幕間57-精霊王様と我々

「我が直参、白。そして血族が朱色、紅色もこれこの通り、ただ今伝えしこと……これが真のことである。……聖霊王殿と共に掛けし誓約の深さを詫びよう」


 ……精霊界に生を受けしものとして、我が主たる唯一のお方、精霊王様が頭を下げておられる。


 地上の王でも公式の場(勿論私的でもだが)では控えるべき行い。これを制約と誓約を多く求められる我が王が為される為には、心身のどれ程の激痛に堪えておられるのか。

 ならば、我がお伝えすべきは。


「精霊王様、頭をお上げ下さい。御身を顧みられることのなきそのお言葉、この白、承りましてございます。それに、そのご尊顔を拝せませねば、この白はともかく、朱色と紅色が緊張から顔を上げられませぬぞ」

 本当に。

 朱色も紅色も、緊張の故に精霊王宮の魔石の床に同化しそうな勢いで平伏しておる。ここでは我らの語りも会話となる。


 念話も可能ではあるが、全てを読み解かれる精霊王様の御前でそれは不遜であろう。


 ……尤も、思う所がないわけではない。


 あのもの……求者が果たすべく動いていた全てが聖霊王様と精霊王様との約定に基づいていたとは。

 そして、精霊王様はその為に精霊珠殿達をコヨミの国に預けられていらしたのだ。


 更に、精霊王様直参たる我が『気』を安定させるべくこちらの世界に向かってもらおうと画策したもの……マトイは、あちらの高位精霊にして高位精霊獣たる狸のものが選びしものであったとは。

 しかも、周到なことに初代国王コヨミを選んだのも求者……頭巾とそして狸殿であったのだ。


 我は確かに、初代国王を導いた。それは事実。

 だが、あくまでもあちらの高位精霊殿、高位精霊獣殿が選んだ異世界のものをこの白き体で運んだに過ぎぬのだ。


 確かに、狸殿は、高位精霊にして、高位精霊獣であられた。だが、頭巾は……。

 しかも、我が直弟子は強力鳥としての記憶を持っていたのじゃからのう。

 直弟子……茶色も、辛かったことだろう。


 ……我が選んだ、魂の転生人。

 コヨミの血族がコヨミの如き善のものでなかったとしたならば、果たしてどうなっていたのか。


 確かに我がマトイをこちらに……と思いしは偽らざることであったと真実を知りし今でも思う。


 だがそれが高位精霊そして高位精霊獣たる狸のもの……狸殿と求者の遣り取り故に、とはのう。

 そして、あの白金しろがねの王子……あのものも、あちらに向かうべくして選ばれたものであったと。


「白よ。私は其方を心から信頼しておる。例え求めし者が認めずとも、其方が認めたものであれば魂の転生の道を開くことは認められた。それは真のことぞ。それに、頭巾が己の身をもって異世界から連れてきたのは初代国王のみ。此度の第三王子については白、そなたでなくば叶わなかった」


「有り難きお言葉。確かに前回、転生の道を用いずに初代国王コヨミがこちらに導かれたことに疑問を持たずにおりましたのはこの白の不徳。……然しながら、直参たる我でさえ誓約を受けておりましたことは如何とも……。まさか、我ともう一方、直参のもうひとつの方がこちらに戻りましたのは……」


 そうだ。コヨミと共に王国の礎を築いたあのものが精霊双珠殿と入れ替わりに精霊界に戻った理由は……。


「その通り。毛々殿。さすがです。貴方か私か。何れかが全てを知り、こちら、精霊界に戻ると精霊王様がお決めになられました。全てを知る私は精霊双珠殿と代わりましてこちらであの国を見守り、貴方はその羽と脚とで地上をくまなく巡り、新たなものを見極められた。……そして、見事にその大役を果たされたのです」


なえ殿。我が血族と聖霊に連なる紅色の指導、有り難く思う」


 そう、このものこそ我と対等の精霊王様直参。


 コヨミと若き賢竜と共に王国の礎を築いた三人のものの最後の一人。


 聖教会本部大司教百斎の奥方で、騎士団魔法隊隊長千斎の母でもある。そして、紅色の変化の指導者という役も請け負ってくれている。


 無論、最たる役目は精霊王様の助けと成ることだ。真名は禾穀かこく殿。

 数多の穀物の精霊であり、我の真名を知るものでもある。髪と目は美しい若苗色。本人は謙遜するが、夫の血族の初代たる狐の大精霊殿が認めるほどの変化の使い手でもある。


「……あなた方達のお陰で、私も地上に向かえます。我が役は初代様がお務め下さると。……紅色、ここで免許皆伝を伝えます。自由に羽ばたきなさい」

 苗殿の言葉に紅色がぴくりとし、更に深く頭を下げた。


「若き鳥、紅色よ。顔を上げよ。聖女候補を助けてやると良い。そして、朱色。其方も。黒曜石の愛するものを支えてほしい」


「「有り難きお言葉……! この身の全てに代えましても!」」

 同時に、心から叫ぶもの達。


 ……良かった。やっと若いもの達が顔を上げたか。


 やれやれ、それでは、我は苗殿とこれからの打ち合わせをせねばのう。


「そうですね。……まだお助けせねばならない方もおられますし」

 その通り。……聖国におられる、あの方。


「うむ。お主の夫君もその愛刀も、あの方のことを気にしておるしな。……それでも、お互いにこれからはかなり自由に動けよう。誓約を超えられるのだから」

「その通りだ、白よ。精霊界のことは気にするでない。隕石……魔星岩などのことも、こちらに任せよ。聖霊王殿と幻獣王殿に遣り取りが必要ならば、遠慮せずに申すとよい。……では、あとは随意に」

「御意に」


 もう一度、我らは深く頭を下げる。苗殿も共に。


 そして、偉大なる精霊王様は場を去られた。

 我らが自由に出来るようにとのご配慮だ。


 そうじゃ、あの名前。

 ペガサス郵便としてコヨミの国に幻獣王様からの祝福をお与えになられたのも、この為でいらしたのですな、我が王よ。


 ……そう、これからの我らは誓約を超えて、自由に羽ばたけるのだ。


 そしてそれは、あちらの白銀のものと我が直弟子の末裔も、ということ。


 頼んだぞ、狸……鉄輪殿。


 頭巾……求者殿と其方が選びしコヨミの赤き石の末裔と、そのものを守る我が直弟子の末裔のものを。


 そして、待っておってくれ。


 黒曜石の大切なものと、そのものが愛するもの達よ。





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