345-古の魔法と俺

 ……聞かれた。聞かれてしまった。

「うわあ……」


 頭を抱えた俺に、鉄殿がこう声を掛けて下さった。


「……取り急ぎ、宣誓の魔法を掛けます。私にお訊きになりたいことがございましたら」


 と、いうことは。

「何をお訊きしても良い、ということでしょうか?」

 自分でも現金だとは思うが、それならば、ということはある。


「いかようにでも、にございます。……では。……宣!」

 鉄殿が宣誓の魔法の印を示された。

 ……いや、しかし……。

 この印、いにしえの聖魔法ではないか?


 魔力は王族にしては皆無、な俺だが座学は割と優秀だったのだ。覚えがある。


「これは……古の宣誓の聖魔法では?」

「はい。……やはり、お分かりになられましたね。素晴らしい」


 とりあえず、言ってしまった事は仕方ない。伺うべきことを伺おう。

「……では。まず、第一に。あちらの世界で俺の魔力が極めて少ないものであったことは、鉄殿達が何かをされた訳ではないのですね」

「はい。赤い石の影響もあるやも知れませんが、本当に偶然にございます。魔力が存在しないのではなく、表に現れない。それは古より確かにございましたことです」


「第二。王立学院高等部入学式で、俺がナーハルテ……筆頭公爵令嬢に代わり代表挨拶を行おうとしたのは、俺が愚かであったからでしょうか」

「……それは、御身のみによるものではない可能性がございます。……当時、聖国からの留学生等はおりませんでしたでしょうか? そちらが何かを為した可能性はございます」


 ……聖国からの留学生、か。

 聖国出身者……。

 教職員等まで確認したら、存在するかも知れないな。あの頃の俺ならば何らかの魔法や魔道具で操られた、ということは有り得る。学院長先生と精霊珠殿のお力をくぐり抜けて? という疑問は残るが、宣誓魔法によるものであるから調査の要はあるだろう。

 まあ、ほとんどは俺自身のせいなのだろうが、あちらにお伝えする術があれば……。


「第三は、召喚大会で、俺が調子に乗ったのは何故でしょう?」

「こちらはほぼ御身によりまする。ただし、高位精霊緑殿が貴方様を評されたことは紛れなき真実に存じます」


「そうですか……」

 やはり、セレンの聖魔法の補助に浮かれていたのか、俺は。

 だが、緑殿が俺を評価して下さったのが真実である事……嬉しいな、これは。


「では、第四を。……頭巾殿、求者殿が不幸な者達を誑かされたかの様に為されていたことは何故に?」

「それにつきましては弁明の余地のなきこと、重々承知してございます。ただ、聖霊王様との誓約によりまして、という縛りがございましたこと……これに尽きまする」


「いや、ありがとうございます鉄殿。確かに。聖女様に対して悪意を持つという言語道断な行い。それを白日に晒す為でございますから、俺……私などには想像も及ばぬこともございましょう。では、言葉を換えます」


 ふう、と一度言葉を切る俺。


「求者殿は、道程は困難でも、最後には良いところに導く、という形で善を行われていらしたのでしょうか。……聖女様のご意志を尊重なされて」


 そう、そうなのだ。


 俺がこちらに来てからのことだが、現在ではまとい殿の魔道具に成られた元々は魔力の少なさにより家から捨てられた方々の御霊であられた黒白殿、一時は道を踏み外す行いをしたが、今では家族とも和解し、厚生施設で教鞭を執るまでになった元魔法局副局長……。


 勿論、酌量の余地の無い者達は断罪され、相応の報いを受けている。


 もしも求者殿がおられなければ……。

 黒白殿は魔道具として生まれ変わられることもなく、元魔法局副局長は魔力至上主義者のまま。しかも、禁地の浄化などは夢のまた夢……?


「……有り難きことにございます。我が友の真意にお気付き頂きましたこと、友に代わりまして、厚く、厚く御礼を申し上げまする……!」

 鉄殿はまた深々と頭を下げられた。

 土下座ではなかった。


「頭をお上げ下さい。疑問は晴れました。実に爽やかな気分です。ですから、とにもかくにも、これらのことをあちらにお伝えする術を俺と共にお考え頂きたい」


「……有り難きお言葉! 然しながら、何かを御身にお返し申し上げませねば!」


 ……何か、何か?

 これ以上のことがあろうか。


 考えてあぐねていたら、足音が聞こえてきた。


「……ただ今戻りましてございます! 先生と別れましてから雀に戻りまして、飛んでまいりました! 私、人型と雀の姿を自在に変えられる様なのです!……ニッケルさ、まといさん! お相手のことをお教え下さい!」


 ……何か、が見付かった。


 先程の俺が吐露した言葉。そのフォローをお願いしよう……。


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