさんの敷地はとてもその場に相応しい。
ただ、コヨミさんと皆さんの思い出がつまったタウンハウスさん自身が紙綴さんの中の頭巾さん(こう呼ぶと寿右衛門さんのお友達だから、親しみがわく)に影響を受けないとも限らない為、敷地だけをお借りすることになったのだ。
借りる、とは他人行儀な、って言われている気がするけど、前回よりタウンハウスさんの魔力を感じられている気がする。
「おうよ、任せな! 主様は安心して綴ちゃんを読んできなよ! ハンちゃんと一緒に礼儀作法勉強しながら待ってるから!」
『意外、というと失礼ですが、落ち着きます』
そう、留守を守るべく、黒白を腕に巻いた緑簾さんは「大体しか分からねえけど求はやっぱり良い奴だったな。良かった!」みたいな感じで第三王子の不在をごまかしてくれると言う。
緑簾さんのこの感じ、好きだなあ。
これから私は、紙綴さんの中身を読ませてもらう。
転移して、読み終えたら戻ってくるというもの。
多分、読むだけなら一日もかからないだろうけど、私への負荷を考えてくれた寿右衛門さんの策だ。
そう、心強いことに、全ての事情を知る寿右衛門さんは一緒に行ける。
黒白は、何か影響があるといけないので、お留守番。
だから、ある意味この世界で一番安心な場所、緑簾さんの腕にいるという訳。
代わりに、リュックさんが私の背中に居てくれるから、安心。ハイパーも中にいるし。
リュックさんは、本来のシマエナガ似の白様マーク付リュック姿だ。
『よろしいですか』
天幕さん……じゃない、タウンハウスさん!
「ありがとうございます、天幕さんに入ったら、紙綴さんを読み始めてもよろしいですか?」
『『『勿論、ご随意に』』』
おお、タウンハウスさん、天幕さん、それに紙綴さん。
「そうさせてもらいます。……では、皆」
『参りましょう』『行こう』
「行ってこい!」『行ってらっしゃいませ』
行ってきます、皆。
紙綴さん、頭巾さん。
そして、聖女様。
コヨミ王国第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ、そして初代国王が末裔、暦まとい。
……貴女様の真実を、拝見申し上げます。
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