第九章
346-初代国王陛下の協力鳥にして転生された第三王子殿下の伝令鳥たる私……そして嘗ての友へ
「じゅったん様、見送りをありがとうございます。朱々は精霊界から直接来て下さるのですわね。……そして、茶色殿、くれぐれもあのお方のことをよろしくお願い申し上げます」
「筆頭公爵令嬢、白黒殿からの連絡はご遠慮なさらずに。我が主も、未来ある若者の学びを輝かしきものとするべく、第三王子として登壇いたしまする。貴方様も、筆頭公爵令嬢そして聖魔力保持者、希有なる全属性保持者としまして偉大なる幻獣王様のお言葉をお受けになられますように」
「精霊王様直参精霊獣殿直弟子たる御身から斯くも有り難きお見送りの辞、承りましてございます」
……誠に美しき礼。
主の最愛たるこの方、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢は、白金のお姿もさることながら、知性やその心ばえなど、全く、内から現れる美しさがおありになる。
筆頭公爵家の長姉の望まれた大国トマリコンへの結婚式への出立という一大事。
多くの耳目もあるために人型で伺った私、雀の伝令鳥寿右衛門。共にと自発的に申し出て下さったのは黒白殿である。
……これは絶対に、主の耳には入れられぬことではあるが。黒白殿に聞いて頂く分にはよかろう。
『この美しさが悪しきものを惹きつけ、興味を持たせねば良いが、というのは我々精霊獣達の共通の懸念であるのですよ』
『分かります。そしてコヨミン様に秘する、ということも。白黒には伝えてもよろしいでしょうか』
『ええ。むしろお願いします』
此度のトマリコン王国への旅路は、聖女様からの縁をお持ちの飛竜殿に選ばれし若き飛竜カバンシ殿がおられるし、幻獣王様のお言葉を頂くことでそれらからの直接の行いを牽制もできよう。
聖女様と頭巾殿の関わりが白日の下にさらされようとしている今ではなく、その前から幻獣王様との遣り取りをされていた我が師、白。
何人にも代えがたきお方、初代国王陛下の末裔たる我が主を見出されたことといい、やはり精霊王様の直参であられる我が師のご手腕には直弟子ながら感嘆するほかはない。
しかも、それらを私の様に聖霊王様と頭巾殿との誓約を存ぜずに行われていたのであるから。
……私自身も、頭巾殿との再会までは昔日のことを忘れていたのだ。誓約と制約の深さを思い知らされる。
「お励み下さいませ」
内心の揺れが伝わらぬ様に細心の注意を払う。
「はい、コヨミ王国筆頭公爵令嬢として、聖女候補として。また、第三王子殿下の婚約者として恥じぬ己で在ります様に、誠心誠意励みます」
「ご立派にございます。こちらはセレン-コバルト殿から、そしてこれは我が主よりのものです。……行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございます……!」
筆頭公爵令嬢が顔に赤味を帯びられたことには、見て見ぬふりをする。
初代国王陛下の協力鳥にして現第三王子殿下の伝令鳥たる私は、紳士でもあるのだから。
……喜んで頂けた様でなにより。
お渡ししたものはセレン殿が更に精緻になられた聖魔力を注がれた我が主の姿絵と、紙綴殿から頂いた魔法紙だ。
魔法紙は念を込めるだけで我が主の元に手紙が届く秀逸な魔法紙である。
そこに、お時間です、と筆頭公爵家の有能なメイド長、巻絹殿がみえた。
時間、とは言いながらも、かなりの目こぼしをして頂いたことは理解しているつもりだ。
巻絹殿、マキ殿はお互いに誇りを持ちながらかけがえのない存在にお仕えする者同士として、友誼を感じている方でもあるのだ。
『行って参ります』
『お気を付けて』
飛竜カバンシ殿の背の豪奢な家紋入りの馬車に乗り込まれる筆頭公爵令嬢。
私はカバンシ殿に念を送る。
『カバンシ殿、我が主の最愛殿をよろしくお願い申し上げます。むろん、他の皆様方も』
『茶色殿、お任せを。こちらも、ハンダの礼儀作法の徹底をお願いできましたら有り難きことでございます。第三王子殿下にもよろしくお伝え下さい』
『承りましてございます』
本来の姿、偉大なる飛竜の姿で筆頭公爵家の皆様方を王国まで送られるカバンシ殿は第二王子殿下と魔道具開発局、それから魔法局が密に遣り取りを行い開発された魔道具を身に纏っておられる。
魔道具開発局と魔法局の局員達は、どちらが上の局か、という嘗ての諍いが嘘の様に、協力関係を構築していたという。
これもまた、彼の功績か。
『ご立派です。いってらっしゃいませ、カバンシ殿』
『行って参ります、茶色殿!』
宵闇色の美しい飛竜が、美々しい白金のご令嬢達を荷や馬とともにその背に乗せ、高く高く舞い上がっていく。
その様子を見送りながら、私は彼、嘗ての友のことを思っていた。
求者殿……頭巾さん。
今、君が選んだ初代国王陛下の末裔殿の最愛が大事を果たす為に旅立ちをなされた。
そして、それを送るのは聖女様に縁のある飛竜殿から道を示された若き飛竜カバンシ殿だ。
もしかしたら、君はこの初代の飛竜殿とも絆が在るのだろうか?
……そんなことを私が夢想してしまう程に、君が過ごしていた孤独な長い月日は報われ始めているのだよ。
私がまた、君のことを、友よ、と呼べる日も近いのだろうか。
そう思いつつ、私は……否、
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