342-株式会社ナワンカと俺達

「ようこそお出で下さいました。改めまして株式会社ナワンカ社長、くろがねにございます。雀でいらっしゃる時にはよくご存じかと思いますが、こちらが人型のチュン右衛門殿でございます」


「初めまして、一輪松葉と申します。大学で教鞭を執っております。こちらの暦まといの雇い主でもあります。ありがとうございます。では私も。チュン右衛門さん、またイケメンな青年になったんだね」


 「はい、宝物保管の場に着きましたら突風に巻かれ、こちらに移動いたしまして。気付いたらこの姿でした」


 「お疲れだったね」


 看板の前で、鉄輪殿と先生の名刺交換会が始まった。


 それにしても、チュン右衛門さんの人型は変わらず端正だな。


 なんだ、この違和感と胸の鼓動は。

 まさか、緊張しているのか、俺は。


 まあ、それくらいの方が良いのかもな。


 俺も一応名刺交換に加わることにしよう。大学准教授秘書の名刺はあるのだ。


「では、会社にご案内をいたします。紙蝶よ、君はニッケル様に必要事項をお渡ししなさい。ところで先生、お時間は大丈夫でしょうか? 高速道路に繋がる道はこちらのチュン右衛門殿がご案内出来ますが」


「時間? うわ、確かにそろそろ先方と明日の打ち合わせをしないと……。殿下、じゃない、まとい、本当に大丈夫?」


「ええ、大丈夫です、こちらの方とおりますれば何ごとにおきましても問題はございません」


 正しくは、この方はこちらの世界でのあらゆる災禍から俺をお守り下さる方と推察された。


 恐らくだが、誓約があるのだろう。


 誓約は、自ら誓う約束だ。


 まず、魔法が存在しないこちらの世界で魔力を活用されている方が誓約なしで存在されているとは思えない。


 もしも危害を加える可能性があれば、初対面の時に俺かチュン右衛門さんが気付いていた筈だ。

 恐らく、俺を守ることも誓約の一部であられるのだろう。


「その通りに存じます。ご安心下さい。チュン右衛門殿は先生をご案内されましたらこちらに飛んで戻られます」


「……じゃあ、鉄輪殿。を頼みますよ?」


「命に代えましても」

くちばし打法……チュン右衛門さんも、大丈夫なんだね?」


「はい、先生。このお方は大丈夫です。コヨミ王国の初代様をあちらに送られた高位精霊獣殿ご本人でございます」


「分かったよ。『キミミチ』ユーザーとしては信頼しないといけない人、ってことだね? じゃあ、行ってくる! 明日の迎えが必要なら連絡して。必要なくても連絡はするんだよ?」


「分かりました。お気を付けて」


「行こう、チュン右衛門さん」

「はい。多少は私からもお話できますので」

 「頼むよ、じゃあ、またね」


 「はい」「いってらっしゃいませ」


 一輪先生達を見送ったあとに示されたのは車中から見えた看板に書かれていたナワンカの文字が表札にされている木造平屋建の古民家。


 飲食店と言われたら納得する、味のある建物だ。


 こちらでいう、知る人ぞ知る蕎麦屋、とかの雰囲気。


「プロパンガスと電気、井戸水を濾過した水道と浄化槽の水洗トイレもございますから安心なさって下さい。魔法は害獣対策には使用しております。お食事もお出しできますよ。あ、害獣とは鹿や猪などです。狸は私の支配下ですし、熊くらいなら魔法を用いずとも倒せますのでご安心下さい。ああ、あちらの害魔獣はいませんから大丈夫ですよ。さあ、どうぞ」


 これは、異世界ジョーク、とでも言うべきなのだろうか。


 確かに、こちらの世界にあちらの魔獣、暴れ牛でも飛び込んできたらどんなことになるのだろうな。


 ふむ。

 こんな風に考えられるくらいには、俺はこの場に警戒をしていないということなのだろうか。


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