第八章終-転生したら大学準教授秘書でしたが異世界でも王族としての務めを果たせると知りまして微力ながら全力をもって果たす所存。

「チュン右衛門殿、貴殿が変化を自由に行えまするのはこのナワンカの周辺とお思い下さい。よろしければこの鉄、高位精霊にして高位精霊獣たる鉄輪が術をお教えいたしましょう」

 人型で戻って来たチュン右衛門殿にそう申し出られた鉄殿。


「なんと……。初代に教えを授けて下さいました貴方様に? 有り難き幸せ!……ですが、その前にまといさんの思い人をお聞かせ願えませぬか?」

 ……喜びのあとの、この問い。


 やっぱり、覚えていたか……。


『お任せ下さい。まずは貴方様のお気持ちをお伝え下さいませ』

 ……おお、ありがとうございます、鉄殿。


 今更だけれども、俺が念話を認識可能なのもこの空間ならではなのだろうな。


「チュン右衛門殿、……そんなに聞きたいのか?」

「無論です。初代……協力鳥として活躍いたしました初代寿右衛門には遠く及びませぬが、若輩ながらこのチュン右衛門、粉骨砕身! 尽くさせて頂きます!」

「……では、言おう。チュン右衛門殿。俺が思いを寄せているのは、君だ」


「……え」


「あ、いや、獣の時は尊敬していた!これは間違いない! そもそも古の誓約魔法の中で偽りは申せない!……勿論、君に愛する人や雀殿……奥方や奥方鳥? がおられるならばそう言ってほしい」

「……いえ、おりません。私はそもそも、暦家をお守りするという任務に忠実すぎて、雀の中では全く! モテません」


「そうか、それならば考えてみてくれるか? それとも、まといさん……殿の体に居るのは俺なので難しいか?」

「違います! 問題なのは私です! 人型への安定はこれから一意専心! 真剣の上にも真剣に取り組みますが、職も家も、戸籍もない根無し草には厳しいことでございます!」


「ああ、それなら俺の個人資産を……」

「ダメです! 億単位の価値がございますものを私の為になど……」

 ほう、あのきんや宝石や色々、億単位の価値があったのか。


「……いや、その程度しか障害がないのですか? それならば、すぐにでも。因みに億単位の、とは概算ですからそれ以上にも成り得ますよ? 販路はお任せ下さい。預かりの場はこの世界にてこれ以上はなきほどの頼りになる御方のもとにございますので、ご安心めされませい」

「鉄殿、いくら何でもその程度しか、という仰り方は……」


 億以上? についてはあまり言わない方が良いのだろうな。頼りになる御方とは、まさにそうなのであろう。


 コヨミ王国でも貨幣の単位は円なので億単位はさすがにあまり縁がなかった(まあ、多少ならあった)というのも野暮だろう。


「私は戸籍が筆で書かれていた時代よりも以前からこちらにおりますので。協力鳥たる初代寿右衛門殿から当代殿まで、右衛門家の戸籍は存在しておりますよ?」


 ……本当に?

「……私は、どんな名で、職業は……自宅警備員ですか?」

 自宅警備員。

 いや、チュン右衛門さんは姉ぎ、さとり姉さんと俺のあの部屋には住んではいないだろう?


「いえ、高校を卒業後に株式会社ナワンカに勤めて10年目、主任職、今年28歳になりますな。社会保険も全てこちらで。健康診断や予防接種は私が行いました。なあに、行うことは可能なのですよ。ですが、これからはきちんと人の医療機関を受診して下さいね。あ、人間ドックも健康保険から控除されますよ」

 これです、と鉄殿が出されたのは社会保険証だ。


「これが、私……」

「氏名はさすがにチュン右衛門殿とはできませんでしたが、寿忠ことぶきただしさんとしております。住所はナワンカの借り上げ社宅にしました。住所は裏面に書いてありますよ。実際に住まわれても良いですが、ここから転移なら五秒、飛行なら五分くらいですね」


「……ええと、じゃあ、問題は……」

俺は、一応訊いてみた。


「なくなりました、ね。……あとは、お若い方達のお気持ちのみ、ですな」


「……鉄輪殿、王子殿下からお預かりしました品々の管理の仕事は……?」

「あの場所は私の管理下ですから、どうとでもなりますよ。社宅から転移されても良いですし。番をして下さる御方はありがたき方ですし。……良かった良かった! では、異世界にして我々の故郷への伝達の準備をば!……第三王子殿下、この命をお救い頂きましたご恩、生涯忘れませぬ!『キミミチ』次回作には凛々しく美しい王子殿下とご友人達のご勇姿を示しますので、ぜひテストプレイもお願いしたいですなあ!」


 ……え、え?


 とりあえず、異世界への魂の転生を知らされた時よりも俺は驚嘆していた。


 しかし、今更だがこの部屋の空気……。


 もしかして、この屋敷全体が魔力を温存しながら新しく増幅する永久に活動する機関のようなものなのか?

 欄干の模様は恐らく魔方陣で、障子紙の中に透ける模様は……魔草ではないか? しかも、ひじょうな高品質の。


「左様にございます。他の部屋もいずれご案内を。まずは成すべきことを!」

「……とりあえず、私は貴方様の恋人候補として名乗りを上げさせて頂きますことをお許し頂けますでしょうか」


「いや、むしろ俺……私がお願いすることでは?」

「いいえ、貴方様は異世界におかれましても王族としての責務を果たされようと為さるご立派なお方! その恋人役として相応しき雀……男として一人前になりますまでは、恋人と名乗らせて頂く訳にはまいりませぬ!」


「あ、そう……か。まあ、よろしく頼む」

「こちらこそ! 喜色満面! よろしくお願い申し上げます!」


 ……親愛なるコヨミ王国第三王子殿下、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ殿たる暦まとい殿へ。


 貴方に代わりまして御身をお守りする暦まとい……ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ、この世界におきましても王族たる責務を果たせますことを、謹んでご報告申し上げます。


 追伸、ナーハルテ・フォン・プラティウムへ。

 どうやら俺も、ときめきを感じられる方と両思い? になれそうな、そんな今日この頃の様だ。


いつか、君との恋バナ? とやらが出来たら嬉しいな。


 第八章〈終了〉







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