341-紙蝶殿と俺達

「これ、道か? ナビは正しいけど。殿下、悪いけど今、スマホ使える? 地図は置いて検索よろしく! 『キミミチ』のワナンカに聖地巡礼してみた! みたいな感じで検索、やってみてくれない?」


 車を運転しながら一輪先生が俺に言う。


 大学から二時間程走って、高速道路も降りた後。


 最寄り駅とやらはとうの昔に視界から消えている。


 そして、一応、車で走ることはできてはいる。


 だが、これだけ険しい道だと、俺の感覚では魔馬でもなければ厳しいのでは、と思わされるような道? なのだ。


 実際、舌を噛みそうになるくらいの振動だが、それは多分、紙蝶殿が吸収してくれているのだろう、何故か会話には不都合がなかった。


 因みに、スマホは一応使えた。


 地図アプリも正しい位置情報なのを確認してから先生の指示通り検索してみたら……あった。


 「声優イベントとか全然ないのでせめて遠くから会社を確認してみたかったけれど、とてもじゃないけど歩けない山の中で諦めた」や、「スマホの地図アプリも使えなかった」とか。


『キミミチ』愛好者達の嘆きは幾つか出てきた。


 そうやって確認をしてみたところ、どうやら俺達は愛好者達に比べれば、まだ目的地に進めているみたいだ。


 そもそも山の中、ではないしスマホの地図アプリも使えている。


頼み、してみる?」

 減速した一輪先生が呟く。


 そうだ、そう言えばナワンカの社長殿も言っていた。


 ……お伺いしてみるか。

 だが、術者が俺なのだから、期待はしないで頂きたいが。


『紙の蝶よ、道を』


 驚いた。


 念を送ると、紙蝶殿が車内をひらりとされた後に、車外に出て行かれたのだ。


 すると、明らかに道ではない、林の中から車道が出現したではないか。


「え、これ、本当に魔法……? 舗装道路なんだけど。ナビも、株式会社ナワンカまでは約1㎞って。蝶……さんも前で先導してくれてるし、とりあえず行くよ?」


 まさか、俺が念を使えるとは……。


 王宮の魔法学教師が見たら歓喜の涙を流して喜んでくれるのではないだろうか。


『きっとそうだよ、ニッケル君。メイドさんも執事さんも剣術の練習を頑張った君の手の傷を治してくれた王宮医師さんも、王宮の魔法の先生も、皆、君を大切に思ってくれている。それに、慰問先の子ども達の中にもちゃんといたよ。ナーハルテ様だけではなく、第三王子にありがとう、って言っていた子が』


 ……え。


「……こよみん? こよみんだよね、今の!」


「はい、確かにまとい殿の声……。いや、俺の声ですが、でも……」


「『キミミチ』のまぬけ王子よりも声が良い……。けど、話し方で分かるって! こよみんだよね、これ! 蝶さん、ナワンカに着いたら色々教えてくれるんだよね?」


 一輪先生の言葉を肯定するかの様に紙蝶殿はひらり、と舞われた。


 その瞬間。


 明らかに開けた場所に、株式会社ナワンカの看板の文字が見えてきたのだった。



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